和州独案内あるいは野菜大全

第一回奈良観光ソムリエであり、野菜のソムリエ(笑)でもある者の備忘録のようなもの。文章力をつける為の練習帳に

大和の伝統野菜 その二 片平あかねと今市かぶ

2010年12月09日 | 野菜大全
 
                     片平あかねと今市カブ(未熟)
 以前に大和野菜の「大和真菜」を紹介して以来、随分間が空いてしまいましたが今回は「片平あかね」です。山添村の片平地区に受け継がれてきた片平あかねはカブの一種で、根が染まったように、いや葉っぱも含めて全体が真っ赤に色づくためにそう呼ばれています。
 名張川に沿って所在する片平集落は百戸に満たない無いような集落で、田畑は限られた河岸段丘上や傾斜地に張りつくようにあるに過ぎません。近年においては基盤整備の手も加えられているのかも知れませんが、いずれにせよ一集落でのみ受け継がれてきた種というのはかなり珍しく貴重なものなのでしょう。
 ただ、片平あかねというのは奈良県が主体となって行った大和野菜の発掘と認定作業の結果生まれたとでも言いましょうか、つい最近までは単に「日野菜」として市場に出荷していたに過ぎなかったのです。日野菜を名乗るには姿は似ていても色の付き具合からすればかなり無理が有る気もしますが、全国的に名の通った日野菜のほうが荷がさばき易かったのでしょう。野菜の系統や見た目からしても日野菜の流れを汲んでいるのは確かで、片平から日野への道筋は上野を経て現在でも容易にたどれます。その道を通って種がもたらされ、片平の地で変異したものが代々受け継がれて固定化したのだと思います。
 
日野菜と片平あかね(未熟)

 地野菜に良く言われることに、その土地でなければ上手く育たないというのが有ります。片平あかねも片平地区でしか真っ赤にならないと言われましたが、流石にそれは無いだろうと思っていました。地元の人としては、種が外部に流失するのを防ぎたいという思いがあり、地元ブランドを守りたいが為の発言しょうが、アントシアニンによる発色が主な要因なので気温が関係していると考ていました。ところが、いざつくってみると明らかに本場片平のものに比べて赤色が薄い。特に葉っぱがもっと燃える様な赤色をしているはずなのに明らかに色が薄いと言わざるを得ない、まだ寒さが本番ではないので結論は出せませんが、ほんとうに土質が関係しているのかも知れません。もし仮にそうだとすると、数ある在来種の野菜の中でもかなり特殊な部類に入ると思われ、そう言えば焼畑で作る温海カブも根が赤いタイプなので、それと同じ原因で根が赤いならば片平地区はアルカリ性の土壌なのかでしょうか?
 うちで育てたカブは片平地区ではないので、正確に言うと片平あかねを名乗らない方が良いのだとは思います。が、まあ恐らく来年辺りには「飛鳥あかね」の名前で一般に種子が販売されていることだろうと思いますので、それまではこのままにしておきます。

 このカブは肉部より葉茎部が大きいのも特徴で、現在のカブのトレンドである葉茎部がコンパクトなものとは対照的と言えそうです。甘酢漬けなど肉部と茎部を一緒に漬ける場合はやはり葉茎部のボリュームがあるほうが良いのですが、大根と同じくカブの葉は水分の蒸散が激しくて著しく品質を落としかねない為に、新しい品種ほど葉軸部は背丈が低くなっています。
 今市カブも最近の白カブ品種と比べればかなり葉軸部が高く、葉も薄く破れ易いのですが、片平あかねの葉茎部は更にその上を行くと言った感じの大きさです。品種改良が進んだ日野菜と比べてみると如何に片平あかねの背丈が高いかが良く分かると思います。と言っても下の写真は一ヶ月ほど生育に差が有る為、正確とは言い難いものですので
 


 
 こちらが今市カブ(中カブ)です。葉がかなり大きく、それにしても写りが良かったのか暖緑色で美味しそうな葉っぱじゃないですか?目にまぶしいほど白い肉部と共に調理し甲斐があるってものです。

