PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

専門職大学院という場所

2009年12月26日 13時38分28秒 | 専門職大学院
僕の勤務先の大学での所属は、大学院です。
大学院と言っても、研究大学院とは異なる「専門職大学院」。

法科大学院とか、教職大学院とかありますよね。
それと同じように、社会人を対象とした専門職大学院。
わが国では唯一の、福祉領域の専門職大学院です。

通常の研究大学院は、修士課程や博士課程に分かれています。
主に研究がメインですから、研究者養成のカリキュラムです。
調査方法や統計分析の方法論が、前半では叩き込まれます。
自身のテーマに沿った、ひとつの論文を書き上げるために、2年、3年を費やします。

これに対し、専門職大学院は、質の高い専門職養成がミッションです。
カリキュラムも、専門職としてのポテンシャルやスキルアップを目指した構成になっています。
極めて実践的ですし、少しでも現場で役立つ授業であることが大前提です。

期間も、平日日中の授業を基本として1年間と短い設定です。
現職を続けながらの、週末夜間を中心とした2年間の長期履修制度もありますが。
1年間で最低30単位を取得すると、専門職修士という学位が得られます。

入学する人は、実に千差万別です。
多くは福祉の領域で仕事をしてきた、現職のソーシャルワーカーたちです。
でも、そうでない人たちも、たくさんいます。

自分の仕事に行き詰まりを感じて、改めて福祉を学び直したいと入学してきた人。
自分の職場に嫌気がさして、転職して新たな人生の一歩を踏み出すために来た人。
職場の研修制度を利用し、休職して徹底的に学ぶことを選択して来た人。
定年退職を目前に、自分がしてきたことを整理するために、というベテラン組もいます。

一方で、異なる領域から、福祉を学びたいという一心で入学する人もいます。
保健医療領域から、福祉を学ばなきゃと一念発起して入学した看護師や作業療法士。
福祉とはまったく無縁の業界から、福祉への転進を図って通うことを決意した人。
定年後の残りの人生を、暮らす街の福祉ボランティア活動に捧げたいという元企業戦士もいます。
一般企業ではなく福祉分野での就職を視野に入れて進学してきた、他学部からの新卒学生もいます。

ちなみに、今年度の院生たちの平均年齢は、41.5歳。
毎年、22歳の学部新卒から、70代後半の後期高齢者までいます。

本当に多種多様な老若男女の集合体で、生きてきた過程も様々です。
唯一共通しているのは、「福祉を学びたい」という一点です。
しかも、研究者としてではなく、それぞれの現場の実践者として…。

ゴールの明確な、そのモチベーションの高さが、専門職大学院の宝だと思います。
多様な人生体験をもつ人々の、経験知という力が、この類いまれな共同体を形成しています。

教員にとっても、毎日がとても刺激的です。
教員も、うかうかはしていられません。
もしかすると、教員が一番学ばせてもらっているのかも知れません。

僕は、この仕事に就けて、幸せだと思っています。
この場所で、この仲間たちと、自分にできることを、精一杯果たしていきたいと思っています。

お出かけゼミ

2009年12月25日 09時22分41秒 | 専門職大学院
※映画『精神』のワンシーン。このひとは…。




今年の授業も、いよいよ終わりました。
僕の担当するゼミは、今年はやたら、あちこちを徘徊していました。

ゼミ員の総意というよりも、担当教員の趣味と志向性によるところ大ですが。
去年1年、ほとんど外出することもなかったので、フラストレーションが溜まってたというか…。
同僚の児童領域のゼミが、しょっちゅうゼミで出かけているのを見て、羨ましくなって。
今年は「書を捨てよ、街に出よう!」と…。(ちょっと古い?)

それでも、ゼミ員にとっては、なかなか得難い体験だったようで。
色々たくさん刺戟を受け、自身の経験と照らして、考えることも多かったようです。


今年、ゼミのみんなと出かけてみたのは、以下のところです。


①精神科家族会「むさしの会」10周年(国立精神・神経センター病院、5月23日)

 記念講演の高橋清久さん(藍野大学学長)には、昔から色々とお世話になっています。
 10周年記念パーティーに参加し、ゼミ員各自、いろんなご家族とお話しさせて頂きました。
 これが縁で、「家族支援」をテーマとするゼミ員のひとりは、以降毎月の例会に参加させてもらっています。


②日本精神保健福祉士協会第45回全国大会(静岡、6月13日~14日)

 僕にとっては、2000年東京大会以来の大会参加でした。
 大会プログラムで一番議論が白熱したのは、総会議事でしょうね。
 夜は、懇親会には出ないで、ゼミ員たちと居酒屋へ。
 深夜まで、静岡の繁華街のカラオケスナックで、腹がよじれるほど笑い転げていました。


