PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

医療保護入院の位置

2009年08月04日 09時34分51秒 | 精神保健福祉情報
7月30日、「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」の第21回会合が開かれました。
現行の精神保健福祉法について、意見交換が行われました。
精神障害者本人が入院を拒否しても、保護者が同意すれば入院させることができる「医療保護入院」について、改善や撤廃を求める声が委員から続出しました。

保護者の同意に基づく「同意入院」が、「医療保護入院」に改められたのは、報徳会宇都宮病院事件を契機として制定された、精神保健法(1987年)でです。
この時に、初めて精神障害者本人の同意にもとづく「任意入院」制度が設けられました。
それまで、精神障害者の入院制度は、すべてが本人の意思によらない強制入院でした。
わが国の精神保健法規は、それまで大前提として、精神障害者が自分自身の意志で精神病院に入退院をするなどということは、考えられていなかった訳です。

この入院形態の変更が、精神病院の医療環境に及ぼした影響は、極めて大きいものでした。
それまで、精神科医療関係者のおおかたのイメージとしては、患者本人の意思にもとづいて入退院の決定がなされたら、現場に大混乱が生じると考えられていました。
でも、精神保健法が施行されてからの実際の統計をみると、全然違います。
法改正直後の1988年には医療保護入院が63.0%、任意入院が28.5%でした。
その9年後の1997年には医療保護入院が29.0%、任意入院が67.3%でした。
両者が約3分の1、3分の2と逆転しています。
本人の意志に基づいて入院する形態が、当たり前の第一選択肢になった訳です。

でも、実は医療保護入院は、一時期全体の4分の1くらいまで減りましたが、2000年を境に増加に転じています。
現在では、むしろ全体の4割近くが医療保護入院になってしまいました。
医療保護入院者の内訳を見ると、65歳以上の占める割合が増えてきています。
認知症高齢者の精神科病院入院が、どんどん増加しているという事実もあります。
明確に入院の拒否はしていない(できない)患者が、手続き上面倒でない任意入院とされていたという問題も、一方でありますが…。
非自発的な入院が、なおもどんどん増え続けるとしたら、どこかいびつな精神医療が再び台頭してきそうな不安が生じます。

年々増加を続けてきた入院患者数は、1991年の34万9190人をピークに減少に転じました。
自傷他害のおそれがあるとして措置入院とされた患者の割合(措置率)は、1970年の30.2%から次第に減少し、法改正前の1985年には9.0%、1997年には1.4%と激減しています。
もちろん、自傷他害のおそれのある患者が、急激に減ったということでは、決してありません。
本来は本人の意思で入院継続できる患者が、強制入院形態である措置入院・医療保護入院でずっと処遇されていたということです。
また、措置率や人口当たりの措置入院患者数は、都道府県によって著しく異なります。
自傷他害のおそれのある患者の発生率が、県によって大きく差があるなんてことはありません。
判断する基準がバラバラで、制度が恣意的に運用されているということです。
厚生労働省も、今回の検討会で、判断基準の一層の明確化や事例集の提示などを行うべき、と提示しています。

医療保護入院制度については、本人が入院を拒否しているのに保護者が入院に同意した場合、本人と家族の間に葛藤が生じることや、家族の負担感が強いなどの問題点が、これまでにも繰り返し指摘されてきました。
検討会でも、田尾有樹子さんが「各国の入院形態と比較して、強制入院の同意者が家族である欧米先進諸国はないと思う。医療保護入院は即刻改善し、強制入院の同意は行政で行う仕組みにするべき」と述べています。
伊澤雄一さんは、「保護者がいなければ何もできない人という社会の目が、偏見と差別をあおっている。保護者制度は撤廃すべき」と述べました。
さらに、中島豊爾さんは「保護者」について、患者の権利擁護に限って規定するか、自治体の第三者機関が患者の権利を擁護する仕組みをつくることを提案しています。
また、精神保健福祉法での認知症に係る対応の是非、適否を検討することが必要ではないのか、との指摘も出されています。

現在ある精神保健福祉法は、強制入院手続き法としての精神衛生法を一部改正する形で、今日に至っています。
保護者制度は、精神障害者を保護監督する義務を家族に負わせるという、精神病者監護法(1900年)以来の流れを踏襲しているだけではありません。
公権力によらない強制入院を、家族の同意により正当化するシステムとして機能しています。
医療保護入院の存立要件として、保護者制度はあり、両者は切り離せません。
国際的に見ても、これは随分ゆがんだシステムです。
医療保護入院制度をどう変えるのかによって、この国の精神科医療の将来の姿が決まってくるのでしょう。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-10-09 00:44:29
不仲の親と悪質な医者が組めば、簡単に制度を悪用し、監禁、人生をめちゃくちゃにできる野が一番の問題点
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