ジュラシック・パーク(上)(下), マイクル・クライトン (訳)酒井昭伸, ハヤカワ文庫NV696・697(3318・3319), 1993年
(JURASSIC PARK by Michael Crichton 1991)
・『恐竜』をテーマにして大ヒットした映画の原作にあたるSF長編小説。映画も面白かったですが、小説の方も素直に面白いです。上下巻合わせて約800ページほどありますが、それほど長くは感じません。どこまで事実を書いているのか作り話との継ぎ目がわかりませんが、非常に専門的な記述が多数あり、物語のリアリティを高めています。原作を読んでみると、映画ではかなり内容を削っていることがわかります。
・作中の数学者イアン・マルカムの言葉は非常に暗示的。
・11/4に著者が亡くなったとのニュースが報じられていました。同著者の著作は初見でしたが、なんという偶然。合掌。
・「20世紀も残り四半世紀というあたりから、科学のゴールドラッシュともいうべき現象がはじまった。すさまじいまでの速さで性急に進められていく、遺伝子工学の事業化である。この事業の発展ぶりたるや、まさに猛烈のひとことにつきるが、外部にはめったに情報が漏れてこないこともあって、その特徴や意義は一般にほとんど理解されていない。 バイオテクノロジーは人類史上最大の革命を約束する。20世紀がおわるまでには、原子力やコンピュータよりはるかに大きな影響を日常生活にもたらしているだろう。」上巻p.9 書き出し。
・「フードというのは自動DNA塩基配列決定装置(シークエンサー)――自動的に遺伝コードを解読する機械の通称でしてね。開発者の名をとってこう呼ばれているんです。」上巻p.83
・「アフリカやインドのサファリ・パークでの研究によれば、捕食者/被食者の比率は、おおまかにいって、草食獣400頭につき肉食獣一頭の割合だという。その割合をそのままあてはめれば、10000頭のカモノハシ竜の群れに対しては、25頭のティラノサウルスしかいなかった勘定になる。したがって、大型肉食恐竜の化石が発見されることはきわめてまれだ。」上巻p.91
・「肉食恐竜は一度の食事で体重の25パーセントの肉を食べ、そのあとは眠くなる。」上巻p.116
・「たとえばライオンの群れの場合、新たにその群れを乗っとった雄が最初にすることは、子供を皆殺しにすることであることを知っている。理由はどうやら遺伝子にかかわることらしい。」上巻p.117
・「結局ハモンドらは、おおむね日本の借款団にたよらざるをえなくなった。それだけの忍耐がある投資家は、日本人だけだったのである。」上巻p.122
・「ホーンテッド・マンション、カリブの海賊、ワイルド・ウエスト、大地震――どこにいっても似たようなものばかり。だからわれわれは、生物学的なアトラクションを創ることにしたのだ。生きているアトラクション――とてつもない脅威に満ち、全世界のどぎもをぬくようなアトラクションをな」上巻p.124
・「知ってのとおり、動物園の人気は高い。昨年のアメリカの全動物園の入場者数は、プロ野球とプロ・フットボールを合わせた全試合の入場者数よりも多いのだ。加えて日本人は動物園好きだ。日本には50もの動物園があり、さらにつぎつぎに造られているという。」上巻p.135
・「遺伝子操作された動物は特許の対象となる。1987年、最高裁がハーヴァードに有利な判決を出している。InGenは恐竜の特許をとるだろう。そうなればだれも、合法的には類似品を造れなくなる」上巻p.136
・「じっさいのところ、恐竜のDNAはですね、哺乳類のDNAよりも抽出が簡単なのです。なぜかといいますと、哺乳類の赤血球には核がありませんから、赤血球中にDNAはない。(中略)ところが恐竜は、現在の鳥と同じように、赤血球に核がある。これは恐竜が現世爬虫類とは異質な生物であることを示す、多くの証拠のひとつといえます。恐竜は厚い皮におおわれた、巨大な鳥類だったのです」上巻p.197
・「爬虫類の卵は卵黄を大量に含みますが、水はまったくふくんでいません。したがって、胚は卵外の環境から水分を補給しなくてはならない。この霧はそのためのものです」上巻p.208
・「三歳の子供が、「あ、ステゴサウルス!」と叫んだときの驚きはいまもわすれられない。子供たちがこんな複雑な名前を覚え、口にできるのは、名前を覚えることで巨大な権威を身近なものにしたい、という願望があるからではないのだろうか。」上巻p.226