③映画「精神」鑑賞(渋谷イメージフォーラム、6月20日)

 これは、なんというか…、スゴイ映画でしたね。
 情緒的な演出を極力排すると、こういうモザイク無しドキュメンタリーになるんでしょうね。
 PSWの仕事をしている人にとっては、極めて日常的な風景でしょうが。
 撮影後、編集に1年以上かけているようですが、エンドで知る事実は悲しい…。


④映画「降りていく生き方」上映会+べてるの家講演会(立教大学、7月4日)

 この映画については、原案・脚本の森田貴英さんや製作・上映に携わっている人の想いは、わかるんですが…。
 メッセージが前面に直截に出過ぎてて、表層的で自己完結型のプロパガンダ映画になってしまいましたね。
 もっともっと、他者の心の琴線に届く、深い言葉で作って欲しいと思います(辛口批評でゴメンナサイ)。
 向谷地生良さんにお会いできて、初めて話せたのは光栄でした。


⑤精神保健従事者団体懇談会・精神保健フォーラム(日本教育会館、7月11日)

 久しぶりに開催されたフォーラムでしたが、参加者が少なく淋しかったですね。
 以前、京都や横浜で行ったフォーラムは、たしか1000人くらい参加していたような…。
 話されているシンポジウムテーマは、どれもビビッドで大事な課題なんですが。
 精神医療保健福祉にかかわる、従来型のソーシャルアクションの衰退が顕著であることを実感した日でした。


⑥第31回日本アルコール関連問題学会(池袋メトロポリタン、7月18日)

 メインシンポジウムでは、猪野亜朗さんが光っていたと思います。
 病院で、地域で、ずっとアルコール医療を継続してきた言葉は、控えめでも重いです。
 やはり学会は、地道な臨床現場の実践や研究の取り組みの交流の場であって欲しいと思います。
 「Change!」という大会テーマが、妙に軽すぎて、現場から遊離しているようで気になりました。


⑦第52回日本病院・地域精神医学会総会(和歌山市民会館、9月18日~19日)

 和歌山まで遠征しましたが、地域性や広報の遅れもあってか、参加者が少なく淋しかったですね。
 僕は分科会の座長をしましたが、質疑も散漫で、討論は深まりに欠けるものでした。
 蛸壺的実践報告のオンパレードで、十分な検証がされてないからでしょうか。
 夜間集会から居酒屋へ突入した40数名が、深夜まで口角泡飛ばしていたのが「病地」らしいのかも。


⑧日本精神衛生学会第25回大会(国立看護大学校、11月14日~15日)

 昼休みまで賑やかなイベントもあり、「感情労働」のシンポジウムも面白かったです。
 「ひきこもり」のシンポジストの二神能基さんとお昼をご一緒し、たくさん刺激を頂きました。
 東京から秋田に移って、ユニークなデイケアを展開している水野淳一郎さんと、久しぶりに話せました。
 大林宣彦監督の特別講演は、含蓄に富み、映画好きにはたまらない話しでした。


⑨クラブハウスはばたき施設見学(12月3日)

 この前も記事にしましたが、楽しく考えさせられる、あっという間の3時間でした。
 クラブハウスの運営は、障害者自立支援法下でとても困難な状況に置かれています。
 JHC板橋が中心になって、今クラブハウスモデルの作業所等の全国調査を行っているそうです。
 こういった活動が、どれだけ展開できるかで、この国の地域精神保健福祉は変わってくると思います。


⑩救護施設あかつき+国立精神・神経センター施設見学(12月17日)

 救護施設というと、かつては行き先のない生保受給者の終末施設とイメージされていました。
 しかし、あかつきは早くから地域移行に向けた取り組みを展開し、居宅支援を手厚く展開しています。
 スタッフの意識と取り組み姿勢により、利用者の脱施設化はいくらでも可能性が開けてくる好例と言えます。
 一方、国立精神・神経センターでは、保護室を含めた急性期閉鎖病棟や医療観察法病棟、デイケアや作業療法棟を見学しました。
 広大なキャンパスをぐるりと一周するだけで、結局3時間半かかりました。
 異なる位相の精神保健福祉の現場を一度に見て、ゼミ員は目一杯の情報量に、考えさせられることが多かったようです。
 小平駅前の居酒屋で、アフターミーティングを兼ねた忘年会を行い、感想を述べ合って頭の中の整理をしました。


以上、今年は合計10カ所、ゼミのみんなで出かけたことになります。


交通費や参加費等で、ゼミ員にとっては、結構な負担になってしまったかも知れません。
大学から一応「ゼミ費」がでる(年額2万円上限)のですが、交通費にも足りません。
ちなみに、引率教員の交通費・参加費は、どこからも出ないので自己負担です。