以前の大和真菜について

スイートコーンとアブラムシ

2010年07月24日 | 野菜大全
 世界中に約四千種が居るというとても身近なアブラムシについて非常に面白い本を読んだのですが、専門的なところは理解が追いつかないにしろ眼からうろこが落ちる事が多くありました。
 最も驚いた事は、こんなに身近なアブラムシが腸内に「ブフネラ」と呼ばれる細菌を飼っており、というか共生関係にあり糖質以外の栄養素アミノ酸やビタミンを生産してもらっているという事実です。普通に考えれば植物の浅い部分の樹液しか吸汁出来ないアブラムシが、その樹液の殆どを寒露として排泄しているにもかかわらず生存出来ているのは不思議な話なのですが、わずかな必須栄養素を得るために殆どの糖質を排泄してるんだろうくらいに思っていたのに腸内細菌との共生関係がその解というのは考えてもみない事でした。いや、シロアリなどを考えればそれ程珍しいものでもないのかもしれません。人と大腸菌と言う喩えも可能なのでしょう。あるいは、かつて寄生されたものが共生関係を築き、今や一器官として存在しているミトコンドリアにも喩えられるのかもしれませんがブフネラはその一歩手前辺りでしょうか。

 アブラムシのコーンへの取り付き方は大体パターン化しており、冬の間に葉物に発生したものが地面を移動して先ず第一節下の乳葉に取り付きます。初春の時期はまだ繁殖力も弱く、ここで叩ければ良いのですが緑色の体色のために見つけにくいのです。
 マルチ栽培をしている場合、マルチに付いた甘露のテカりで確認できますが、その状態はもはや定着寸前の危険水域というところでしょうか。不思議なことに初めのまま緑の体色をしていればコーンの葉色に紛れて見つかりにくいはずなのに、いつの間にかコロニー全体が黒色の体色に変化してしまうことです。これにどのような意味があるのか自分には分かりませんが、何か重要な意味があるように思えます。科目横断的で体色が変化するのはモモアカアブラムシの特徴ではありますが、栽培を始めて全ての年で緑から黒への変化をしているのには何か意味があると思われます。もしや黒マルチに反応しているのか?とも考えますが、樹上ではかなり目立つので生存を考えると明らかにマイナスなのです。あるいはコーンの樹液に独特のものがあるのかもしれません。この状態で蔓延ほぼ確定という感じで、保護色でいるよりも黒色で体温を上げて活発に動く方を選択しているのでしょうか、既にコーンの上部葉裏の飛び地にコロニーを作っていて、これから無農薬を通すには余りにも地味で不毛な作業、テデトールが必要です。

 下部の地面に近い葉裏から取り付き始め、各葉の基部にある鞘状の巻き込み部の見つかりにくく雨も当たらない所に拠点コロニーを築き、更にそこから上へ上へと登って雄穂にまで姿が見えるともはや手が付けられません。そうなると第四節辺りにある実を包む苞葉の内側や、実の基部にある空間に入り込んで大繁殖しており、寒露もそうですがそれだけではない恐らくコーンが分泌する粘液状のものとで、実を薄皮一枚まで剥かないといけなくなり商品価値は殆ど無くなります。
 雄穂にまで取り付くとあとは振動でポトリと落ちれば拡散できますし、有翅タイプも密度が高くなれば出現しており、風の吹くタイミングで更に遠くに拡散します。面白いのはコーン横にホウレンソウを栽培していると、直ぐ近くの条には殆ど有翅が付かないのに、コーンから遠い条には多く有翅アブラムシが付いていることで、彼等は一つの命題であるより遠くへを確実に実践しているのです。

 今年のコーンはゴールドラッシュ→おひさま7→味来390→サニーショコラ→おひさま7というラインナップで、食べ比べをしてみようかとも思ったのですが、わずかな違いはあれども言葉にするのはかなり難しかったのであきらめました。
 おひさま7の大きさは下手すると500グラムにもなるほどで、味来390はやはり美味しいしサニショコも捨て難い感じです。それよりも今年の遅霜はどうしたことでしょう。4月24日の強烈な遅霜は外の水が凍るくらいまで気温が下がり、二重トンネルの状態だったにも拘らず霜枯れしてしまいました。

 
 
 そして更なる問題、獣の類が食害をしている事です。姿を確認できてないので何かは分かりませんが、恐らくハクビシンかアライグマだと思います、まいったなあ。

こぶ高菜

2010年04月19日 | 野菜大全
 長崎は島原雲仙が原産の「こぶ高菜」は、その名の通り葉の中肋に出来るこぶが特徴的な地野菜です。放って置けば親指大にもなるこぶは異様そのもので、よくもこんな種を受け継いできたなあと感心してしまいます。
 スローフード協会が認定する「日本味の方舟2005」に選ばれたらしく、園芸雑誌にも特集されていたのをチラリと見ましたが、この賞がどんなものかは別にしても味の方舟というネーミングセンスは買います。

  

 この葉菜は終戦後に中国大陸より引き上げてきた方が現地の種を持ち帰り栽培、選抜を続けてこられたのが始まりとか、ですから既に中国大陸でコブタカナは普通に栽培されていたものらしい。
 このコブにうまみが凝縮されているというのがこぶ高菜の特徴らしいが、かなり眉唾ですね。浅漬けや炒め物にコブだけを使ったものが欲しくなるがそんな贅沢はとてもじゃないが出来そうにありません。親指大までコブを大きくするには、株全体が50cmを超えるくらいまで成長させる必要があり生育期間も3ヶ月近くになります。

 そんなコブを集めて豚肉と炒めてみました。トウが立ち始めていたこともあり固いかと思ったが、意外にも柔らかくブロッコリーの芯より随分柔らかい感じでしょうか、しかしうま味というのは特別感じられませんでした。一株に親指大のこぶが5個ほどしか採れないある意味究極の一品と呼んでも良いのでは?