・「「そうするとヴェロキラプトルは、皮膚といい姿といい、爬虫類の外見を持っていながら、鳥のように動き、鳥なみのスピードと獲物を狩る知恵を持つ――そういうことか?」 「そうだ」とグラント。「しかも、両方の習性がもじりあっているらしい」」上巻p.233
・「1842年、当時の英国の指導的な解剖学者であったリチャード・オーウェンは、その骨の主に "恐竜(デイノサウリア)" という名前をつけた。ラテン語で "恐ろしいトカゲ" という意味である。」上巻p.233
・「「飼いならされた恐竜?」ハモンドは鼻を鳴らした。「だれもそんなものは見たがらんよ、ヘンリー。客が見たいのは本物の恐竜だ」 「それには異論がありますね。はたして客は本物を見たがるでしょうか。客が見たいのは予想どおりの恐竜です。ここにいる恐竜は、一般のイメージとはかけはなれています」」上巻p.238
・「人生はあまりにも短く、DNAはあまりにも長い。」上巻p.243
・「大規模なコンピュータ・システムを構築するプログラマーともなると、秘密の入口を仕掛けておきたいという誘惑には抵抗できない。むしろそれは常識だ。もしバカなユーザーがシステムをハングアップさせたとしても――そして助けをもとめてきたとしても――そういう入口を用意しておけば必ず修復できる。それに、サインの意味もある。"キルロイ参上" というやつだ。」上巻p.340
・「恐竜はすぐれた視力を持っていますが、視覚器官は基本的に両棲類のそれでしてね。動きに同調するんです。だから、動いていないものはまったく見えません」下巻p.20
・「DNAはおそろしく古い分子である。現代世界の街路を闊歩し、赤ん坊を膝の上であやす人間はわざわざ考えてみようともしないことだが、すべての生物体の中心にある物質は――生命の踊りをはじめた物質、すなわちDNA分子は――地球と同じくらい古い歴史を持っており、その進化は20億年以上も前に、本質的に完了している。以来、抜本的な変化は起こっていない。」下巻p.33
・「大型肉食恐竜の顎の力は、そんなに強くないんです。強靭なのは、首の筋肉組織のほうでしてね。顎は獲物を抑えるためのもので、ふつうは強力な首をねじって、獲物のからだを引きちぎるんです。」下巻p.102
・「技術者に知能はない。連中にあるのは、わたしがいうところの "見かけの知能" だ。技術者は当面の状況しか見ない。連中にいわせれば、"目前の問題に集中する" ということだが、要するに考え方の幅がせまいということだ。技術者はまわりを見ようとしない。結果まで見とおそうとしない。」下巻p.180
・「科学者は副産物やゴミや傷や副作用を望む。それらを創りだすことで、彼らは安心するんだ。科学という布には最初からそのような意図が織りこまれていて、それが破局の規模を増大させてゆく」下巻p.182
・「「進歩とはなんだ?」マルカムはいらだたしげにいった。「さまざまな進歩があったにもかかわらず、1930年以降、女性が家事に費やす時間は変っていない。掃除機、洗濯機、乾燥機、固形ごみ圧縮機、生ごみ処理機、ノーアイロンの服……。それだけのものが開発されていながら、1930年以降、家事にかかる時間が同じなのはどういうわけだろうな?」 エリーは答えなかった。 「なぜなら、進歩などなにもなかったからだ」と、マルカムはいった。「ほんとうの進歩はなかった。三万年前、ヒトがラスコーの洞窟に壁画を描いていたころは、一週間に20時間も働くだけで、食べものも済むところも着るものもみんな手にはいった。残りの時間は遊んだり眠ったり、好き勝手なことができた。しかも彼らは自然の世界に住んでいた。済んだ空気、澄んだ水、美しい森、鮮やかな夕焼け。考えてみてくれ。週に20時間だぞ。三万年前はそれでよかったんだ」」下巻p.183
・「あらゆる大規模な変革は、死に似ている。彼岸にいってみないことには、向こうのようすがわからない」下巻p.237
・「だが、あんたは決して自然に慈悲を乞おうとしない。自然をコントロールしようとする。その時点から、人間は深刻なトラブルに巻きこまれざるをえない。なぜなら、そんなことはできっこないからだ。」下巻p.305
・「地球は人間の愚かさを超えて生き延びる。生物は人間の愚かさを超えて生き延びる。そうでないと思うのは――人間だけだ」下巻p.337
