和州独案内あるいは野菜大全

第一回奈良観光ソムリエであり、野菜のソムリエ(笑)でもある者の備忘録のようなもの。文章力をつける為の練習帳に

大根可愛いよ大根

2009年02月08日 | 野菜大全
 野菜を栽培していると得意なもの苦手なものが、好きなもの嫌いなものが自然と出来てきます。最近は特に大根が可愛く思えてきました、理由はありません。ああ、冬大根だとかろうじて無農薬でも栽培できるからでしょうか、虫との不毛な闘いに勝てる見込みがあるうちはまだ救いがあります。
 いやそれでも安心は出来ません。例えば、ダイコンサルハムシの被害は目を覆いたくなる酷さで、道端の宿根性の雑草イヌガラシ等が自然繁殖のスポットになっており、そこからせっせと遠征して来ます。いったい何を目安に大根を見つけるのか?カラシ油の成分を感知するのか、闇雲に歩き回って見つけたら集合フェロモンでも出すのでしょうか?解かりません。
 同じくヤサイゾウムシも品種を横断的に食害する面倒な害虫で要注意です。コイツはオスに出会うまではメスばかりを産み続ける無性生殖を繰り返すやっかいさんで、道端ではキク科がお好みのようです。どちらも甲虫ですが飛ぶことは出来ず、その代わり歩く速度は早く何処と無くユーモラスですが可愛いとは思った事は一度たりともありません。勿論見つけ次第つぶします、プチッと。
 どちらもかつての非選択的に良く効く、つまりどの虫にも更に人にも良く効く様な農薬の使用がほとんど無くなった事により近年復活し幅を利かせていると言います。農薬が常に進化して更なる安全性を追求し研究していると言う事をこんなところで知る事になろうとはわからないものです。

 大根は品目別の消費量でトップを走り続けているそうで、特に冬場に、おでんに大根は欠かせません。子供の頃はあの苦味が好きになれませんでしたが、今はそれこそが大根らしさと思えるようになりました。その大根らしい苦味が消費者に敬遠され、甘みのより強い品種が今のトレンドだと言うのは皮肉ですね。
 そして冬から春、更に夏大根と産地を変えながら一年中の出荷が可能になり消費を支えています。

 大根は自身の味を余り自己主張せず、しかし繊細かつ一本芯の通った日本人らしい野菜なのかもしれません。面取りや隠し包丁を入れ、した茹でをしてから出汁で味を染み込ませるなど調理の仕方も繊細です。まあ適当に切って豚肉と炒め、味噌とだしで味付けするようなざっくりした料理もあります。
 大根は主にその根部を食しますが、カブと同様に葉っぱの栄養価は馬鹿に出来ません。カロテンや食物繊維に富み大いに利用してもらいたいですが、葉を残すと水分の蒸発が激しく品質を著しく劣化させてしまうため切ってから出荷されます。どうしても葉っぱがという方は直売所などで探せば有るものですよ。

  
               ナメクジに葉を食べられながらもすくすく育つ春大根 

今市かぶの謎

2009年01月25日 | 野菜大全
 カブには西洋種とアジア種があってそれが本州の関が原、伊吹山辺りで綺麗に分かれると言う話、中尾佐助のカブラインの話は有名です。西日本に多い東洋種はアフガニスタンが原産と考えられてきましたが、原種にあたるものが見つからないそうです。とにかく西洋種とアジア種に別れることはどうも確からしく、その両方が別々に日本列島に伝播して、世界で最も多様に進化、分化したのです。そこで新たに和種、日本種と言う亜種グループを設けようと、どうもそう言う事らしい。
 
 東日本に多い西洋種は、ヨーロッパ辺りからシベリア経由で日本に渡ってきたのではと言われています。その代表、金町小カブは現在流通している多くのF1品種の母本として有名です。また、赤カブは世界的にも珍しく、東日本から西日本まで点在して分布しています。山形の温海カブの様に焼き畑農業と密接に関係した品種もあり、縄文時代まで遡るのでは?と想像してしまいます。十七世紀の記録に既に現れており、実際は更に遡れるのでしょう。縄文時代もあながち空想ではないように思えるのですが。それにしても、本当に温海カブは畑を焼いて蒔いたほうが、耕起した畑で蒔いたものより美味しいのでしょうか?一度比較試験をしてみたいものです。
 