  

大和の伝統野菜 その一 大和真菜

2010年04月12日 | 野菜大全
 奈良検定にも度々登場した「大和の伝統野菜」。これは戦前から奈良県内で栽培が確認されている品目で、地域の歴史・文化を受け継いだ独特の栽培方法により「味、香り、形態、来歴」などに特徴を持つもの(奈良県公式ホームページより)だそうで、現在17種類が認定されています。
 それに加えて「大和のこだわり野菜」という新ブランド野菜が4種類の計21種類を「大和野菜」として売り出そうとアピールしています。 流石にもう出題は無いのかも知れませんが、ここでは「大和の伝統野菜」を幾つか紹介できればと思います。

 大和真菜は大和の名を冠すように伝統野菜の筆頭に挙げても恥ずかしくないものです。こういう菜っ葉類は「漬け菜類」と普通言いますが、数ある漬け菜類の中でもかなり美味しい部類に入ると思います。葉物野菜は大体そうですが、これも霜にあたると一層甘みが増して美味しくなります。油揚げで煮浸しや豚肉と炒めたりというのが定番料理でしょう。そんな大和真菜がどこまでこの名で歴史を遡れるのかは分かりませんが、江戸時代には栽培されていた事は確認できます。

  

 栽培してみて感じる事はその作り辛さでしょうか。種を蒔けば適当に発芽して成長するのでそういう難しさは皆無ですが、生育が揃わない、葉の黄化が激しい、霜に当たりすぎるととろける。などなど一般に言われているそのままの問題点が商品作物としてはある訳です。

 ところで、在来の大和真菜には丸葉(広葉)系と剣葉(大根葉)系の二系統があり、丸葉系のほうが大和真菜の欠点が如実に表れてしまいます。だからなのか現在の主流は大根葉のほうになっています。剣葉(大根葉)のほうが葉色の退色が遅く、霜枯れに強いのは間違いありませんからこうして品種は選抜されていく訳でしょうか。
 この様な欠点を補うために大和真菜のF1種を開発したというニュースがありました。公式ホームページにもありますが、これは何なのでしょうか?看板に掲げた伝統野菜云々の理念と相反することになりやしませんか?作り易くなるのは良いことなのですが、F1種になれば自家採取は基本的に出来なくなります。自家採取を実際するかしないかと問われればやらないのですが、出来ないのとやらないの違いは一応有る訳です。

 在来の固定種がこのF1種の大和真菜の登場で直ぐに消えてなくなる訳ではありませんが、F1種がもたらした歴史的経緯をこともあろうか伝統野菜の大和真菜でなぞるという、自己矛盾を孕んでいる事態になってしまいます。作り易く揃いの良いF1種の登場で既存の在来種が駆逐されたというのが現状な訳で、それに一石を投じるように在来野菜の復権を掲げ、各地の伝統野菜を見直す動きの一つに大和の伝統野菜の認定もあるのです。その大和の伝統野菜をF1種化してしまうとはどういうことでしょう、本末転倒とはこのことかと思うのですが、どう思われますか?まあ、種に罪はなく一度種を入手して栽培してみるつもりではあります。

  

