platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

ダンス/バレエってどんなもの

2005-11-06 | グランドホテル ザ ミュージカル
美女の代名詞のようなグレタ・ガルボ、映画『グランドホテル』に関しては「美しいけれどバレリーナに見えない」という評が一般的のようです。確かに、「いかにも」な白いチュチュ姿なのは私も残念。もう少し彼女に似合う衣装があるだろうに・・・「落ち目の」という設定にしても外しすぎのような気がします。

 今なら長身のバレリーナもかなりいますし、なんとなくシルヴィ・ギエムと重なる表情もあったりして、少しいかり肩なのを除くと、イメージ的にかけ離れているとまではいかないのですが、1920-30年代のバレリーナは、今と比較すれば「アンコ型」というしかない、小柄で女性らしい優美さのある体型が主流で、衣装もそれに合わせて可愛らしいものが多かったようです。当時のスタッフにすればガルボに似合うかどうかより「バレリーナはこうでないと」という感じだったかもしれませんね。興味のある方は前にも紹介した"gettyimages"HPで、アンナ・パブロワ(Anna Pavlova)、当時の"バレエ・リュス"の名花タマラ・カルサーヴィナ(Tamara Karsavina)などの写真をご覧ください。前田美波里さんなら、今の私たちが想像するバレエダンサーにイメージが近くてすんなり見られそうですね。史実にのっとってレトロなアンコ体型だとちょっと戸惑うところです。

 そう思うとバレエ/ダンスは20世紀の間にものすごくシャープになったんだなと改めて感じます。そして今世紀は、青山さんたちがいま「三忍者」で見せているような男性舞踊手のダイナミックな動きにますます関心があつまるような気がしています。アクロバティックな動きは正統的じゃないという見方もあるのでしょうが、原始的な舞踊がもっていたパワーを感じさせてくれるものには、(私のような原始的な人間は特に)否応なしに心が惹かれますし、もともとは戦いや狩猟にちなんだものであったというダンスが「男性の手に返った」ように思えるぐらいです。また、これはシリーズ全部に共通することですが、ひとつひとつのポーズの形の良さが、伝統的な日本舞踊の延長線上に交差する勇壮な美を見せてくれるのも楽しいです。

 青山さんは「はいダンスですよ」と包んで差し出すのではなく、「ひらめき」にのせてダンスと意識させずに大技を見せる人ですが、今回の『なんでもダンス!』の「ゴム」を使った動きなんかもスローで見てみると、ええっ、こんなに飛んでるの?ときっと皆さん驚かれるだろうと思います。その後の脚を上げてのターンも、かなり高く上げたまま、きっちりアンドゥオールで「ダンス」していて、参りました。それに、ついに今回は「布」を使って自分をリフトし、リフトされる青山さんまで眼にする事ができて、タイトルどおりとはいえ、「この手があったのか~」と自分の固い頭も少し柔軟になったような気がします。

 今日本にあるバレエ/ダンスはこういうもの、という一般の見方は、あまり『グランドホテル』の「バレエ」と違わないかもしれません。確かに間違ってはいないのかもしれないけれど、クラシックですら白いチュチュ(や薔薇)がすべてではありませんし、まして現代では鋭利な刃物のような体躯がひとつの理想とされています。高い身体能力と芸術性をあわせもつ青山さんのダンスを見て「えっ、ダンスってこういうものだったの?」と思う方はきっと多いだろうと思います。ハリウッドの衣装さんだって「三忍者」を見れば、「いかにも」なダンスシューズでなく、地下足袋がかっこいいのね、と思うに違いありません。意識を変えてくれるアーティストってやはり魅力的ですね。