心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

心と行動をわけないとする考えかた~素晴らしき山上敏子先生の世界

2007-01-18 12:42:50 | 心理療法一般
というわけで,今日は山上敏子先生特集で参りたいと思います。

山上先生といえば,精神科医であり,行動療法家として著名な臨床家であります。

ま,その前に,例によって,「行動療法や行動主義の概況」について,くだらんノーガキをつらつらと書き付けますので,まあ適宜,読み飛ばして頂きたいわけですが。

一般に行動療法と言いますと,いわく行動療法=規範的,いわく行動療法=心がない,いわく行動療法=冷たい感じがする,など,まあ誤解というか偏見というか,あるわけですが,これは無理解が最も大きいのですが,とはいえ,発信側も過度に「科学だ」とか「客観的だ」とかを強調しすぎてきたという戦略上の失敗もあると思います。

己の正当性を強硬に主張するというのは必ずしも周囲の理解を得られるわけではない,というかほとんどの場合得られないことのほうが多い,というのは,社会においてはほぼ常識であります。もちろん主張することの意義はありますがね,受け入れられなければ,その意義も薄いわけでして(野党的な意味は残りますが),ここにおいて,感情的な対立を基にした政治的な――学問的ではなく――あくまで政治的な陣取り合戦的様相を呈してるわけでして,まあなんだかモッタイナイ話ですよ。

行動療法というと,まあ行動主義の理論を背景にしてるわけなんですが,まあ実は,外から見るほど,統一的な理論ではない,というか,そもそも別に統一的な理論にすべくしてあるのではありませんが,まあ一番行動主義らしい行動理論といえば,オペランティズム,でありますね。

まあオペラント条件付けとか三項随伴性とかいう語は聞いたことない人はいないと思いますが,まあこの条件付けと聞くと,なんか犬がハァハァよだれ垂らしてるような図を思い浮かべちゃいますので,よろしくないんですが,オペラント行動といいますと,刺激による,あるいは環境に対する自発的な行動ということでして,たとえば,

大衆居酒屋・黒木屋に行く(刺激/環境)

酩酊した客の笑い声やジュウジュウ焼ける焼き鳥の匂いを嗅ぐ(刺激/環境)

急ぎ,メニューに目を通す(オペラント行動)

おしんこ盛り合わせ,枝豆,生ビールをチョイスする(オペラント行動)

呼び出しベルを押す(オペラント行動)

さらに,メニューから,ほっけ焼き,鳥の唐揚げ,等をチョイスする(オペラント行動)

料理および酒が到着する(結果/強化)

カンパーイ,ウマー(結果/強化)

焼酎お湯割り梅入りと軟骨唐揚げを追加する(オペラント行動)

再度,ウマー(結果/強化)

ま,図式化すると,こんな感じで,居酒屋における三項随伴性が成り立ってるわけですが,マクロレベルでは,「同僚に呑みに行こうと誘われる→一見さんで店を選ぶ→ウマー→また来る」という図式もあるだろうなという感じで,まあ,でもどうですか,ここにおいて,心はないんですかね,冷たいですかね,そんなわきゃないよね。

ただここで,上記図式中の「おしんこ盛り合わせ,枝豆,生ビールをチョイスする」という行動のメタメッセージ「いいから早く注文したもん持ってこい!」すなわち「早く出てきてほしい」があるわけですが,「なぜそれらを最初に注文したのか?」と問うて,「早く出てくるから」という答えを得るのか,「おしんこ盛り合わせ,枝豆,生ビール」(以下,盛枝生)というチョイス自体の意味を考えて,「早く出てきてほしい」という心情を推定するのか,ま,それは自由ですが,後者が行動主義のスタンスであろうかと思います。

もっと言えば,「早く出てきてほしかったんだね」と言葉に出すか出さないか,という違いとも言えるかもしれません。ただ,言葉に出すか出さないかは別として,「盛枝生」の意味はわかってないといけないわけですね。そう考えると,行動を見る,というのは,もう待ったなしの厳しさがあるような気がします。

ただし「早く出てきてほしい」というのを「衝動性が高まっている」なんつう言い方にすると,「ココロナイ」なんて言う人も出てくるのかもしれないけど,それはあんまり本質的ではないです。同様に,追加注文行動があるのだから,「ウマー」なんて書く必要ない,つうのも,本質的ではないです。うまくいえないけど,中核的なところをどこと考えるか,において,学派によってそれほど違いがあるとは思えないんですよね。

ちょっと話がずれましたが,「盛枝生」ですけど,「早く出てきてほしい→盛枝生」とするか「盛枝生→早く出てきてほしい」なんか,さあDOTCHだ? っていうのは,まあはっきり言うとどっちでも良いわけですが(単にスタンスの違いなので),行動っていうのはコミュニケーショナルな性質を多分に備えてる,それが様々な水準のやりとりのなかで成立している,ということでして,上記のように因果論や推論ではなくとも,行動とは心そのものである,とも考えられるわけでして,それが今日のタイトル「心と行動をわけないとする考えかた」でして,ここでようやく,御大のご著書を紹介になるわけです(駄文乱文,長々と失礼しました)。


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まあとにかく,「第一章 行動療法の基本」を読んでみてください。行動療法ないし行動主義になんとなくの嫌悪感を持ってるひとは目からうろこだと思います。「心と行動をわけないとする考えかた」の非常に柔らかいが確固とした主張であったり,「行動は主観的であり,また,客観的に記述できるものである」という,ある種,二律背反的な,しかし,きわめて現実的な,かつ矛盾のない,臨床に対する姿勢が表明されます。

個人的には,全体をとおして,微細で細やかで緻密でかつ冷静な行動観察があり,その上で,行動のコミュニケーション的な側面を強調しているというか,コンテクスト重視というか,そういう印象があり,「いま,ここ」とか「関係性」のパラダイムに通じる,すなわち,普遍的な臨床実践の要諦が,行動療法という様式を用いて,体現されているという感じで,○○派とかそういうの抜きに,広く臨床家に有用な知見が集約されているという感じです。


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ま,これ著作集といっても良いと思いますが,編年体になってるのですが,魅力は変わりません。ぜひ4もと思います。3の最後が書評『心理療法の統合を求めて―精神分析・行動療法・家族療法』になってるのは,なんかすごく象徴的だなと思いました。全部読め!



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確か現代のエスプリでも特集やってた記憶があるのですが,それはさておき,この特集の編者が山上先生なのですが,まあなんというか,臨床的・実践的な特集になっていて,流石というしかないです。雑誌ですが,これは永久保存版でしょう。


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あまり知られてないかもしれませんが,この号から現在まで「方法としての行動療法」という連載をしておられます。これもいいです。必読。はやくまとまんないかな。


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山上先生は以前,国立肥前療養所(現・国立病院機構肥前精神医療センター)というところにいらっしゃったわけですが,そこでの実践を体系化したもの(という教条的なイメージではないですが)がこれであります。

ちなみに,

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現在も後進の先生方により,取り組まれているようです(いわゆる肥前グループ)。引き継がれる伝統というのは素晴らしいなあ。

あとは,

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こういうのも翻訳されてますね。ハーセンの名でわかるように,ほぼ認知行動療法事典


などと,まあつらつら書いてきたわけですが,まあともかく,ベテランの臨床家の諸先生方が称賛している話をよく耳にするわけですけど,著作を読むとさもありなん,学派問わず,広く読んで得るところがあるのが,山上先生,なのでありますね。


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