・「人間が出現してからいままで、地球にとってはまばたきひとつするあいだのことだ。人類があした滅亡したとしても、地球は気づきもしまいよ」下巻p.339
・「古生物学者というものは、長いあいだ化石骨を発掘してきて、骨格からどれだけ貧弱な情報しか得られないかをわすれてしまっている。化石骨はたしかにその動物の姿形を、体長や体重を教えてくれる。筋肉がどのようについていたかもうかがわせてくれるし、その情報をもとにして、その動物の往時の行動ぶりも偲ばせてくれる。骨の状態から、その動物たちがどのような病気にかかったかの手がかりも与えてくれる。だが、しょせん骨格は貧弱な情報源でしかなく、そこからその動物の全体像を読みとることは不可能だ。」下巻p.389
●解説(小畠郁生)より
・「この耳慣れない "ジュラシック" とは日本語の "ジュラ紀" にあたる時代の名称で、フランスとスイスの境にあるジュラ山脈にちなんで名づけられたものだ。ジュラ山脈をつくっている堆積岩が、もともとこの時代にできたのである。」下巻p.403
・「主人公グラント博士のモデルは、どうもモンタナ州立大学ロッキーズ博物館の恐竜温血論者ジョン・R・ホーナー博士らしい。私は彼に何度も会ったが、風貌といい、性格といい、ビールのすすめ方までグラントそっくりだった。」下巻p.404
●訳者あとがきより
・「本書が世に出たころは、まだ "大きい、鈍重、頭が悪い" という恐竜イメージが一般に定着していた。そのイメージの落差をついて、時期的に遅すぎもせず早すぎもせず、絶妙のタイミングで常識をくつがえし、読者の知的好奇心を刺激したことが、本書がアメリカで大ベストセラーとなり、日本でも大好評をもって迎えられた最大の理由だろう。」下巻p.412
・「そういえば、このザウルスという表記、すっかり定着している感があり、話すときなどはつい「ティラノザウルス」などといってしまうのだが、語源はいったいなんなのだろう? もしや、「左(さ)衛門」が「××左(ざ)衛門」となるように、日本語特有のなまりではないかという気がするのだが、どなたか教えていただけませんか。」下巻p.415
?せんもう【譫妄】 医学で意識障害の状態の一つ。外界からの刺激に対する反応は失われているが、内面における錯覚、妄想があり、興奮、不穏状態を示したり、うわごとなどを示す。
(JURASSIC PARK by Michael Crichton 1991)
・『恐竜』をテーマにして大ヒットした映画の原作にあたるSF長編小説。映画も面白かったですが、小説の方も素直に面白いです。上下巻合わせて約800ページほどありますが、それほど長くは感じません。どこまで事実を書いているのか作り話との継ぎ目がわかりませんが、非常に専門的な記述が多数あり、物語のリアリティを高めています。原作を読んでみると、映画ではかなり内容を削っていることがわかります。
・作中の数学者イアン・マルカムの言葉は非常に暗示的。
・11/4に著者が亡くなったとのニュースが報じられていました。同著者の著作は初見でしたが、なんという偶然。合掌。
・「20世紀も残り四半世紀というあたりから、科学のゴールドラッシュともいうべき現象がはじまった。すさまじいまでの速さで性急に進められていく、遺伝子工学の事業化である。この事業の発展ぶりたるや、まさに猛烈のひとことにつきるが、外部にはめったに情報が漏れてこないこともあって、その特徴や意義は一般にほとんど理解されていない。 バイオテクノロジーは人類史上最大の革命を約束する。20世紀がおわるまでには、原子力やコンピュータよりはるかに大きな影響を日常生活にもたらしているだろう。」上巻p.9 書き出し。
・「フードというのは自動DNA塩基配列決定装置(シークエンサー)――自動的に遺伝コードを解読する機械の通称でしてね。開発者の名をとってこう呼ばれているんです。」上巻p.83
・「アフリカやインドのサファリ・パークでの研究によれば、捕食者/被食者の比率は、おおまかにいって、草食獣400頭につき肉食獣一頭の割合だという。その割合をそのままあてはめれば、10000頭のカモノハシ竜の群れに対しては、25頭のティラノサウルスしかいなかった勘定になる。したがって、大型肉食恐竜の化石が発見されることはきわめてまれだ。」上巻p.91
