心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

アタフター・パーソン・センタード

2006-10-19 13:41:09 | 心理療法一般
皆さん,こんにちは。僕だ。psy-pubです。
久々村上春樹にやられていて,あんな軽妙なことを20歳くらいの男が言うわけないじゃんと思いつつ,読了したところなんだ。というわけで,今日はハルキ的な世界に突入しよう……と思ったんだけど,やっぱりそれはやめておいて,「パーソン・センタード・セラピー」の感想文を書くこととします。

皆さんご存知だろうと思うけれど,「パーソン・センタード・セラピー」という本がある。これだ。


パーソン・センタード・セラピー―フォーカシング指向の観点からパーソン・センタード・セラピー―フォーカシング指向の観点から
キャンベル パートン Campbell Purton 日笠 摩子

金剛出版 2006-09
売り上げランキング : 118810

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



nanaさんのところで,発刊直後でレビューされているから,
今さら僕が書くこともないんだけど,でも,まあ,やれやれって感じで読んでくれると嬉しい。

それから,わからかもしれないけれど,いま,一応,村上春樹風に書いている。一応っていうのは,仁王でも三王でも,ついでに言えば,硫黄でもなく,いわゆる一応で,とどのつまり,ま,こっちが思い込みでなりきってやっているというのに近いんだけど,でも,人生って結局,ジャニス・イアンの音楽みたいなもので,たどたどしくも力強いんじゃないかと思う。気の効いた警句を吐くことは出来ないけれどね。

では,感想文の話に戻ろう。

僕はこの本を読了した。数週間前のことだ。それからちょっとたって,昨日の昨日に村上春樹の『アフターダーク』を読了したわけだけど,それで読んでいる最中から,僕はずっと,この「パーソン・センタード・セラピー」の本のことを考えていた。正確に言えば,この本のことをブログで書くであろう自分のことを考えていた。

感想文を書くのは難しい。僕は素人だし,プラティカルな経験なんてないし,とはいえ,馬鹿みたいに心理学の本――とくに臨床心理学とか心理臨床学とか言われる本を読んだり,もっと悪いことに制作したりしている。自閉症の子と遊んだこともないのに,自閉症の本を作ったりしている。非専門家の僕は専門書を作り,専門家向けに売る。セラピィなんてしたこともなく,受けたこともないのにもかかわらずだ。その点に疑問や良心の呵責を感じるならば,こんな仕事を続けることはないのに,やれやれという感じで労働を続けている。そんな僕が感想文を書いても,いったいどれだけその本が持っている現実や真理に,あるいは単に事実に向き合えるのか,これは答えるのが難しい。
要するに,これはいいわけだ。年をとるといいわけばかりが多くなる。と父はよくいいわけのように言ったけど,僕もそういう年になったということだろう。やれやれ。

「パーソン・センタード」に話を戻そう。
この本にひどく心に残ったのは,「フェルトセンス」というキーワードだった。もちろん,他のたくさんのキーワードからこの本はなっていて,どれをとっても,(僕の考える臨床心理の専門家ならば)感銘を受けるものが多いはずだ。けれど,この「フェルトセンス」という言葉は何となくこころにひっかかっていたのか,僕は村上春樹を読みながら,この「フェルトセンス」を思い出していた。
もちろん,村上春樹はフェルトセンスという言葉は使っていない。物語は,村上春樹のここ数年の流れで無意識的なものにコミットしようとしているけれど,フェルトセンス的なものを直接的に扱ってはいない。もちろん,扱っているとも言えるだろう。「無意識」や「フェルトセンス」はどこにでも顔を出すからだ。そう読み取ろうと努力すれば,そこには何かがあるに決まっている。
話が流れてしまった。
この本は,「フェルトセンス」についてかなりの紙数を割いて解説している。フェルトセンスとは,僕の理解で言うならば,「言葉になっていないもの」だ。たとえば,もやもやとしたものがある。たいていの人はそういうもどかしい思いを経験したことがあるだろう。そうした「もやもや」としたものにフォーカスするのがいわばフォーカシングである。いや,そうじゃない。それは人間の「こころ」の働きそのものじゃないかと思う。僕たちは「もやもや」に名前をつける。感情にする。言葉にする。たとえば,
「いらついている」
「昨日の仕事が終わらないから不安なんだな」
「愛ってやつかもしれない」
なんていう風に。
そうやって言葉にした瞬間,僕は落ち着く。ある程度は,だけど。
しかし本当は「もやもや」は完全には解明されたわけじゃない。それはアキレスと亀に関するゼノンのパラドックスみたいに,永遠に追いつけない関係だ。緻密に,細部にわたり,もやもやを言語化なり,感情化しようとも,不透明な部分が残る。言葉はそれほど完全じゃなく,こころは無限に広がるし,明日の体験が新たな不透明な部分を創出するからだ。思春期に悩みが多いのはそのせいじゃないかとさえ思う。言葉は足りず,体験は日々刷新され,こころは拡大してしまう。大人になった僕の日々は,予想できる範囲の体験が連なるだけで,あのころに見たような世界はもはやない。けれど,僕はこころにコミットし続ける。フェルトセンスの先に,何か可能性があるんじゃないかと,好奇心をもった猿の遺伝子が掻きたてる。
そうやって「こころ」や「自分」とコミットできたら,何かが変わるだろう。そのコミットのやり方で,今度は自分を滅ぼすように差し向けていた「社会」とうまくコミットできるかもしれない。
そんなことを夢想した。

