platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

ロック・オペラ『TOMMY』の仕掛け人

2007-02-14 | TOMMY
The Whoというバンドについて書かれたものを少しでも読むと、Kit Lambertという名前が目に入ってきます。
 映画版トミー、ロジャー・ダルトリーに言わせれば、作曲者はもちろんピート・タウンゼントだけれど、ランバートの提案なしでは"Tommy"という作品は成り立たなかった、ということです。
 ランバートは、ロックン・ロールというものが大衆に支持されてエモーショナルだというだけで、音楽としての質が低いものとみなされている風潮を変えたかったのだといいます。高名なクラシックの作曲家の息子として生まれ、ロックをこよなく愛した彼は、ロックを芸術の一つの形態として認識させることに努力していましたが、そのほかの音楽業界というものも熟知していました。そして出した結論がThe Whoを、音楽の境界を越えるバンドにするためにあらゆるフォローをする、ということだったそうです。そしてそれまで誰も口にした事がない、「ロック・オペラ」という言葉を発した、というわけです。
 父親である高名な作曲家というのは、コンスタント・ランバート。13才でオーケストラ譜を書き、20才の時にはニジンスキーのプロデューサーとして知られるディアギレフのバレエ・リュス(ダンスファン、力が入ります)とも仕事をし、その後も英ロイヤル・バレエの前身となるバレエ団とコラボレーションを重ね、指揮者としても活躍しました。その一方で、ジャズやポピュラー・ミュージックに注目した最初のクラシックの作曲家として先見性が語られています。また逆に、クラシックの道には進まなかったものの、息子であるキットは、オペラは勿論バレエにも造詣が深かったのです。
 『TOMMY』はロックの雄、The Whoのパワーとともに、この先鋭的な音楽家親子の血にも支えられているということでしょうか。この作品は「ロック」という枠には収まらず、トニー賞のオリジナル・スコア賞まで受賞しているのですから、事はランバートの目論見どおりに進んだことになりますね。そしてクラシックからストリート系ダンスまで、音楽と同調しながらありとあらゆる身体の造形を網羅する青山さんのダンスがこの作品と出会ったのも、この親子のパッションの求心力のせいかも知れません。