超芸術と摩損

さまざまな社会問題について発言していくブログです。

「やってない暴力行為まで息子のせいにされた」“イジメ冤罪事件”を引き起こした中学教師の「雑すぎる対応」とは

2023-09-18 02:41:08 | 週刊誌から
 いじめが起きた時に、学校がそれを「なかったこと」にする隠蔽問題はもちろん深刻である。その一方で、十分な事実確認をせず、やっていないいじめの罪を学校に着せられて、生徒が加害者に仕立てあげられてしまう「いじめ冤罪」とでも言うべき不適切な指導も存在する。

 発端は、2017年の5月に愛媛県新居浜市の市立中学校の2年生だったAくん(仮名)が日記にいじめについて書いたことだ。Aくんは日記の中で所属していたサッカー部内での「足を踏まれる」などの嫌がらせを訴え、それを担任である顧問が読んだことで問題が発覚した。

 当時の顧問の説明によると、放課後にサッカー部で部員たちに確認すると、3人の生徒が「心当たりがある」と名乗り出たという。

学校の説明がコロコロと変わる
 その3人のうちの1人、ツトムくん(仮名)の母親に話を聞くことができた。

「5月11日にサッカー部の顧問の先生から電話がかかってきて、ツトムがAくんを叩いたという話を聞きました。帰ってきたツトムに話を聞くと、部活が終わってグラウンド整備をしている時に、Aくんが立ったまま動かないことがあったそうです。それで『サッカーボールが飛んできても危ないと思って肩を叩いた』と話していました。たしかに肩を叩いたのは良くないですし、顧問の先生が『Aくんの保護者に電話で謝罪してください』と言われたので電話をして謝りました。それで話は終わると思っていたのですが……」

 いじめ防止対策推進法は、いじめの定義を「当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と広く捉えている。

 ツトムくんもAくんに1度“肩パンチ”を加えたことを認めており、これが「いじめ加害」として指導の対象になったこと自体には、一定の理由がある。

 しかし、事態はそれに留まらなかった。

「もう一度顧問から電話があり、『被害生徒の保護者が、対面で謝ってもらわないと許せないと言っている』と伝えられました。学校へ行き、謝罪をしました。このときも、被害生徒側の訴えの確認が取れていなかったのですが、謝罪しました。そして7月に、Aくんの保護者から内容証明の書類が届いたんです」(同前)

 内容証明には、ツトムくんを含む加害生徒3人がAくんに対して、足を踏む、殴る、蹴る、砂を投げるなどの暴行をほぼ毎日続けたという主張が書かれていた。Aくんは通院を余儀なくされ、強いストレスを感じているとも書かれていた。

「内容証明を受け取って驚きました。ツトムに聞いても、『1度だけ肩パンしたことはあるけど、蹴ったり砂を投げたりしたことはない』と言います。しかしそれを伝えても話は平行線でした。ただ2018年からAくん側がツトムたち3人を訴えて始まった裁判は和解になり、『ツトムはAくんに肩パンチをしたことについては謝罪するが、継続的な暴行には全く関与していないこと』が認められたんです」(同前)

「やっていないいじめまでツトムのせいにされてはたまりません」
 一体なぜこんなすれ違いが起きたのだろうか。ツトムくんの母親は、学校の対応が最初からおかしかったと主張する。

「Aくんの日記には、いじめた生徒の名前は書いてなかったそうです。もちろんツトムのことも書いていません。そして、学校側の説明が、毎回違うんです。『Aくんが日記に書いたいじめの内容を読み上げたら加害者3人が名乗り出た』ということもあれば、Aくんがツトムの名前を言ったということもあった。結局、まともな事実認定もしないでツトムがいじめの加害者だと決めつけたんです。

 ツトム自身もAくんに肩パンチをしたことは反省していました。確かにそれは良くないことなので親の私も謝罪しましたし、ツトムにも謝らせました。でも、やっていないいじめまでツトムのせいにされてはたまりません」

