米テスラ(Tesla)が繰り出した電気自動車(EV)「モデル3」には「ボディー・コントローラー(BC)」と呼ぶ基板群がある。車両に散らばるECU(電子制御ユニット)を集中させた部品だ。この採用の結果、ワイヤーハーネスが激減し、ヒューズが消えた。BCとはどのような部品なのか。技術者らとともに迫った。

 「ECU(Electronic Control Unit、電子制御ユニット)が異常に少ないぞ!」、「ヒューズボックスはどこだ?」

 日経クロステックと、日経BP総合研究所は米国のテスラ(Tesla)が開発した電気自動車(EV)「モデル3」を2019年10月に、様々な企業の協力を得て分解した。そこで技術者が驚いたのが、ECUの異常な少なさだ。例えば、2017年型の日産自動車の新型リーフには、30個程度のECUが搭載されていた。これが、モデル3では、主要なECUはわずか5個だった。

 ECUの激減にともない、ECU同士を結ぶワイヤーハーネス(電線)も激減した。目算だが、リーフと比較して半分もない。

 このECUを激減させた中核部品が、ボディー・コントローラー(以下、BC)と呼ぶ集中型のECUである。一体、BCはどのような構造になっていて、どのように動作するのか。技術者の協力の下、調査した。

現行車はECUが分散

 一般的な車両において、ECUは、ドア用、エアコン用、パワーステアリング用といった具合に制御対象に応じて別々に用意される(図1)。これらのECUはそれぞれの制御対象にあるセンサーからのデータを取得するとともに、別系統で供給される12Vの電源からの電力をオンオフしてモーターやヒーターなどのアクチュエーターを動作する。

図1 分散したECUを集中・統合
図1 分散したECUを集中・統合
一般的な自動車の車両では、機能ごとにECUが用意される。各ECUは相互通信のために、CANやLINのインターフェース、ECUに接続されるアクチュエーターへの電力供給を制御するためのマイコンや電源回路が搭載される。また、12V系の電源も別の系統で提供される。テスラのモデル3では、分散していたECUを電源供給も含めてボディー・コントローラーに統合した。(図:日経クロステックが作成)
 

 ECU同士は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)といったデータバスで結ばれており、相互に情報を交換する。例えば、半ドアの場合、警告音がスピーカーから流れるような機構があるが、ドア用のECUがセンサーから半ドアであることを検知、CANを通して半ドアであることを知らせる。これを、警報システムのECUが受け取り、スピーカーに音声信号を乗せた電力を送って警告音を発する。

 以上のような仕組みであるため、各ECUにはCANやLINのインターフェースIC、センサーや他のECUからのデータを基に判断し制御するためのマイコン、12Vの入力を、アクチュエーターを駆動するための電力として出力する電源回路が組み込まれている(図2)。

図2 従来型ECUは個別にマイコン、スイッチ、CANを搭載
図2 従来型ECUは個別にマイコン、スイッチ、CANを搭載
2017年型の日産自動車の「リーフ」の電動パワーステアリング(EPS)用のECUの場合。CANで他のECUからの情報、モーターのトルクセンサーからの情報などを基にマイコンが判断し、EPSのモーターを制御する。(写真:日経クロステック)
 

 12V電源系統の上流には、リレースイッチやヒューズがある(図3)。リレースイッチは、ヘッドランプなど大電流を必要とする機器に直接電力を供給するほか、安全性と省エネのために各機器に対して不要な電力を送らないように働く。ヒューズは異常な電流が流れたときに、遮断するために用意される。

図3 リレースイッチとヒューズが統合されたIPDM(Intelligent Power Distribution Module)
図3 リレースイッチとヒューズが統合されたIPDM(Intelligent Power Distribution Module)
2017年型のリーフでは、物理的なリレースイッチと、ヒューズが統合されたケースに入っている。リレースイッチは、CANを通して他のECUから制御される。テスラ モデル3にはIPDMのような装置がない。(写真:日経クロステック)