稲架と書いてハサと読む

2009年10月26日 | 野菜大全
 稲刈りが終わると田んぼの様相は一変してしまいます。ハザがけをしている農家もほとんど見なくなり、見つけても脱穀後の稲藁を乾燥させているに過ぎません。 バインダ、ハーベスタの登場は、ハザがけの天日干しを前提にした機械化でしたが、コンバインと乾燥機の登場で収穫の工程は一気に短縮化されました。グレインタンクとブーム(オーガ)付きで軽トラックと連動して収穫すれば、一人か二人で反一時間もかかりません。 稲藁も収穫と同時にカッターで細かく裁断され、田んぼに還元されるようになりました。東北のように根雪の心配も無いため、刻まれた藁は秋冬の起こしで土中に漉き込まれ、春までの間に土中で分解されます。寒の厳しい東北では、漉き込んでも微生物の活動が弱く藁が春の田植えまで残ってしまい、湧いてしまうことがあるために燃すのが一般的です。
 それにしてもかつての稲藁の利用範囲は広く、生活に深く根ざしていました。今でも特に苗の鉢土づくりに稲藁は絶対欠かせません。わら堆肥も良いのですが、分解が早く毎年施さなければなりません。せん断して窒素源と合わせて積み上げながら水を掛ける、しばらくすると切り返すなど好気性の堆肥づくりは結構手間が掛かるものです。
 そのためあまり利用しませんが、自分の勝手な「はかり」では稲藁を基準の一と考えています。麦わらを二、トマト残渣が三、籾殻なら五と言う具合です。何の事かというと分解に掛かる年数と言うか、土にすき込む際の自分なりの指標とでもいいますか。
 先ずCN比と言うのがあって、有機物を炭素と窒素の割合で見ると、炭素成分が高ければ分解し難く、逆に窒素成分が高ければ腐敗し易い。そこで、炭素に対して窒素を補いながら堆肥を積んでいくわけです。土中にそのまますき込む場合にも窒素飢餓(投入した有機物が分解時に、土中窒素を奪い窒素切れの状態になる)を起こさずに分解できるかを計る目安ですが、正直面倒なので余り使いません。
 そこで大体の目安として、一年で形が無くなる藁を基準の一にして、他の有機物を比較する訳です。うちで一番利用するのが籾殻ですが、五と言ってる通りそのままでは難分解性で、すき込めば有害な有機酸も出すでしょうし、窒素飢餓を引き起こすでしょう。でも難分解なのはケイ酸の宝庫だからこそで、これを利用しない手はありません。そこで大量の米ぬかと一緒に漉き込み、ビニルで蓋をしてひと夏過ぎれば三か四くらいに成ります。米ぬかは1トンで15㎏程(これも基準)しか窒素がありませんので、それこそ大量に必要です。

  

 夏越しで上記の方法を行なうととても良い結果を得られます。雑草の種や害虫も蒸し殺せて今後は多少やり易くなるでしょう。いわゆる「土壌還元太陽熱消毒」のことで、土の表面は雨に打たれて硬くしまった皮膜が出来ているように見えますが、これまでと違い簡単に掘り込めてぼろぼろと崩れ、菌糸が回った跡が窺えます。

  

 珍しくも無いことですが、次はこれを冬越しでやろうと考えてる訳です。1a程に籾殻がヌカロンで20袋分以上と約200キロの米ヌカ、補助として鶏糞と石灰窒素を加えてじっくり土中醗酵させようというもので、石灰窒素以外は有難い事に地域資源ということでタダです。土が適度の湿気を有していれば、それ以上に雨に当てるよりビニルで蓋をした方が養分の流亡を防げるので蓋をします。

  

 ここにきてロコトの実は肥大充実共に良好で、この緑果が赤くなるのか黄色くなるのかは霜降のリミットまでのお楽しみですが、今までに無い豊作になるのだけは間違いありません。やはり枝が下がると生殖成長のスイッチが入るのか、こんな大きな実が10個以上と、小ぶりなものが20個程は余裕で収穫出来そうだ。そうなるとファルシーを作るのには十分な量になります。
 枝を上げると栄養成長、下げると生殖成長ってのは適当な話かと思ってましたが、案外まともな理論なのですね、そうなると紐誘引の方が良いとう事になるか。
  

ハサのことを書くつもりが脱線しました、また次に続く

  
 
  


  

ゴボウとカルドン

2009年10月18日 | 野菜大全
 ゴボウはキク科の多年生植物です。これを食用にするのは日本の他には数える程の国しかないそうで、確かにこんなものを最初に良く食べようとしたなと思うものです。
 しかし、西洋ゴボウとも呼ばれるサルシフィ(あるいはスコルツォネーラとも言う)を西洋で食べている事を考えると左程珍しい事とも思えません。ましてや木の根っこを食べている等という誤解があったのはおかしな話です。尤も、サルシフィを食用とするのは、今でこそヨーロッパからアジアに広がってはいるらしいが、依然としてメジャーな野菜とは言いがたいのは違いない。
 サルシフィ、スコルツォネーラはスペイン南部の地中海沿岸が原産で、カキのような味がする為に別名ベジタブルオイスターとも呼ばれる。和名にはバラモンジン(婆羅門参)といういかにも海外から薬用に渡ってきた事をうかがわせる名前がついています。スコルツォネーラscorzoneraは黒い毒蛇の意でスペインやイタリアでそう呼ばれる。黒く細長い見た目や、切るとすぐににじみ出るアクといい、黒い毒蛇とは言いえて妙ですが、だったら何故食べた?とツッコミを入れたくなります。
 というかサルシフィーの話をしたい訳ではなく、ゴボウとカルドンの話なのですが、一般的にゴボウと対比されるのはやはりサルシフィーの方であるのは間違いありません。でもそれでは面白くないのでカルドンな訳で、カルドンとの奇妙な共通点を見つけたからなのです。