 2018年9月には今度はツトムくんと保護者が新居浜市に対して、サッカー部の顧問の言動で名誉を毀損され、精神的苦痛を受けたとして裁判を起こした。

 2022年3月に成立した和解では「ツトムくんが被害生徒に対して肩パンチだけをしたこと」「ツトムくんが肩パンチ以外のいじめをしたかのような印象を周囲に与えかねない状況が生じたこと」「その精神的な苦痛によって訴えを提起するに至ったこと」などについて学校側が真摯に受け止めるように求めている。つまり、ツトムくんのいじめ行為は事実認定されなかったことになる。

 この裁判の中で、ツトムくん本人が弁護士に伝えたメモがある。

<以前に、顧問のボールが被害生徒に当たったことがあるので、危ないと思ったので、どいてもらいました。なぐる、けるという暴行を行ったかを聞かれたことはありません。そして、していません。お友達として肩パンチなどをしてすみませんでした、と言いました>

 ツトムくん本人に今の気持ちを聞くと、「顧問が僕の名前を出してしまって、後にひけなくなったのやろうと思います。1度肩を叩いてしまったことは申し訳なかったと今でも思っています。Aくんから僕の名前が出たかどうか、本当のところを知りたいです」と話した。

「息子は自分がやっていないいじめ行為まで責められて、傷ついたと思います。学校にはなんとか行けていましたが、周囲の目が気になっていたはずです。親ですから子供のことを守ってあげたいけれど、学校側がこんな様子では信頼できるはずがありません。学校側と何度も話し合いましたが、一言の謝罪もありませんでした。犯人扱いをしてしまって申し訳ないという意識はないのでしょうか」(ツトムくんの母親)

Aくんが自殺未遂を起こし、半年のあいだ不登校に
 問題の解決が長引いた影響もあったのか、Aくんは2017年10月から不登校になり、11月には学年主任の教員との間で起きた修学旅行についてのトラブルをきっかけに自殺未遂事件に及んでいる。一命は取りとめたものの、翌年の4月までほぼ登校することができない状態になってしまっていた。

 いじめの訴えに端を発した出来事が中学生の自殺未遂・不登校にまで至ってしまった事件だが、学校や新居浜市の教育委員会は「いじめ防止対策推進法」による「重大事態」の認定をせず、第三者委員会も設置されていない。このずさんな対応は読売新聞やNHKに報じられて大きな話題になった。ツトムくんの母親と連絡をとっていた中で、この報道がツトムくんの件だということを教えてもらった。

 それを受けて新居浜市の高橋良光教育長に取材を申し込むと「報道の内容(ずさんな対応)自体は事実だが、事案を公表していないので、それがAくんが被害にあったケースかどうかはお答えできない」「(Aくんのケースについては)6年前のことですから時間をかけて精査していきたい。いろいろな対応をしていくことが必要」と回答した。

 いじめ冤罪のケースでは、加害者と疑われた生徒が自殺に追い込まれたケースもある。調査をすると決まったら、いじめ被害の内容だけでなく、いじめ冤罪という不適切な指導もきちんと調査すべきだ。

渋井 哲也

文春オンライン
9/12(火) 8:12配信
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ALTが驚いた 日本の体罰 生徒突き飛ばし 肩わしづかみ 怒号・威圧―― 「暴力的でなく 会話で考えさせるのが教育」

