7時間遅れでもカップ麺ひとつ、機内で車、不動産販売…
唯一の国内定期路線(スカイマーク神戸便)がわずか四カ月で撤退する茨城空港に、七月二十八日に新たなエアライン「春秋航空」が就航する。
超格安が売り物という春秋航空だが、実は、中国国内でも苦情頻出の曰くつきの会社だというのだ。
このたび、就航する上海―茨城便は、同社にとって初めての国際便。予定では上海との間を月・水・土の週三便運航。当面は二カ月間のチャーター便で、上海からの団体ツアー客を運ぶが、一~二割は日本向けにチケットが売られる予定。
王正華社長は、最も安いチケットで往復四千円程度(座席・時期などによる)から販売するという構想を語っている。
これまでも春秋航空は、たとえば上海―青島問で、他社の二百七十元から六百六十元(約三千五百円~八千六百円)に対し、九十九元(約千二百九十円)の激安チケットを発売してきたが、問題なのは、その運航状況。「すぐ遅れる」「サービスがひどい」とのトラブルが続出しているのだ。
そこで、茨城進出を前に、中国で実際に搭乗してみた。乗り込んだのは上海―昆明便。エアチケットはスーパーのレシート並みの紙質、出発ロビーも上海虹橋空港に新築された新ターミナルではなく、古めかしい「旧ターミナル」と、早くも格安感満点である。
そもそも、この春秋航空の場合、飛び立つまで気が抜けない。過去には夜九時台の便が七時間も遅れ、乗客は翌朝四時まで空港に取り残されるも、チケットの返金もなく、与えられたのはカップ麺ひとつだけ、という「事件」も起きている。
早朝便に乗るべく無料送迎パスをネット予約したものの、指定された乗り場にとうとうパスすら来なかった、という前例も。
また別のケースでは、払い戻し拒否に怒った乗客八十人が抗議のため空港に居座るも、無視して飛行機は出発、警察トラブルに発展した。それでも春秋航空スタッフは「安いのにはわけがある」と反省の色はまるでない。
遅延の主な要因は、同社が運航スケジュールに対して充分な機体数を保有していないこと。少ない機体をフルに使いまわすので、上海と目的地をその日のうちに往復するために、着陸後一時間以内に、お客を乗せて再び離陸というタッチ・アンド・ゴーのような強行スケジュールも組まれている。機材メンテは大丈夫なのだろうか。
今回はわずか四十分の遅延に留まり、胸をなで下ろすが、乗け込んだエアパスA320の機内を見まわすと、新たな不安が。
どうやらこの機体、相当な「ベテラン」らしく、一部の座席ポケットが破れ、シートは客の落書きだらけ。イヤフォンジャックとボタン類は動かず、テレビも消えたまま。トイレの便器は塗装が剥がれていた。全席エコノミーで座席間隔は狭く、メタボな客なら腹にテーブルが食い込む。
離陸し安定飛行に入ると、今度は機内販売の嵐だ。CAが大音量のハンドマイク(しかも音が割れている)で「ジャパネットたかた」風にまくし立てるため、眠れない、休めない。いわば“空飛ぶ監禁商法”状態で、乗客が「休ませろ」と抗議文を連名で突きつけたこともあるという。
最前列には機内販売時に一時的に商品を置くため、乗客が席に座ろうとすると、「座るな」とCAに注意されていた。乗客よりも商品が大事? 「販売時間終了まで残り三十分!」「残り二十分!」と畳みかける売り声は、まるで「競り市」だ。気流が乱れてシートベルトサインが点灯しても、CAは販売を続行する。
しかも売られている商品がまた問題。中国メーカー「POVOS」のシェーバー(百九十九元)は「日本直輸入」と紹介され、ディズニーの水筒(三十元)については、「偽物かどうか心配な方、ご安心ください。中のステンレスは韓国製です」とCA。いや、そういう問題では……。後日、メーカーサイトで確認してみたが、この製品は見つからなかった。マッサージ枕の宣伝文句は「(飛行機が)五時間、十時間遅れたときに大活躍!」って、もはや開き直りか。おまけに「二百元が百元に!」と強調するが、ネットでは二十八元で売っていた。
「皆さんの向かう昆明は暑いので水筒が活躍します」(この時期、昆明は涼しい)
等々、微妙な嘘も交えて売りまくる一方で、食事や飲み物のサービスはゼロ。全て有料で「午後の紅茶」六元、「味つきゆで卵」二元と市価の二倍。インスタントのお茶は四十元で、市価の四倍もする。
「飛行機を飛ばすだけでは儲からないから、販売をしている。売上高の七%を販売が占める」という同社は、今年中には、不動産や自動車の機内販売も始めるという。
さらには仰天の計画もあった。昨年六月、低価格および乗客数増を図るため、なんと「立ち乗り便」をブチ上げたのだ。座席をなくし乗客を詰め込むことで、四〇%以上の乗客増が見込めるというが、今年七月、さすがに中国当局、航空機メーカーの反対に遭い、計画は頓挫した。
茨城空港は、遅延トラブルなどの「悪評」について、「特段、詳細な情報を得ていないが、ローコストキャリアになれていない人にはとまどいもあるかもしれない。コストを切り込んでやっていると思うので、細かなサービスまでは行き渡らないのでしょう」とコメントするが、安全面の確認だけはくれぐれも慎重にしてほしい。