 東洋種の代表は大阪の天王寺カブらしい。東洋種は中国にもあるので日本とを繋ぐ糸が遣唐使ならば鴻ロ館の置かれた上町台地はドンピシャなのですが、流石に強引すぎますか、いやもっと古いのかもしれません。
 しかしどうしてこの日本においてこれほど多様な在来種が出来たのか理由はよくわかりませんが、大根同様に土の性質の違いがカブの性質を変えるのは確かなようです。ただそれだけではなく、生物として常に遺伝子レベルの変化は起きているのは当り前のことです。
 かつて自家採取が基本だった時代には、固定種といえども種の更新に伴って性質の違いが出て当然ですし、農家も新しい品種の作出に心血を注いだのでしょう。日本人って何かを極めだすと変態的に能力を発揮させるんですよねえ。恐らく無数の多様性を見せたカブですが名前が通るには、それなりの特徴(見た目や味の)が無いものは必然淘汰されてきたはずで、80年代の調査では78種の在来種が報告されています。
 じゃあ今はというと、F1種の登場で農家と採種は完全に切り離されてしまいました。それが悪いこととは勿論言いません。千粒万粒蒔いても性質にブレが無いことはもはや当然のこととして農業しているのですから。
 
 今市カブはやはり天王寺カブから派生したのでしょうか、それとも聖護院カブでしょうか。聖護院カブは近江カブを京都聖護院の篤農家伊勢屋利八が持ち帰り、改良したものだといいます。近江カブは新潟にも渡り寄居カブに改良されるなど非常に名前が通っていたカブですが廃絶した模様です。今市カブは寄居カブに近いそうですから、近江カブから変化したものと言うのが妥当なのかも知れません。
 今市は帯解寺の辺り、奈良町を南に下った上街道沿いにある集落で、京などから三輪や初瀬詣、伊勢参りの人々で通りは賑わったことでしょう。北にある古市に対し出来た新しい市だから今市というのか、そこに集まる商人か旅人がもたらしたカブの種を蒔いてみると、思いのほかこの土地に合い良質のカブが出来たとでも想像しておきましょう。一度この地の人に今市カブについて尋ねてみる必要がありそうです。
 今市の一帯は北を地蔵院川、南を広大寺池に囲まれた高台の西端で見通しの利く要害の地でもあるために、中世において今市城が築かれました。大乗院方の衆徒今市氏は筒井氏の戌亥脇党に属していたが、散在党の刀爾越智氏と結んだ古市氏の攻めを受けて没落してしまいます。その後、越智氏代官の堤氏が入城し、越智氏の国中北部における拠点となりました。しかし、越智・古市の蜜月にも亀裂が入り、やがて筒井氏が優勢になります。大和の中世の平城としては最大規模の遺構らしく、往時が偲ばれる場所です。
 

 以上を受けての今後の栽培方針(笑)
1、温海カブを焼畑の状態と、普通畑の状態で栽培してみて、その味の違いを比較する。
2、天王寺カブと今市カブを栽培して両者の生育状態、味の違いを比較する。
3、今市カブをなるべく多めに栽培する。

 さて本当に出来ることやら。


  

ほっこり

2009年01月11日 | 野菜大全
 決して多くは無い種類の野菜を作っている中途半端な農家としては余り分かったようなことを書くのは、後々冷や汗や赤面してしまうことにもなりかねず、気を使ってしまう。まあ誰が見るわけでもないので気にしないのが一番ですが、でも特定しようと思えばできるのではないか?と考えるとあせってしまいますね。
 最近いや昔からか、H、ソローが支持されるのは何故なんでしょうか?彼はハーミッツにあたるのでしょうか、ロハスや田舎暮らしなどのフワフワした言葉が巷に溢れていますがエコと同じ臭いがぷんぷんしてきます。
 決して褒め言葉ではなく、田舎暮らしというのは究極の贅沢ではないでしょうか?お金と時間が無ければそれは田舎暮らしではなくただの貧乏暮らしでしょう。手作りでこだわりの味噌やしょうゆを作ろうとすると意外に色んな道具が必要で、それぞれが意外に高価で驚くことがあります。本当の古民家の移築なんてことになったら新築が買えるかもしれません。
 田舎暮らしと言うといつも思い出すのがマリーアントワネットです。彼女は離宮の中に村をまるごと一つそっくり作って農民を何家族か住まわせていたそうです。それを眺めるだけだったのか、ボロの服を着て農家ごっこを楽しんだのかは判りませんが。
 えーと、何でこんな辛辣な言葉を書いてるんでしょうか?試験の結果がどうも怪しいからか、ちょっとお口直しに楽しくなる画像を貼ってみます。