 カルドンcardoonカルドcardoはキク科の多年草で地中海沿岸が原産、アーティチョークの近縁種であるといえばすぐ分かると思います。花が比較的に小さいのとトゲが激しいのを除けばまんまアーティチョークです。葉は肉厚で薄緑色のザラリとした触感があり、繊維質が多く食用に適するとは思えない感じです。
 
  
                          カルドンかアーティチョークか、もう誰も分からない

 六、七月頃に二m近く茎を伸ばして花を着け、葉も80cm程に大きく茂りますが、花と共に夏枯れをして全体が枯れ込みます。そして秋冬に向けて新しい葉がまた展開するという生活史を自然の状態では繰り返しています。
 アーティチョークは花のガク片や花底部を食しますが、カルドンはその葉っぱや茎を利用します。この葉の柔らかい部分を、そのままレモン水につけてアクを抜き利用することもありますが、それよりも興味深いものがあります。
 カルドン ゴッボ ディ ニッツアcardon gobbo di nizzaは「ニッツアの猫背のカルドン」という意味で、特定の品種というよりは、特別な栽培方法によって出来た、特徴ある姿を語った名前です。
 このカルドン ゴッボは四、五月に種を蒔き、腰高に成長したものを九月頃に掘り上げて、新しい畝床に移植をするのですが、その畝床で斜めに定植をしてその上から軽い土をかける栽培法を採ります。いわゆるふかし軟白栽培によって、エグ味を和らげ茎葉の繊維を柔らかくする効果を狙っているのでしょう。わざと斜めに植えるので茎が曲がってしまいます。その姿を猫背あるいはせむしと言う意味のゴッボと呼んでいるのです。何故斜めに植えつけるのか詳しくは分かりませんが、旨みや栄養価を高める可能性があり経験的に斜めに植える方法に行き着いたのだと思われます。
 こうして栽培されたカルドンゴッボはイタリア北部のピエモンテ州の郷土料理バーニャカウーダには欠かせない食材として珍重されているといいます。ニッツアはピエモンテ州の基礎自治体(地区や集落のようなもの)であるコムーネのうちの一つで、ニッツアモンフェッラートのこと。これをフランスのニースと誤解しているものが巷では大半ですし、自分もそう思っていましたが、ここではコムーネの方が意味が通ります。他のコムーネに同じピエモンテ州のキエリやアスティ(ワインで有名)のカルドが知られます。

 ここまででゴボウとの関係にピンと来た人は相当な野菜通でしょう、ゴッボとゴボウ・ごんぼが似ているとかいうのは勘弁してください。
 
 さてゴボウはゴボウでも、一風変わった栽培をするのが堀川ごぼうです。京都の歴史を凝縮したこれぞ京野菜といえるものですが、栽培方法が特徴的なのであって品種はごく一般的な「滝野川」なので、京野菜の認定が遅れたとも言います。
 堀川ごぼうの歴史は、太閤秀吉が建てた聚楽第が豊臣家の没落と共に壊され、その堀も周辺の庶民のゴミ捨て場として次第に埋められていった中で、偶然見つけられたのが始まりだと云い、これ程野菜の歴史・由来が生き生きと語られる野菜も珍しいと思います。
 その由来をなぞるように、堀川ゴボウの栽培方法は十月の上旬に播種し、冬越ししたものを翌年の六月頃に掘り上げます。それを60cm程に切りそろえて改植するのですが、その時の植え付け角度が「斜め15度で南向きに」植えつけなければいけないといいます。角度が浅すぎても深すぎても良いものが出来ず、その上に敷き藁を厚く敷いて乾燥を防ぎます。
 そうすると十一月頃から太く肥大した、中が空洞の堀川ごぼうが出来上がるということです。おわかりいただけたでしょうか?以上が堀川ごぼうの特徴で、わざわざ斜めに植えつけると言うカルドンゴッボとの奇妙な共通点でもあります。

 カルドンゴッボの軟白栽培は、ベルギーのブリュッセル国立植物園の園芸師ブレジエによって偶然に編み出された、ウィットルーフチコリーの栽培法を応用したものではないでしょうか?1830年代にブレジエが始めたチコリの軟白栽培は、彼が死ぬまで彼ともう一人を除いては知り得ぬ門外不出の技術として守られましたが、彼の死から30年後の1860年代には、ベルギー人ボーレによってイタリアに渡り、ラディッキオタルディーヴォの軟白栽培が行なわれるようになります。その後、カルドの軟白も試みられたと考えてみましたが微妙ですね。
 よーし来年はカルドンゴッボも作ってみるか(まーた言ってるよ) 堀川ゴボウには挑戦するつもりで、既にほんの少しですが種を蒔きました。  
 
