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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
英訳短歌version0.01
* 有田のさくら(018)
「今年は桜が咲くの、遅いね」
Oさんが言った。
私の家には、ささやな庭がある。
70才まで住宅ローンに縛られている報酬の一つであると
思っている。
Oさんは、そこに植えている桜の木のことを言っているのだ。
まだまだ蕾は固そうである。
ソメイヨシノの開花日は、緯度が1度違えば、
4日ぐらいの差があると言われている。
そうだ!
いいこと思いついた!
早速、今年のソメイヨシノの開花日を見た。
紀伊半島の南西部は、このあたりより、
1週間ほど開花が早そうである。
ということは、あのあたりに行けば、もう大分咲いているはずだ。
私は、すぐさま出掛けることにした。
往復8時間もみておけば十分だろう。
紀伊半島で暖ったかそうな所を捜せばいい。
BOX型の小型クーラーに水を入れ、
サヤカの荷台に積んで一路24号から半島へと
向かった。
24号は慣れた道の一つである。
寒さも薄らいできたので、すれ違うバイクの量も増えてきた。
ミニバイクにヘルメットを被らずに乗っている奴も多い。
自分自身の為なのにと思うのだが、他人のことなので、
どうにも出来ない。
和歌山から42号に入る。
バイクだと2時間でおつりがくる。
信号が多いので、しょっちゅう流れが狂う。
桜の花を取るのは何処でもいいのだが、
人が居なく、なるべく花びらが
大きいのがいい。
海南を抜け有田に入る。
私は、海岸が好きだから、有田で42号を出て海岸沿いを走った。
いつもの走りとは逆回りである。
けれども帰りには海岸を左手に見ながら走れるので我慢できる。
春の海はキラキラとして、冬に比べると大分軽くなっている
感じがする。
ところどころに波が白く盛り上がっているのが何とも言えず綺麗だ。
数キロ走ったところに堤防があった。
桜の木があり十分咲いていた。
五分咲きぐらいか。
何分咲きと問われても、私などは全体像も、
ましてやそれが何分かなどということは、
分かりはしない。
五分といっておけばどちらに転んでもそう差が出ないはずである。
人通りもない。
車も少ない。
私は、桜の花を小枝の根元から丁寧にナイフで切り取って
BOXのなかに入れた。
目標は200個である。
一本の木からたくさん取ると悪いので、
それぞれの木から、20本ずつぐらい、
取ることに決めた。
木の本数が少なかったので目標の本数に足りない。
この先あてもなく進んでも桜があるかどうかわからないし、
もしあったとしても、
このように心おきなく摘めるかどうかわからない。
桜ちゃん、許せ!
目標の本数になるまで切った。
BOXに200も入れると水が溢れた。
桜の花は傷みやすい。
もう散っているものもある。
明日の朝まで持つだろうか?
心配だ。
桜の花のことで頭がいっぱいだった。
Oさんには、ちょっと出てくると言ってあるだけである。
土曜日は内職をしているからクーラーを持ち出そうが、
何をしようが知らない。
私は、ゆっくりと家路に向かった。
花の生きのよさが心配でたまらなかった。
帰ってクーラーを隠すように物置の隅においた。
何をするのかって?
そう、家の桜の木に紀伊半島の桜の花を接着剤で止めて、
花咲かオッさんになって、
Oさんを驚かしてやろうと思っているのだ。
明日の朝は6時に起きよう。
Oさんは日曜日は8時に起きるから、
2時間もあれば大丈夫だろう。
ああ、明日の朝が楽しみだ。
Oさんの驚く顔が久しぶりにみられるぞ。
さくらのうた:あと2・3日の 短き生命を アンタはな
気分ひとつで さらにお縮めか
(ちうのうた:ダラダラと 人喜ばすことなく 消えるより
アッと言われて 散りなはれ)
さくらのうた:知りもせぬ 人喜ばせて 何になる
おらーオラの道 歩んでみたい
(ちうのうた:桜はん アンタの言うこと もっともだ
でもオレには アンタが必要)
さくらのうた:ドン作はん 何であんたは このオラを
こんなとこまで 引っ張りこむか
(ちうのうた:これも縁 アンタのことは 忘れはせん
アホなことして ごめんなさい)
ち ふ
この項おわり
註、
短歌の英訳につきましては、
短歌を打ち込んで、(←数テンポ遅れの元電脳人)
検索をかけてみてください。(以下、略すこともあります)
「
くだらない小説を書きてよろこべる
男憐れなり
初秋(はつあき)の風
啄木「一握の砂」
」