 あーほっこりした。
 

野菜だって生きている

2009年01月04日 | 野菜大全
 いつ以来でしょうかすっかり季節は冬になって年が変わってしまいました。畑では二度ほど雪がちらつき、今年というか去年一番の大雨が十二月に突風と共にやってきました。何時ビニールが飛ぶのか気が気ではない状態で、雷も近くで落ちるのでこれは堪らんと車の中に避難したりしていました。
 そんなこんなで、すっかりハウスの中は冬の野菜に変わっております。もう露地ではたまねぎ位しか育たない厳しい寒さがつづきます。
 かろうじてハウスの中だけは、日が射す間だけはポカポカ陽気の快適な環境になります。ハウスでは葉菜類が成長しているのかいないのか分からないくらい、ゆっくりじっくりとですが確実に大きくなっています。

 野菜というか植物は周知のごとく生物ですが、動物と違って動かないということが両者を分ける決定的な違いのようです。しかし植物だって生きている以上は動きます。ただ、人の時間とは根本的に違うということでしょうか?圧倒的に動きが遅いために人には止まって見える、丁度ファンゴルンの森でエント達の話し合いが二晩続き、ピピンとメリーは飽きて寝てしまったようなものでしょう。
 でも、意外に身近によく動く植物がいるんです。それは何の変哲も無い只の野菜、ホウレンソウです。
 冬場のホウレンソウはその寒さを乗り切り、霜害を防ぐために体内の水分をできるだけ少なくし、逆にビタミンやミネラルの濃度を高めて霜害による細胞の破壊を防ごうとします。それが冬場のホウレンソウの美味しさや栄養価の高さの理由なのです。
 そんなホウレンソウですが霜が降りれば一時的にですが、萎びてしまいます。風の無い晴天の日は、地表の熱が奪われる放射冷却によって厚い霜が降ります。まるで全てが凍り付いて眠ったような畑は本当に静かです。ところが太陽の光が差し込んでものの数分も経たないうちに霜はみるみる水滴になってビニルから落ちて、ホウレンソウ達も一斉に地面にへばり付けた体を弾かせ立たせるのです。さながらホウレンソウが踊ってるかのようにハウス全体が波打ちます。
 霜が降りれば毎度の光景なので別段驚くことではないのですが、見たことが無い人はやはり驚くのかもしれません。まあむしろ太陽の力を讃えるべきなのかもしれませんし、単なる反射といってしまえば元も子もありませんが。それでも植物は動かないものだという固定観念は取っ払ってくれるに余りあります。

lycopersicon esculentum 2

2008年08月04日 | 野菜大全

                   画像はイメージです

 トマトはナス科の夏野菜。とは言え日本の気候がトマトにとって適した気候かというと不適だと言わざるを得ない。温暖湿潤と言いますが、正確には日本の夏は亜熱帯に近いのではないでしょうか。30度を超える暑さと、湿気の多さは虫と病気の温床となり、カラリとした冷涼な気候を好むトマトにとっては凌ぎにくいものです。雨の多さも致命的な病原菌の蔓延と果実の品質を下げる原因となるために、出荷栽培をする場合はハウス栽培が前提となります。
 夏場は夜温も高いために、充分に養分の果実への転流がいかず、肥大と成熟も早いために味に関しては春先に出るトマトよりも劣ると言わざるを得ない。かと言って早出のトマトはボイラーを焚いて栽培する加温栽培、促成栽培がほぼ当たり前になってしまうのでまるで油を食べていると言うと言葉が過ぎるでしょうか。
 以前にも書いたとおり、ハウスのビニルだって原料は石油ですし、出荷となれば軽トラをかっ飛ばす訳ですから変わりは無いのかもしれませんが、真冬にブーンと唸るボイラーを見てるとこれでいいのか?と思ってしまうのも事実です。トマト何かよりもイチゴの方が促成栽培の率で言ったら高そうですけど・・・
 


