超芸術と摩損

さまざまな社会問題について発言していくブログです。

「万波医師」問題で訴えられた「移植学会」幹部の忘れたい過去

2009-01-23 21:59:04 | 週刊誌から
 宇和島徳洲会病院の万波誠医師(68)が行った「病気腎移植」騒動から2年余。いま、移植患者や医療関係者の批判の矢面に立つのは、当時、万波医師を厳しい言葉で糾弾した「日本移植学会」の幹部たちだという。

 愛媛県の移植腎患者ら7人が、移植学会幹部5人を相手に、6050万円の損害賠償を求める訴えを松山地裁に起こしたのは、昨年12月10日のこと。万波医師のやり方には"医学的根拠がない"とした学会の声明を受けて厚労省が病気腎移植を原則禁止としたことで、"生存権と治療の選択肢を侵害された"というのが原告側の主張だが……そもそも学会幹部には万波医師を批判する資格がない、そんな声が訴訟を機に噴出しているのだ。
「例えば、市立宇和島病院の内部調査委員長を務めた元移植学会理事長、深尾立・千葉労災病院院長は、日本の脳死移植に汚点を残した人物なのです」
 そう指摘するのは精神科医の和田秀樹氏である。深尾氏は万波移植を"倫理面で当然守るべき体制が整っておらず、行ってはいけなかった"と断罪したが、
「深尾氏自身が筑波大学助教授時代の84年、脳死のガイドラインも定まらぬ段階で脳死移植を強行し、殺人及び傷害致死で刑事告発されているんです」(同)
 当時、この告発に携わった弘中惇一郎弁護士も、
「脳死を人の死として認めるかどうかの議論以前に、あの手術には問題があった。①脳死判定が杜撰、②ドナーの患者さんには夫の顔も認識できないほどの精神障害があり、脳死での臓器提供を本人が判断できる状況ではなかった、③移植ありき、でドナーの治療行為が適切に行われなかった可能性がある――筑波大の脳死移植は、患者のためというより功名心でやったと疑わざるをえない案件でした」
 再び、和田氏が言う。
「このとき行われた膵臓と腎臓の同時移植は、国内でまだ成功例がなかった上、深尾医師は膵臓移植を1例も経験していなかった。結局、数カ月で膵臓も腎臓も機能しなくなり再摘出、縫合不全などが原因で、移植を受けた患者さんも1年で亡くなっている。それに対して、万波医師の場合、腎移植の技術は確立されています。倫理上、どちらに問題があるかは明らかでしょう」
 移植学会幹部の"忘れたい過去"は、まだある。06年当時、副理事長だった大島伸一・国立長寿医療センター総長は、万波医師の病気腎移植を〈医学的には考えられない〉と痛烈に批判していた。だが、わずか1週間後、藤田保健衛生大学病院で91年頃行われた病気腎移植に自身が関与していたことが報じられると、〈病気腎移植を一律にだめと言うのではなく、個々のケースについて議論していくべきだ〉とトーンダウン。
 当時の学会理事長で、大島氏とともに今回の裁判の被告に名を連ねる田中紘一・先端医療振興財団先端医療センター長は「ドミノ移植」を始めた人物で、病気腎移植との類似性についてこれまで度々指摘されてきたが、田中氏は、
「ドミノ移植については、20年後に病気が発症する可能性など患者さんにきちんと情報提供しているし、移植後の検査も毎年実施しています。病気腎移植とは全体像が異なります」
 と説明する。だが、深尾氏の事件について尋ねると、
「医師の倫理観は人それぞれですから……」
 と歯切れが悪いのだ。
「結局、お偉い学者先生はお咎め無しで、町医者は槍玉に挙げるというのが、日本移植学会の歪んだ実情なんです」(先の和田氏)
 その皺寄せで地獄を見るのは患者ばかりなのである。

週刊新潮09年1月22日号
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