それでも、教室の座学では得られない、リアルな精神保健福祉の様々な側面に触れられたのは成果と考えています。
振り返りに十分な時間をあてられず、消化不良の感があるのが、気になるところですが。
非日常的な強烈な印象を残す外出の意味が、それぞれの中で熟成するのには、時間も必要でしょう。


来年は、どんな「お出かけゼミ」をしようかと、今からわくわくしています。

社会人たちの選択

2009年12月13日 01時39分44秒 | 専門職大学院

今日の東京は、ポカポカ陽気。

昨日と最高気温が10度も違うので、ビックリです。

マフラーをしていると、汗ばむくらいで…。



今日は、大学院の入試説明会。

老若男女、ちょうど40名の方々が参加してくれました。

入試管理委員長としては、うれしい限りです。



若い学部の学生もいれば、かなり高齢のリタイア組の方もいます。

皆さんの前で、この大学院が目指しているものやカリキュラムコース等について、説明を約40分しました。

こちらをまっすぐに見つめている、真剣な眼差しに、僕なりに気持ちを込めて向き合いながら…。



約2時間ほどの全体説明会のあと、個別相談会です。

社会人の人は、やはり現実的、具体的です。

今の仕事を続けながら、どれだけ単位を履修できるのか…。



社会人向けのリカレント教育と言っても、受験生にはそれぞれの生活があります。

家事と、仕事と、勉学を、果たして本当に両立できるのか…。

不安があって当然、むしろ、その現実的な検討があってこそ本物です。



このうち、何人の人が受験に至るのかは、わかりません。

それでも、あえて厳しいタイトな日々を選択した現職の院生たちは、大きな力を発揮するはずです。

目標と使命を持っての、困難な状況での学びは、人を変え成長させます。



その人の、将来の人生を担保することはできないけれども、

教員として、一人ひとりに、真剣に向き合っていかなければ…。

改めて、自分が就いた仕事の意味を考えた日でした。





※画像は、秋の暖かな日差しに包まれたキャンパスの中庭。

紅葉と枯れ葉に彩られた、この小さなキャンパスを、僕はとても美しいと思います。

クラブハウスはばたき

2009年12月04日 04時14分42秒 | 専門職大学院
今日は、小平市のクラブハウスはばたきに行って来ました。

JHC板橋サンマリーナに次いで、日本で2番目にできたクラブハウスです。

僕の前職の病院でのつながりもあり、大学の講義に出張講演に来てもらったりしています。

今回お邪魔したのは、ゼミ員らと計9名、雨の中傘さして出かけました。

(`∇´ゞ



着いてすぐ、オリエンテーション。

はばたきがNHKの福祉ネットワークで取り上げられた時のビデオを見て、

世界クラブハウス連盟の基準や過渡的雇用についてレクチャーを受け、

パソコンの並ぶ事務ユニットで、仕事の流れやマニュアルを教えてもらい、

その後、階下でメンバー・スタッフの方と、珈琲や紅茶をいただきながら懇談、意見交換しました。


クラブハウスはばたきに至る、小平市での地域精神保健福祉活動の流れ、

メンバーとスタッフのパートナーシップの具体例、

障害者自立支援法と、拡らないクラブハウスの課題、

色んなプロジェクトやミーティングの重要性や実際の流れ、

世界300数十ヶ所のクラブハウスとの共通点や少し違うところ…。

あっという間に3時間近くが経ちました。

(o^∀^o)



しかし、なんか、もったいないな…、と思ってしまいます。

せっかく、これだけ示唆に富む実践を継続しているのに、まだまだ知られていません。

当事者にとってはもちろんですが、専門職にとって多くのヒントを含んだ活動なのに。

ぜひ、積極的に情報発信して欲しいなと思います。

あ…、「して欲しい」などと他力本願ではパートナーシップに反するか…?

f^_^;

なんとか一緒に、その取り組みを発信していくプランを練っていければと思います。



クラブハウスはばたきの皆さん、ありがとうございました~♪

(^∀^)ノ

退院・地域移行支援の夜間講座

2009年11月27日 02時08分25秒 | 専門職大学院

今日(もう昨日ですが)は夜、都心のキャンパスで夜間講座でした。
講座のタイトルは「退院・地域移行ソーシャルワーク」。
今日が最終回でした。

授業は2コマ連続で、夜6時半から9時40分まで。
リアクションペーパー書いてもらって、個別の質問に答えていたりすると、夜10時を回ります。
夕飯抜きで移動しての講義なので、さすがに疲れます。

でも、受講生は真剣に耳を傾けてくれています。
疲れて寝ている人がいてもおかしくないのに、しっかりメモしています。
テーマがテーマだけに、話す側も熱を帯びてきます。