2023-09-04 16:55:58 | 新聞から
 中学校の職員室で男性教師が生徒を腕で突き飛ばした。肩をわしづかみにして大声で怒る。
 愛媛県新居浜市内の中学校で外国語指導助手(ALT)をしていた米国人男性は、衝撃的な光景だったと訴える。7月にALTの任期を終えたが、「このような体罰はなくなってほしい」と朝日新聞の取材に語った。
 米国人男性は2018年に来日。市内の中学校でALTとして勤務し始めた。「事件」は3年目にあった。
 男性教師が職員室の出入り口の扉近くに男子生徒たちを立たせ、そのうちの一人を壁際に突き飛ばした。さらに別の生徒の学生服をつかみ、低い声で脅していた。
 日本語が詳しく理解できず、何に怒っているのかは分からなかったが、「生徒はうつむいて怖がっている。教師に殴りかかろうとしているわけでもない。ひどい」。近くにいた他の教師たちが止めようとしなかったことにも驚いた。
 携帯電話のカメラで一部始終を撮影した。日本で働くALT仲間に動画を見てもらうと、「ここまでの体罰は見たことがない」と言われた。さらに、自分やこの男性教師、被害生徒らが異動や卒業で学校を去った昨年末、米国人や英国人が大半のSNSのフォロワーにも意見を聞こうと、動画を公開し、反応を探った。
 その後、市教育委員会にも知られ、呼び出しを受けた。「動画の削除要請を受け、どうして当時報告をしなかったのかと逆に問い詰められた」と市教委への不信感も示した。
 朝日新聞もその動画を確認し、市教委もALTとのやりとりなど事実関係を認めた。
 新居浜市の高橋良光教育長は「(男性教師に)指導して二度としないと約束し、他の学校も含めてこういうことがないように約束できたら動画削除は可能か(ALTに)尋ねた。消せと指示したわけではない」と釈明した。県教委にも報告し、男性教師は処分を受けたが、懲戒処分ではなく、公表はしていないという。
 ALTは米国で6年間ほど、高校教師をしていた。世界的に評価されている日本の教育制度を学びたくて、ALTに応募した。
 今回のようなことが出身の米国の州で起これば、すぐに何が起こったのか校長や警察に報告が求められる。「過度な力の行使」があった疑いがあれば、教師は一時的に他の学校に移されることもありえる。
 「教師が行為を認めたり動画などの証拠があったりすれば、解雇や資格剥奪となる。被害生徒の両親や自治体が教師を提訴することもありえる」
 その後もALTとして日本の文化や慣習に接し、この男性教師は、教育の一環として怒ったふりをしながら体罰をしたのかもしれない、と思うこともあった。「しかし、生徒がどんなに悪いことをしたとしても、暴力的な態度に出ていないなら、教師も暴力的ではない姿勢で応じるべきだ。生徒の行動がなぜいけないのか、体罰ではなく会話によって考えさせるのが教育だと強く思う」と話す。
 関係者に配慮したいと、ALTは匿名を希望している。この件が報じられれば、自分に報復のようなことがあるかもしれない、とも感じた。しかし、「そうした怒りは私に向かうべきものではない。この教師や体罰そのものに対して向けられるべきだ」と考えている。(神谷毅)

本田由紀・東大大学院教育学研究科教授
余裕ない現場 投資必要

 「体罰」は暴力行為であり、怒号や恫喝はパワハラである。教育現場には威圧があふれている。
 大人数の生徒や児童を日々相手にする教員は、暴力やパワハラによって圧倒しないと「しめし」がつかず、秩序が守れなくなるという脅威を感じている。加えて教員自身に多忙と疲労によるストレスがあり、行動に表れがちである。
 これは生徒間の関係にも波及する。不登校や自殺が増加している背景には、余裕なくすさんだ教育現場の実情があると推測される。
 さらに学校のみならず、政治でも、企業でも、家庭でも、SNSでも、店舗でも、「マウンティング(優位性の誇示)」や「アグレッション(攻撃)」がありふれた行動になっている。
 このALTのように、「それではだめなのだ」という感覚と行動を取り戻してゆかなければ、「すさみ」は果てしなく進行してしまう。
 結局、根源をたどれば「すさみ」を広げているのは教育政策だ。教員を増やして少人数学級にし、ゆとりを生み出すといった抜本的な対策を打とうとしていない。ごまかしの策では解決できない。教育現場への投資が必要だ。

朝日新聞2023年8月31日
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