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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
英訳短歌version0.01
平成はじめのころです。
* 薬師寺の塔(040)
月が清やかな金曜日の夜だった。
明日は休みである。
私が家に帰ったのは7時半。
Oさんは、まだ内職をしていた。
私はサヤカに乗りたくなった。
季節は初秋。
革ジャンを着て24号に出た。
一時間半ぐらいで家に帰れるだろうと思った。
Oさんに「すぐ帰るから」と声を掛けておいた。
「遅くならないでね」
晩飯は帰ってから食うつもりである。
薬師寺の大池に映る月が見たくなったのだ。
24号では、相変わらずゼロハンに乗った
ガキどもがウロウロしていた。
私に挑みかかるような運転をして来るヤツもいる。
無視! 無視!
ヘルメットを被っていない奴も多い。
持っていても背中の方に掛けている。
<>型に脚を曲げている者もいる。
ヤツらの身体はヤツらのものなのにと思うが、
どうしようも出来ない。
無力感を感ずるのみ!
薬師寺は奈良の西はずれにある。
西の京とも呼ばれている。
わが家の方面からは、24号を奈良市街に入る手前で、
左に折れて数分の所にある。
その高さ33mの東塔と西塔が、うっすらとシルエットを
掲げている。
大池は薬師寺のすぐ南にある、その名の通りの池である。
サヤカを止め池の堤に立つ。
金堂、西塔、東塔がひっそりと大池に影を落としていた。
初秋の夜の走りは肌寒いが、
バイクを下りると少しだけひんやりとして気持がいい。
小波が表面を覆っている。
キラッ、キラッと小ネオンのように輝いている。
静かだ。
虫の音が、ジィーン。
ぼんやりと佇む。
何も考えず、ただ風景に溶けこむ。
私は、こういう時間も大好きだ。
自分の存在はあるのだが、己れが人であることを、
すっかり忘れてしまう。
そんな時であった。
塔の上部にあるアンテナのような相輪が、
ぼんやりと浮かんでいる。
相輪は下の方から、9輪の宝輪、4枚の水煙、竜車、宝珠とから
なっているという。
その二塔の相輪の上を、ぴよよーん、ぴよよーんと、
月が交互に飛び跳ねている、のである。
まさかと思って顔を水面から上げて、
二つの塔、その上空にある、
月を見上げてみたのだが、何も変わりはない。
だが、再び水面に目を落とすと、
明らかに、月が跳ねているのである。
これは何としたことだ!!
二塔の相輪が、月をピンポン玉にしたてて、
卓球をしているみたいだ。
二塔が遊んでいるのか?
月が飛び跳ねているのか?
私には、よくは分からないが、何にしろこれは現実だ。
ヤツらも人知れず、結構楽しんでいるのだな!
ヤツらの笑い声が聞こえて来そうな夜だった。
大池や 東塔・西塔 豪快に
月の羽根つき 長月青夜
ち ふ
この項おわり