 基本的にこういう種は国内で取り扱っておらず、ネットで海外からの直接取り寄せか代理店を利用する事になります。カルドンに限らず珍しい野菜を作りたいという人は多いと思いますが、元袋を独自に小分けにして販売しているところは概してかなり割高ですので、せめて海外の元袋のまま販売するところを選ぶほうが良いかとは思います。 
  

 
 

そういえばロコト (Capcicum .pubescens)作ってました

2009年09月28日 | 野菜大全
  

 ロコトは南米のアンデスが原産の辛トウガラシ、ホットペッパーの一種で、特にペルー等では非常にポピュラーなトウガラシ、肉を詰め衣を付けて揚げるロコトレッジェーノなどが有名だそうです。アンデス原産らしい冷涼な気候を好むが、霜や強い寒さには弱いため、日本では栽培が困難だそうです。実を付けるまでに90日以上の期間を要し、春先に種を蒔いても丁度開花、結実期に高温期に差し掛かるため、花落ちが激しく、最悪暑さで枯れてしまうこともあるようです。
 ロコトを栽培し始めて既に数年になります。標高が比較的高い事もあるのでしょうが、発芽まで持っていければ枯れるような事はありません。しかし霜に数回あたると葉っぱがごっそり落ちてしまいますので、種まきをなるべく早く済ましておく必要があります。育苗は加温で二月中に播種して、定植後はトンネルで遅霜を回避するのがベターなのかも知れません うちではそこまで手をかけてませんけど。
 
 ロコトの特徴として一番に挙げられるのが種が黒いという事でしょう。ピーマン・トウガラシ類の種は白色が普通ですから、黒い種は何か禍々しい感じがします。
  

 もう一つの目立つ特徴は、何と言っても花が紫色をしているというところでしょう。樹全体がアントシアニンの強い感じですが、小指の爪先程の可憐な花は濃い紫に染まっています。在来の紫シシトウも確か紫の花を咲かせたと思うのですが記憶に自信がありません。
 ロコトの学名の小名プベッセンスは「毛がある」という意味ですが、写真でも確かに毛じが確認できます。  
  

 無限花序であることや花の形はいわゆるカプシクム属に共通していますが、節間が若干長く、葉はハバネロよりも厚い、ピーマン程度の厚さで照りがありません。花弁は六弁が殆どで五弁は余り見かけませんでしたが、これはピーマン等で良く使う樹の健全度の指標程度の差異なのでしょう。放任していたにも関わらず、腋芽も多く無くて左程茂らない、適度の密度を維持していたのは驚きです。何処かしら全体に気品を漂わせており、トウガラシ界のナイトとでも言っておきますか。
 実成りが極端に悪いのも残念な特徴で、一株に十個実が成れば良い方かも知れません。そう言う訳で商品として値段の付けようが無いんですね。五百円玉くらいの大きさの実は、赤と黄色があり肉厚でつるっとした表面をしています。
 相当に辛いらしいのですが、辛いのが苦手なのですぐに売ってしまい試食していません。スコヴィル値もかなり高いけれど、辛い中に旨みや甘みが有るという話しで、トウガラシの中で一番美味いともいわれます。ペルーに行く機会があれば是非食べてみて下さい、国内の料理屋でロコトを利用している所は無いんじゃないでしょうか。
 ロコトレッジェーノくらいは作ってみたいので、来年こそは本気を出して2,30株いやそれ以上は栽培してみようかと思っている。(どっかのニートみたいな言い訳していやがんじゃねーですよ)  すみません

  