週刊文春2010年7月29日号
唯一の国内定期路線(スカイマーク神戸便)がわずか四カ月で撤退する茨城空港に、七月二十八日に新たなエアライン「春秋航空」が就航する。
超格安が売り物という春秋航空だが、実は、中国国内でも苦情頻出の曰くつきの会社だというのだ。
このたび、就航する上海―茨城便は、同社にとって初めての国際便。予定では上海との間を月・水・土の週三便運航。当面は二カ月間のチャーター便で、上海からの団体ツアー客を運ぶが、一~二割は日本向けにチケットが売られる予定。
王正華社長は、最も安いチケットで往復四千円程度(座席・時期などによる)から販売するという構想を語っている。
これまでも春秋航空は、たとえば上海―青島問で、他社の二百七十元から六百六十元(約三千五百円~八千六百円)に対し、九十九元(約千二百九十円)の激安チケットを発売してきたが、問題なのは、その運航状況。「すぐ遅れる」「サービスがひどい」とのトラブルが続出しているのだ。
そこで、茨城進出を前に、中国で実際に搭乗してみた。乗り込んだのは上海―昆明便。エアチケットはスーパーのレシート並みの紙質、出発ロビーも上海虹橋空港に新築された新ターミナルではなく、古めかしい「旧ターミナル」と、早くも格安感満点である。
そもそも、この春秋航空の場合、飛び立つまで気が抜けない。過去には夜九時台の便が七時間も遅れ、乗客は翌朝四時まで空港に取り残されるも、チケットの返金もなく、与えられたのはカップ麺ひとつだけ、という「事件」も起きている。
早朝便に乗るべく無料送迎パスをネット予約したものの、指定された乗り場にとうとうパスすら来なかった、という前例も。
また別のケースでは、払い戻し拒否に怒った乗客八十人が抗議のため空港に居座るも、無視して飛行機は出発、警察トラブルに発展した。それでも春秋航空スタッフは「安いのにはわけがある」と反省の色はまるでない。
遅延の主な要因は、同社が運航スケジュールに対して充分な機体数を保有していないこと。少ない機体をフルに使いまわすので、上海と目的地をその日のうちに往復するために、着陸後一時間以内に、お客を乗せて再び離陸というタッチ・アンド・ゴーのような強行スケジュールも組まれている。機材メンテは大丈夫なのだろうか。
今回はわずか四十分の遅延に留まり、胸をなで下ろすが、乗け込んだエアパスA320の機内を見まわすと、新たな不安が。
どうやらこの機体、相当な「ベテラン」らしく、一部の座席ポケットが破れ、シートは客の落書きだらけ。イヤフォンジャックとボタン類は動かず、テレビも消えたまま。トイレの便器は塗装が剥がれていた。全席エコノミーで座席間隔は狭く、メタボな客なら腹にテーブルが食い込む。
離陸し安定飛行に入ると、今度は機内販売の嵐だ。CAが大音量のハンドマイク(しかも音が割れている)で「ジャパネットたかた」風にまくし立てるため、眠れない、休めない。いわば“空飛ぶ監禁商法”状態で、乗客が「休ませろ」と抗議文を連名で突きつけたこともあるという。
最前列には機内販売時に一時的に商品を置くため、乗客が席に座ろうとすると、「座るな」とCAに注意されていた。乗客よりも商品が大事? 「販売時間終了まで残り三十分!」「残り二十分!」と畳みかける売り声は、まるで「競り市」だ。気流が乱れてシートベルトサインが点灯しても、CAは販売を続行する。
しかも売られている商品がまた問題。中国メーカー「POVOS」のシェーバー(百九十九元)は「日本直輸入」と紹介され、ディズニーの水筒(三十元)については、「偽物かどうか心配な方、ご安心ください。中のステンレスは韓国製です」とCA。いや、そういう問題では……。後日、メーカーサイトで確認してみたが、この製品は見つからなかった。マッサージ枕の宣伝文句は「(飛行機が)五時間、十時間遅れたときに大活躍!」って、もはや開き直りか。おまけに「二百元が百元に!」と強調するが、ネットでは二十八元で売っていた。
「皆さんの向かう昆明は暑いので水筒が活躍します」(この時期、昆明は涼しい)
等々、微妙な嘘も交えて売りまくる一方で、食事や飲み物のサービスはゼロ。全て有料で「午後の紅茶」六元、「味つきゆで卵」二元と市価の二倍。インスタントのお茶は四十元で、市価の四倍もする。
「飛行機を飛ばすだけでは儲からないから、販売をしている。売上高の七%を販売が占める」という同社は、今年中には、不動産や自動車の機内販売も始めるという。
さらには仰天の計画もあった。昨年六月、低価格および乗客数増を図るため、なんと「立ち乗り便」をブチ上げたのだ。座席をなくし乗客を詰め込むことで、四〇%以上の乗客増が見込めるというが、今年七月、さすがに中国当局、航空機メーカーの反対に遭い、計画は頓挫した。
茨城空港は、遅延トラブルなどの「悪評」について、「特段、詳細な情報を得ていないが、ローコストキャリアになれていない人にはとまどいもあるかもしれない。コストを切り込んでやっていると思うので、細かなサービスまでは行き渡らないのでしょう」とコメントするが、安全面の確認だけはくれぐれも慎重にしてほしい。
週刊文春2010年7月29日号