以前は大玉にミニだけだったのがミディ、中玉の房付きなども出回るようになりました。近年さらにカラフルなトマトが姿をあらわしています。
 黒トマト系、これにはブラウンやパープルも含まれるでしょうやグリーン、ホワイト、パイナップルなんてのもあります。黒トマト系はアントシアニンの発色でしょうがホワイトはアルビノなんでしょうか?だとしたら栄養価が他のものに比べて低くなるのかもしれません。巷で喧伝されている野菜の機能性成分ってのはこの色素由来のものが多いのは確かですから。
 赤いトマトはリコピンとカロテンの色素の発色の結果です。リコピンが無ければオレンジのトマトになってしまいます。嘘だと思われますか?たぶん本当です多分・・・。
 リコピンは気温が高いと生成されにくくなるので、冬や春先のトマトと夏のトマトでは全体に色が微妙に違う事があります。冬のトマトはピンクっぽく夏のトマトはオレンジっぽいのはリコピンとカロテンの発色によるものなのです。それじゃあ夏のトマトは駄目なのかと言うとそうではなく、火照った体を中から冷やしてくれて発汗によって失われたカリウムを補う意味ではトマトは理想的な夏の野菜です。酸味が強いのも食欲を刺激してくれるのでドレッシングをかけて味を補うなど、季節に合った食べ方を少しの工夫をすることで賢く野菜と付き合う事ができます。
 上に書いたカラードトマトは海外から種を取り寄せて栽培してみましたが、本当に全てが中途半端な味でがっかりしました。腕が悪いんじゃないかと言う疑問は甘んじて受けます。それにしても日本人の味覚や食感の違い、栽培環境や方法の違いが如実に出て、改めて日本の種苗メーカーの良さを感じました。
 種苗メーカーの話をついでにすると、流石にトマトと言えば桃太郎という盲信は無くなったでしょう。一時代を築いたこのブランドが現在10以上のシリーズを持つことは殆どの消費者は知る事もありません。日本中で100以上の品種があるトマトの中で未だに高いシェアを持つのはそれなりの理由があるはずですが、それは偉い人に考えてもらうとしましょう。

lycopersicon esculentum

2008年07月27日 | 野菜大全

 遅ればせながら、トマトである。一切の手間を省いたあるまじき栽培方法になってしまいました。流れをざっと整理すると、太陽熱消毒をする為に今年はトマトは作らんと思ったのですが、やはりそういう訳にもいかず改めて種を蒔く事に。
 しかし鉢上げようの土が用意出来てません。まあ良いか、セル苗定植すれば、と言うことで種を落としました。
 本圃をどうするのか?ぎりぎりまで熱消毒をするとして、肥料を先にぶち込んで畝立ても止める去年からのやり方を採用することに、何て楽なんだろうか。
 心配なのは樹が暴れないかという事だが、元肥も最小限だったからか左程でもなく、むしろ少し弱いくらいだ、わき目もいつも通りしばらくは放置する。通路もすっきり人間本位だし、防草シートを張って汚れませんからサンダルで歩けます。遮光ネットも張りました、何せ外気温が30度を越してるのに、ハウス内なんて40度もざらですから。
 太陽はやっぱりすごい、とても勝てない、勝つ必要ないんですけど。地球温暖化も太陽が原因でいいのではないでしょうか?CO2削減やらを聞いたり読んだりする度になにをやってるんだろうかまったく・・・と言う気分になる。まるでダイオキシン騒動の再来と思ってしまう。カーボンダイオキサイドって言うと何だか悪そうに聞こえるから不思議です。理系音痴の自分ですら温暖化したから二酸化炭素が増えたことくらいは判るんですけど・・・
 脱線してしまいました、このあと一段目を普通に着果させて、二段目から連続摘芯に移行する予定です。どうも樹勢が弱いのがいつもの癖ですが、早めに追肥をしていこうかと、潅水も普通より早めに開始していいんじゃないかと思っています。

ズッキーニ!

2008年05月25日 | 野菜大全
 
いつの間にか夏野菜の定番となったズッキーニですが、少し前までは初めて見た人がキュウリ?と尋ねるのがお約束でした。同じウリ科なのでおしいのですが、種や葉、花を見ればカボチャの近縁種であることは分かるはずです。
 素焼きしても衣を着けて焼いても独特の食感が楽しめる、味はカボチャのように濃くは無いのですが、逆にそれが控えめに主張せず色んな素材とあわせることができるみたいです。でも料理がさほど上手くない私としましては揚げるのは面倒なので、衣を着けてフライパンで焼くのが定番になってます。
 ラタトイユも定番ですけれど、意外に材料が揃わなかったりしなくもない。家庭菜園をしていれば夏野菜としてほとんど手に入るかもしれませんが、セルリーやハーブは難しいのかも。
 ところでラタトイユは本当に美味しい料理なのでしょうか?自分の作り方が悪かったのか左程美味しいと思えなかったのです。香味野菜を調達できなかったのにブイヨン系を入れなかったのがマズかったのか?驚くほど美味しい料理では無いような気がします。
 ラタトイユと言えば南仏ですが、ズッキーニと言えばやはりイタリアじゃないでしょうか?とにかく種類が豊富なのがそれを物語っています。日本では緑と黄色の細長い二種類のみがポピュラーですが、イタリアでは更にボール状のものや、細長いものでもリブの付いたロマネスコ、ジェノベーゼは白い肌の実と大き目の花が特徴です。さらにボロネーゼは冬瓜の小さい奴みたいにずんぐりしていますし、極めつけはアルベンガというトロンボーンの様なズッキーニまであります。
 形状が少しずつ異なるズッキーニが各地域の地名を冠して今も受け継がれているのは素晴らしいことですし、なかなかにイタリアは野菜に関して侮れません。日本で云うところの在来品種が豊富であることは農業の文化、さらに食の文化が豊かであることの証左と言えるでしょう。
 