(ウルトラ)スーパースイート

2009年06月29日 | 野菜大全
 まだ終わりと言う訳ではないのですが、とりあえず今年はゴールドラッシュとみわくのコーンというサカタの同じシリーズ品種に偏ってしまいました。低温伸長性のあるゴールドラッシュを最初に持ってこれたのは良かったのですが、やはりセルで育苗したほうが確かな事は間違いありません。剥き身で350gを超えるので十分な大きさと言えるのでしょう。比べてみわくの方は草勢がおとなしく、特に雄穂雌穂のコンパクトさが目立ちました。絹糸の抽出もおとなし目でゴールドを見ているときちんと受粉するのかついつい不安になってしまいがちですが問題は無さそうです。
 ゴールドは初期生育にばらつきが出て、分けつの大小や着果位置や二番果の状態もかなりばらついてしまいました。無除けつの無摘果にして二番果も獲れればと思いましたが先端の受粉が出来ず、収穫間際からのアブラムシの被害もあって早々にあきらめて自家消費としました。アブラーの被害軽減にトッピングだけはしておいたほうがいいと思いますが、栽培規模が大きくなれば余計な労力を割くことになるので無理でしょう。どのみち後半のパンデミックにはなす術が無く、化学合成農薬が嫌なら除虫菊乳剤でも適散したほうが良いのでしょう。しかし羽根付きは普通のやつより薬剤抵抗性が有るのか接触毒に強いような、いや羽根付きになると吸汁しなくなるのか浸透性も効果が無いような気がするがそれこそ気のせいか。アブラー被害が激しくなると、足元で動き回るアリを踏み潰したくなる衝動を抑えられませんが、いくらやってもきりが無いので実際はやりません。

 次はサニーショコラですが、この作からは普通栽培に徹していきます。これまで品種の特性を上手く出す事ができませんでしたので今年はきちんと管理をしたいと思います。というか大産地では天水だけで収穫まで持っていくのでしょうか?生育後半に絶対水不足になるに違いなく、そうなればせっかくの粒がシュリンクしてしまいかねませんが、そこがプロとなんちゃってとの違いですか?
 生でかじるにはサニショコが一番美味しい気がします。と言っても味来を栽培した事がないので言い切るのは早いかも知れません。ウルトラスーパースイートの名を冠した革命児ですが今のところ味来は栽培する気が端からありませんので比較は決して出来ません。生で食べるって云うのはチートと言うか、一種のパフォーマンスいやパフォーマンスそのものなのでしょう。生で食べられるほど美味しいとなれば消費者へのアピールは相当なものになります。でもやっぱり加熱調理したほうが飽きないものです、消化も良くなるでしょうし。
 スーパースイートは種として美味しさが保障されているので、きちんと栽培すれば誰でもおいしいトウモロコシが作れます(それはそれで難しいか)。寧ろ大変なのは2,3日と云われる収穫適期をいかに逃さないかということかもしれません。
スーパースイートからウルトラと来て次はマックスかアルティメットかは分かりませんが行くとこまで行っちゃった感があります。さてその先は何処へ行くのやら。甘さばかりが求められる今日日の風潮にはいささか食傷気味ですが、確実に言える事はそういった種は発芽率が極端に悪く、植物体も病気に弱いいびつな物が多いということです。

 

スイートコーン

2009年06月06日 | 野菜大全

 スイートコーンは南米が原産と言われ、小麦、米と並んで世界三大穀物に数えられますが日本においては穀物としてではなく、野菜の一種として未熟果を食べるのが主流です。かつては夜店の焼きトウモロコシやフルーツミックスの付け合せのようなイメージが強いような気がしますが、今はスイート種から更にスーパースイート種へと進化を続け、まるで果物の様に扱われるに至っています。生産者の、栽培者の特権かもしれませんが畑で食べる生のトウモロコシの味は将に果物そのものの美味しさです。特にスーパースイート種のいくつかは生食が断然美味しいと思わせる程の濃厚な味をしているものです。


 スイートコーンはイネ科のC4植物で強日射の条件下でも効率良く光合成を行なえる優れた性質を持ち、吸肥力も強いので畑に溜まった余分な肥料分を吸収してくれるクリーニングクロップとしての役割を果たしながら美味しい果実を生産する一石二鳥の有り難い野菜です。加えてイネ科作物は連作障害を軽減すると言われ、輪作体系に組み込むと良いとされていますし、その残渣の葉稈は土に漉き込めば格好の有機物の補給になります。
 そんなスイートコーンは数ある野菜の中でも有数の美しさを持っていると思います。光沢のある葉は大きく広がり、太くたくましい茎稈は品種によっては二メートル近くに成長してやがてその頂点に雄穂を出穂させます。根元ではわき芽とタコ足のような気根がその大きな図体を支えるためにしっかりと地面にくさびを打ち込みます。


 一番高いところに出る雄穂は傘のように折りたたまれた棹を開き、風の吹くのに任せて花粉をこれでもかと放出しますがその下部に成る雌穂の絹糸抽出は3日から5日のずれが有り自家受粉をなるべくしないように出来ています(結局自家受粉するんですが)。雌穂の絹糸はその一本一本が子実の一粒ずつに繋がっており、受粉が上手くいかなかった時は歯抜けの未充実な果実になってしまいます。


