日経が時価総額で世界中の企業で、今年5月5日時点の100位以内と、10年前の09年5月5日の時価総額を調査会社リフィニティブの集計データで比較していた。それによると、10年前には日本企業が5社あったのがトヨタとソフトバンクの2社にまで減っていると言う。
上位100銘柄で存在感を増しているのが、米ネット企業と中国勢だ。米アップルや米アマゾン・ドット・コムなどテック企業が上位にずらりと並ぶ。中国勢は10年前には10社だったのが、今年は14社まで増えている。
一方、急速に存在感を失いつつあるのが日本勢だ。10年前にはNTTドコモやホンダなど5社がランクインしていたが、足元では2社しかない。日本企業の存在感がピークに近かった1989年には世界上位10社のうち7社が日本企業だったことから考えると、退潮はさらに鮮明だ。
この理由は、事業構造改革の徹底で、多くの日本企業ではh十分であったためだと言う。
「戦う領域」を常に意識してきた孫会長
「日本企業の経営者は、従来の事業に固執する。最大の問題点はドメインの見直しができないところだ」
ドメインは事業領域と訳されることがあるが、孫会長は「戦う領域」と言い換えていた。これまでの遍歴を見れば、孫会長が常に「戦う領域」を考えてきたことは明らかだ。81年の創業時はパソコン用パッケージソフトの流通などを手がけていたが、出版、インターネット、通信、人工知能(AI)と戦う領域を次々と変えてきた。
「膨大な有利子負債を抱えて財務は大丈夫なのか」などと同社には様々な課題が指摘されているが、勝てる領域に経営資源を集中投下し、成長してきたことは間違いない。株式市場もこうした事業構造の転換と成長を評価してきた。
もちろん、孫会長が一代で築いたソフトバンクグループのような会社と従来の日本の大企業とを同じように語るのは難しいという声はあるだろう。しかし、歴史ある企業が続々と大がかりな事業構造改革を断行してきた地域がある。それは欧州だ。米テック企業や成長著しい中国企業ほどの爆発的な伸びではないものの、この10年で着実に利益水準を高め、株価を上昇させている。
欧州企業は会社の屋台骨を切り離す
独シーメンスもその1社だ。5月7日には火力発電向けタービンなどを手がけるガス・電力事業を20年までに分離・上場させると発表した。原子力発電、風力発電、火力発電と、名実ともに会社の顔だった電力事業から事実上撤退。インフラや工場向けデジタルソリューションを主力とする会社に生まれ変わろうとしている。株式市場はこの決断を評価し、発表後に株価は大幅に上昇した。
ジョー・ケーザーCEO(最高経営責任者)は日経ビジネスのインタビューにこう答えている。「技術の長期シナリオや会社の状況を考えれば、誰かが(事業の)優先順位をつけなければならない。改革が失敗すれば経営者が責任を取るのみだ」。こうした覚悟で事業構造の改革を断行しており、ケーザー氏が13年にCEOに就任してから営業利益率は10%前後で安定している。
大胆な改革では蘭フィリップスも負けていない。かつてはテレビや照明などを手がける総合家電メーカーだったが、11年には家電事業を次々と売却し、今やヘルスケア企業に生まれ変わった。改革を主導したのは11年にCEOに就任したフランス・ファン・ホーテン氏だ。「テレビや照明でアジア勢に勝つことは難しいので、撤退は不可避だった。改革に抵抗する役員を一掃し、改革意欲の高いマネジャーを集めた」と、強い覚悟を持って改革に臨んだ。
こうした変革は日本企業には難しいのだろうか。必ずしもそうとは言い切れない。ソニーはかつては祖業であるエレクトロニクス事業の改革に苦しんだものの、今や音楽や映画、ゲームのコンテンツなどで稼ぐ構造転換が奏功し、18年度の純利益は2年連続で最高益を更新している。総合商社は時代に合わせた事業ポートフォリオへのシフトを進め、最高益を更新する会社が相次いでいる。
決断を先送りすれば、事業を手放さないために徐々に競争力が弱っていき、最終的に二束三文で事業を売るしか選択肢がなくなる。結果として、従業員が路頭に迷うことになる。事業が強いうちに他社とのM&A(合併・買収)に踏み込み、相乗効果を発揮できれば、世界市場で競争力を維持できた事業はあったかもしれない。
日本と欧州は共に成熟市場に立脚し、労働者への配慮から簡単に解雇ができない国があるなど共通点が多い。欧州企業の動きは成長の限界を突破する大きなヒントになるのではないか。