ハウス歳時記

2008年05月20日 | 野菜大全
 トラクターに田植え機、軽トラが走り回る喧騒の日々が終わり、稚苗が薫風に揺れる穏やかな時節になりました。こんな時期に台風が日本列島をかすめるなんて・・・考えられない。しかもぞくぞくと後に続いています。
 そういえばこの時期、ハウスの天井のビニルをコツンと叩くものたちがいます。それはミズカマキリやタガメなどの水棲昆虫たち。田植えが終わり、落ち着いた頃に何処からともなく飛んでくる。どうやらハウスが反射する光を水面と勘違いしてるらしいのですが、普段生活してる限り絶対に出会わない虫なのではないでしょうか?子供の頃はもちろん、大人になっても映像でしか見たことが無い人も珍しくないかも。
 何処となくユーモラスな姿で陸上では動きもぎこちない、カメムシと同種ですがこちらは憎めないやつです。一通り観察しハウス脇の水溜めに放しておくと、後は勝手に飛んでいってくれます。
 カメムシ目といえば、あの憎きアブラムシも同目です。春先には露地に先駆けて「羽根付き」が発生し、自ら飛んだりあるいは風に乗ったりしてハウス内に蔓延してしまいます。羽付きを発見した時点で既に時は遅く、時期的な要素とコロニーが臨界に達しているサインでもあるようです。
 それまで単為生殖していたのが、羽根付きによって有性生殖に切り替わり、遺伝的多様性を確保しようとする、そのライフサイクルの見事さに脱帽ですが、さらにモモアカアブラムシなどは、小松菜に付いたものがホウレンソウにも、更にトマトにも付くといった感じに野菜の科目を横断的に寄生するので非常にやっかいです。
 彼らはテントウ虫やヒラタアブに捕食されたり、寄生蜂によってマミーにされますが、いかんせん絶対数が違いすぎるのです。もちろん私は在来の天敵しか知らないのですが、天敵農薬として導入された舶来物はスペックが高いのでしょうか?
 私的な感想では、天敵農法は救世主には成り得ず、化学的、物理的、耕種的方法の補完程度のものだと思われ、如何に天敵の密度を上げるかこそが天敵農法のポイントだと思われ、また限界でもあるように思う。
 何だかマニアックな話になってしまいましたが、もう一つアブラムシに関して話をすると、トマトに付くアブラムシは、初期の世代はほぼ全滅します。と言うのもトマトには粘性を帯びた細かい毛が生えており(しかも毛には長短の二種がある)、それに絡めとられる様に動けなくなり、やがて枯れた様に死んでしまいます。おそらくトマトのアクには殺虫成分があるのかもしれません。しかし次の世代ではやたら足の長いタイプのアブラムシが発生し、毛にも絡めとられにくくなります。最後には虫が優位になるのは、対抗進化の速度がやはり虫のほうが速いからでしょうか。
 ああ、ただの農家の独り言なので科学的根拠は乏しいことはあしからず。