この授業は公開講座にもなっているので、外部の人も受講しています。
病院や地域の機関のPSWやMSW、役所のCWやPHN、家族の立場の方…、色々です。
精神保健福祉は門外漢という人も、うなずきながら、聞いてくれています。

なので、こちらも手抜きできません。
先週も今週も、毎回70枚くらいのパワポスライドを用意して臨みました。
おかげで、昨夜も寝たのは未明3時半です。(∋_∈)

昨年もやった講座なので、ベースになるパワポはあるんですけどね。
他の講演で使ったパワポや、最近の資料なども盛り込んで。
結局、全面リニューアルになります。

今日は、30分だけ、ゲストスピーカーをお願いしました。
僕より職業歴の長い、いつも静岡から通って来ている専門職大学院生です。
自らの経験をもとに、病院と地域の両面から、とても説得力のある現場レポートをしてくれました。

僕の話しも、意図的に病院における実践と、地域の取り組みを対比して示しました。
病院での「退院促進」と、地域での「移行支援」の間には、様々な課題が浮かび上がってきます。
患者さん個人の能力や障害をあげつらうのではなく、環境からのアプローチが重要になります。

この事業について語る時、やはり病院と地域の「連携」ということが中心テーマになります。
両者を隔てる見えない壁は、未だに厚く高く…。
この国の精神保健福祉の暗部を、まざまざと見せつけられる感があります。

果たして、この国で、脱施設化は本当に可能なのでしょうか?
そのために、現場のPSWは、まず何をしていかなければならないのでしょうか?
重い現実と課題を、改めて受講生たちと再確認した夜間講座でした。


10時に授業を終えてから、駅前の居酒屋で、ささやかな打ち上げを行いました。
講義を通しての様々な想いを、一人ひとり語ってもらいました。
自分なりに、今の立場でやっていけることを発信していこうという想いを強くした夜でした。




※画像は、秋色に包まれたキャンパスの中庭。
相変わらず、授業時間中は学生の姿をほとんど見ることがない、不思議なキャンパスです。

ゼミ・ガイダンスを終えて

2009年04月12日 02時30分17秒 | 専門職大学院

新学期が、いよいよ本格的に稼働し始めました。

4月3日に入学式を終えてから、しばらくはオリエンテーション期間です。
健康診断から始まって、学生生活や単位履修に関するガイダンスが続きます。
既に講義も一部スタートしていますが、今週はゼミ(演習)選択についてのガイダンスがありました。

教員も学生も、初めて出会う者同士ですから、良く知り合う必要があります。
履修登録をしてから、後悔しないように、十分に時間をとって学生達にゼミの紹介をします。
1年間つきあっていく相手との、集団お見合いの場です。

ゼミを持つ教員全員が、学生達の前でプレゼンテーションを行います。
演習の概要を口頭で説明する教員や、パワーポイントを用いる教員、色々です。
学生達からすると、パンフレットでしか顔を知らなかった教員たちの肉声を聞く場になります。

教員のプレゼンは、それぞれ個性が出ますが、内容は似通っています。
まず、教員自身の出自というか履歴(生活史?)を自己紹介します。
兼務の仕事や、様々な公職を兼ねている教員も多く、教員同士でも「へぇ~、そうなんだ?」と初めて聞く話しも出ます。

次いで、専門領域のテーマや、実際のゼミの内容が紹介されます。
シラバス(講義要目)の概要が、ここで要約して示されます。
学生からすれば、自分の考えている研究テーマと、どれだけ合致する先生かを査定することになります。

続いて、卒業したゼミ生の取り組みや卒論テーマが紹介されます。
学生達からすれば、モデリングの対象を、自らと重ね合わせる場面といえるでしょうか。
本当は、実際に卒業したOB・OGに来てもらえば良いのでしょうが、そうもいかないようです。

プレゼンが済むと、各教員ごとのグループに分かれます。
だいたいの学生は、既に「この先生のゼミ」と決めているので、その教員のグループに参加します。
教員は「ティーチャー・ショッピング」をすることを勧めていますが、あれこれ訪ね歩く学生は少数です。

各グループで2時間弱、教員と学生でお見合いタイムです。
教員からは、演習で行う内容や、今年度取り組みたいテーマなどが説明されます。
学生からは、自己紹介と取り組んでみたいテーマなどが話されます。
それぞれの話しに、自然と質問や情報交換なども生まれてきます。

来週から、本格的にゼミが動き始めます。
今年の入学生たちも、なかなか個性的なキャラの方ばかりのようです。
教員2年目のゼミがどう展開していくか、今から、とっても楽しみです。



※画像は、キャンパスで学生達に可愛がられている猫です。
 僕がよく煙草を吸う喫煙所の横で、いつもひなたぼっこをしています。