非常にロジカルな本だけど,さすがロジャーズ派だけあって,常に実践に向き合っている感じがする。多少,ロジカルなのは,パートンの師匠(なのかわからないけど,影響を受けていることは確かだ)である,ユージン・ジェンドリンのせいだろう。ジェンドリンは哲学者だった。パートンも理論生物学者だったらしいから,本書はいい意味で緻密な本になっている。

ロジャーズ派というと,どうも肯いているというような印象しか僕にはなかった。理論的な進展はないんじゃないかとさえ思っていた。実際,精神分析諸学派に比べて,アカデミックな印象は薄いし,短期療法や家族療法に比べても,トリッキーではなく,抽象的ですらない。ロジャーズその人のことは興味深いけれど,フロイトにユングやクラインがいたように,さほど高名な弟子たちがいたわけではない(ような気がする)。もちろん,ソーンの本とかいろいろあるんだろうけど。

パーソン・センタード・カウンセリングパーソン・センタード・カウンセリング
デイブ ミャーンズ ブライアン・J. ソーン Dave Mearns

ナカニシヤ出版 2000-12
売り上げランキング : 330961

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


でも,一方でナラティヴ・セラピーやら短期療法やらで,ロジャーズ再考の気運が高まっている。認知行動療法に対する反対のよりどころとして,ロジャーズが選ばれているのかもしれない。けれど,認知行動療法だって,よくよく見れば,ロジャーズっぽいところは多分にあるし,かなりの知見を受け継いでいるはずだ。治すということに大して違いはないのかもしれない。

そういう意味でこの本はいろんな人が読むといいと思う。僕は触れなかったけれど,受容や共感のことをこれだけ真剣に考えた本というのもあまりない。この本さえ片手にあれば,たちどころにクライエントが立ち直るっていうような本ではないけれど,読み応え,考え応えのあるいい本だと思う。



うまく村上春樹になれただろうか? それが心配なんだ。じゃ!


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
そこぢからをみた (カカ)
2006-10-19 17:00:45


うまい!



もう…まいった

返信する
しまった (村上pub樹)
2006-10-20 10:00:32
カカさん,お褒めくださってありがとう。

まだ降臨してます。









と思ったら,失敗だ。



最後のフレーズ,「じゃ」じゃなくて,「チャオ」にすべきだった鴨。



ともあれ,春樹節は,適度なカタカナ混入と,「かもしれない」「だろう」「と僕は思う」と「非断定」を連発しながらも,断定調でモノを語ると結構マネできます。

みんなも合コンとかで使ってみてね♪

チャオ!
返信する
おそれいりやのきじぼじん (nana)
2006-10-20 12:51:36
>やれやれ

よくぞ使ってくださいました!(笑。



>nanaさんのところで

記事から記事へのリンクは、初めてかも知れない。

m<_._>m。



私の知る限りでは、現在、ロジャーズの流れの翻訳書2冊が、進行中。日本人による共著も、1冊進行中。
返信する
OH! (村上pub樹)
2006-10-23 12:41:57
nanaさん,コメント,ありがとうやんす。



恐れ入谷の鬼子母神って,nanaさん,いくつ? それとも,寅さん?









ううんむ,村上さんが降臨してこない。

困った。



> 私の知る限りでは、現在、ロジャーズの流

> れの翻訳書2冊が、進行中。日本人による

> 共著も、1冊進行中。



おお,そうなのですか。

情報,ありがとうございます。



ロジャーズ系の本は,けっこう続きそうですね。しかし,翻訳書を読んでいて思うのですが,けっこう日本のカウンセラーも遜色ないです! 世界水準に達しています。

皆書こう!

返信する

コメントを投稿