農事暦のことなど

2008年05月14日 | 野菜大全
 春、山の残雪が馬の姿に見えると米作りが始まる。「雪形」としては一番有名な白馬岳(しろうまだけ)周辺の農事暦ですが、雪形に限らず昔の人たちは自然と共に農の営みを築き上げてきました。しかし、今ではカレンダーが太陽暦に変わり、時計も色んな所にあり、絶対時間のようなものが支配しています。
 この辺りの田植えはゴールデンウイークにするのが当たり前になってしまいましたが、昔と比べても半月から一ヶ月も早くなっています。元は台風の時期と収穫期が重ならないように早植えをし始めたようですが、人手を確保する為にもゴールデンウィークに田植えをするのが一般的になりました。上の田や下の田で田植えが始まれば「うちだけまだ」と言う訳にもいかず、地域が足並みをそろえる結果に、しかし昔と違って田植えも家族総出の作業ではなくなり、一人でも充分可能なものになりました。田んぼに響く子供の声は遠くなり、今はただ田植え機のエンジン音だけが鳴り響いています。
 農業の作柄も前進に次ぐ前進のあげく、周年栽培が当たり前になっていますが、うちとしてはハウスやトンネルの保温栽培までとし、油を使った加温栽培はしていません。まあハウスのビニルだって元を辿れば石油な訳で、軽トラをかっ飛ばしている訳で、五十歩百歩でしょうか。そう考えると、どんなに自然を謳っても程度の差しかないかもしれません。自然や共生という言葉は巷に氾濫してるけど、その自然って何?てのが多いんですよね。
 話を農事暦に戻すと、うちで一番身近なのは「藤の花」くらいでしょうか。桜が咲いても花冷えが何度かありますが、藤の花が咲けばもう氷点下になることは無いので、果菜類の中でもピーマンなどやウリ科が露地植え出来ます。藤は林の切れた所で「マント群落」を形成するので目に付きやすいのもあるのでしょう。
 以前、ウグイスの鳴き始めを酔狂で記録してたけれど、二月には林の奥で鳴き始めていて役に立ちそうにない。ミツバチは確か20℃位で動き出すはずですが、その温度になるとどこでも動き出すのでちょっと違うかと、ただミツバチは中々にかわいいのでまたいずれ書ければいいのですが。そういえばミツバチの分封がどのタイミングで起こるのかはどれ位解明されているのでしょうか?素人でも風の無い晴天の日にすることは分かりますが、てっきり春から初夏のものだと思っていました。その時期しか出会ったことがなかっただけですけど。
 農事暦を考えると、如何に自然を見つめていないか、自然と違う物差しで作業を行っているかを改めて教えさせられるものです。

アスパラ!アスパラ!アスパラ!

2008年05月08日 | 野菜大全
 ここで少しは「野菜のソムリエ」らしいことを言っておこうと思う。
アスパラガスはユリ科の多年生植物で、春先に土を破って顔を出した若茎を食用にする。和名がオランダキジカクシや松葉ウドと呼ばれ、若茎を収穫せずに放っておくと、松葉状の葉が展開し、雉が隠れるくらいに繁茂します。ただしあの松葉状のものは偽葉で本来の葉はいわゆる「はかま」と呼ばれるところで退化してしまっています。このはかまは調理するときは食感を良くするために取る位に無用のものですが、栽培管理上、はかまが正三角形だと株の状態が順調だとか言うらしいですよ。
 栄養補助剤に含まれるアスパラギン酸の名前の由来がアスパラガスであるように栄養豊富な野菜の代名詞のようにいわれてます。確かに栄養価は高いが、それ以上に寒い冬を乗り越えてようやく訪れた春先に、土を破って萌芽する力強い姿が春野菜の代名詞として珍重されたのでしょう。
 ヨーロッパでは日本ほど旬に対するこだわりは少ないように思えますが、ことアスパラガスに関しては相当こだわりがあるらしい。primeursという言葉も「旬」もしくは「はしり」という意味で、気合の入りようが日本で言うところの初鰹の様なものかもしれません。
 欧米ではグリーンよりもホワイトアスパラが珍重されるみたいですが、栽培の手間を考えれば流通量も少なく、値段が高いのも頷けるものです。あれは砂質土壌か黒ボク土のような軽い土でないと無理だろうし、朝夕に鑿を使った探り掘りでの収穫はかなり大変だろうと想像します。実はうちでもホワイトを作ってみたのですが・・まあお遊びですね、でもいわゆる奈良方式ですので本物のホワイトに限りなく近いグリーンって感じですかね。こんなの判らないか?
 ワイルドアスパラ(アスパラガスソバージュ)は更に珍重されるもので、日本の山菜にあたるものといっても良いのでしょう。森のアスパラなのだからシオデ、それかアマドコロ、オオナルコユリといったところでしょうか?見た目はハカマの無いツクシや麦の穂をイメージする姿で、もはやアスパラとは別物と言っても過言では無いでしょう。まあユリ科のオルニソガラム属なので別物なんですけどね。