 そして雌穂の繊細さは絹糸の名の通り金色の絹の糸そのものです。とは言えそれも受粉を果たすまでの束の間の美しさで、受粉が完了すると次第に絹糸は萎びて茶色味を帯びてしまいます。はかない美しさはやがて子実へと移り、プリプリとはち切れんばかりに充実した黄金の実は噛み締めると甘く濃厚な汁が溢れます。
  

Raphanus sativs

2009年02月20日 | 野菜大全
 大根の学名はRaphanus sativs ラファナスはラーパつまりカブの事をさすらしいが、割れるもしくは早く割れるという意味だと言う話もある。割れるという意味なら初生皮層の剥皮現象(本葉3~4枚目頃に芯部が肥大して外皮が縦に裂ける)を指しているのかもしれないが、そうするとBrassica属のカブも同じく剥皮するので、やはりここは「早く割れる」の意味のほうが通る気がする。
 では「早く割れる」とはどういう意味なのかというと、やはり種の発芽が早いということになる。アブラナ科の中でもかなり早い部類に入り、うちの畑ではルコラ、ミズナ、小松菜などの漬け菜類、キャベツ類の順に発芽して、大根はミズナとほぼ同じと見ている。発芽の早さと種の大きさには関係があって、小さい種ほど発芽は早くなる。小さな種ほど貯蔵物質が少なくもしくは無いために、光合成を早く始めたほうが有利という訳らしい。弁当を持ってるかいないかみたいな話。
 では大根の種はというとアブラナ科では異例というくらいとても大きい、ルコラは芥子粒ほどしかないが大根は米粒より大きいくらいか。それでいてミズナこれもかなり細かい、と同等の発芽スピードは大根の特性として昔の人が認識してもおかしくは無いでしょう。 もしかして大根の種はあのなりで貯蔵物質をもっていないのか?その辺はまたにしておきます。

 カブを差し置いて最も地方の在来品種の多い大根ですが、大和においてはこれと言った品種は報告されていません。ただ白上がり大根という細身の正月大根はあります。土壌の性質からすると聖護院のような丸大根や、田辺大根のような短系種があってもよさそうなのに残念です。それらの有名な大根以上に特徴のある大根が生まれなかったのでしょう。
 古くは古事記にも登場し、仁徳天皇から磐媛に送った歌に詠まれています。おおかた嫉妬深い磐姫をなだめる歌なんでしょう。 生駒の聖天さんこと宝山寺の寺紋って言うのでしょうか?あれは確か「二つ大根」ですね、違ったかな。本尊ではなく守護仏と言うらしいが完全に母屋を乗っ取った感じです。

 大根はカブと何が違うのか?と言う問いは素朴さゆえに実に難しい質問です。アブラナ科のラファナス属とブラシカ属の違いは現在はDNAレベルでの違いとして分類がなされてるはずですから、カブは同じブラシカ属のキャベツやアブラナに近く大根は遠いことになる。でも同じ科なので両者を掛け合わせた品種は既に市場に出回っています。絶対量が少ないのでもし見かけた方はラッキーですね。
 農家としては種の大きさが全然違うのでそこが決定的な差異といえる。葉の姿からカブは広葉で大根は鋸歯葉だから違うと言うのは、辛味大根系で広葉があり、天王寺かぶに切れ葉があるため十分条件ではない。 大根は主に根部が肥大するのに対して、カブは胚軸部(茎と根の中間)が肥大すると言うのも、二十日大根は胚軸が肥大して日野菜は根部も肥大しており十分とはいえない。やはり種子の大きさの違いは単純だが決定的な違いといえそうですね。

 それはそうとして春大根ですがかなり困った事になりました。一部で葉色が違うと思っていたらやはり薄くなった辺りトウが立ち始めているようです。一応トンネルをして25度以上を確保していたつもりだったし、一部だけが春化出来ないなんてことは思いもよりませんでした。最初はモザイクウイルスにでもやられたか微量要素障害かとも考えましたが、追肥と潅水不足がトウ立ちを早めたのだと考えています。まだス入りが有るわけでもないので十分に肥大しきってないが早めに出荷しようかと、異変があって気付いていたにもかかわらず対応しなかった落ち度は自分に有るのでどうしようもないですね。

  
                     右手の大根の葉色が抜けている

 
 それに加えて更なる問題、ハタネズミの野郎が大根を齧っていました。本当に頭にきましたので宣戦布告します。土中が齧られているならモグラの可能性も考慮に入れなければなりませんが、地際が齧られているのでネズミで確定でしょう。モグラ穴をネズミが利用する負の連鎖は今のところ無いけど、エサが少ないからか冬のほうが活発に動き回り、暗黙の了解(畑には入らない)を易々と破ってくれる。これはもう狩らないといけないかもしれません。