・「肉食恐竜は一度の食事で体重の25パーセントの肉を食べ、そのあとは眠くなる。」上巻p.116
・「たとえばライオンの群れの場合、新たにその群れを乗っとった雄が最初にすることは、子供を皆殺しにすることであることを知っている。理由はどうやら遺伝子にかかわることらしい。」上巻p.117
・「結局ハモンドらは、おおむね日本の借款団にたよらざるをえなくなった。それだけの忍耐がある投資家は、日本人だけだったのである。」上巻p.122
・「ホーンテッド・マンション、カリブの海賊、ワイルド・ウエスト、大地震――どこにいっても似たようなものばかり。だからわれわれは、生物学的なアトラクションを創ることにしたのだ。生きているアトラクション――とてつもない脅威に満ち、全世界のどぎもをぬくようなアトラクションをな」上巻p.124
・「知ってのとおり、動物園の人気は高い。昨年のアメリカの全動物園の入場者数は、プロ野球とプロ・フットボールを合わせた全試合の入場者数よりも多いのだ。加えて日本人は動物園好きだ。日本には50もの動物園があり、さらにつぎつぎに造られているという。」上巻p.135
・「遺伝子操作された動物は特許の対象となる。1987年、最高裁がハーヴァードに有利な判決を出している。InGenは恐竜の特許をとるだろう。そうなればだれも、合法的には類似品を造れなくなる」上巻p.136
・「じっさいのところ、恐竜のDNAはですね、哺乳類のDNAよりも抽出が簡単なのです。なぜかといいますと、哺乳類の赤血球には核がありませんから、赤血球中にDNAはない。(中略)ところが恐竜は、現在の鳥と同じように、赤血球に核がある。これは恐竜が現世爬虫類とは異質な生物であることを示す、多くの証拠のひとつといえます。恐竜は厚い皮におおわれた、巨大な鳥類だったのです」上巻p.197
・「爬虫類の卵は卵黄を大量に含みますが、水はまったくふくんでいません。したがって、胚は卵外の環境から水分を補給しなくてはならない。この霧はそのためのものです」上巻p.208
・「三歳の子供が、「あ、ステゴサウルス!」と叫んだときの驚きはいまもわすれられない。子供たちがこんな複雑な名前を覚え、口にできるのは、名前を覚えることで巨大な権威を身近なものにしたい、という願望があるからではないのだろうか。」上巻p.226
・「「そうするとヴェロキラプトルは、皮膚といい姿といい、爬虫類の外見を持っていながら、鳥のように動き、鳥なみのスピードと獲物を狩る知恵を持つ――そういうことか?」 「そうだ」とグラント。「しかも、両方の習性がもじりあっているらしい」」上巻p.233
・「1842年、当時の英国の指導的な解剖学者であったリチャード・オーウェンは、その骨の主に "恐竜(デイノサウリア)" という名前をつけた。ラテン語で "恐ろしいトカゲ" という意味である。」上巻p.233
・「「飼いならされた恐竜?」ハモンドは鼻を鳴らした。「だれもそんなものは見たがらんよ、ヘンリー。客が見たいのは本物の恐竜だ」 「それには異論がありますね。はたして客は本物を見たがるでしょうか。客が見たいのは予想どおりの恐竜です。ここにいる恐竜は、一般のイメージとはかけはなれています」」上巻p.238
・「人生はあまりにも短く、DNAはあまりにも長い。」上巻p.243
・「大規模なコンピュータ・システムを構築するプログラマーともなると、秘密の入口を仕掛けておきたいという誘惑には抵抗できない。むしろそれは常識だ。もしバカなユーザーがシステムをハングアップさせたとしても――そして助けをもとめてきたとしても――そういう入口を用意しておけば必ず修復できる。それに、サインの意味もある。"キルロイ参上" というやつだ。」上巻p.340
・「恐竜はすぐれた視力を持っていますが、視覚器官は基本的に両棲類のそれでしてね。動きに同調するんです。だから、動いていないものはまったく見えません」下巻p.20
・「DNAはおそろしく古い分子である。現代世界の街路を闊歩し、赤ん坊を膝の上であやす人間はわざわざ考えてみようともしないことだが、すべての生物体の中心にある物質は――生命の踊りをはじめた物質、すなわちDNA分子は――地球と同じくらい古い歴史を持っており、その進化は20億年以上も前に、本質的に完了している。以来、抜本的な変化は起こっていない。」下巻p.33
・「大型肉食恐竜の顎の力は、そんなに強くないんです。強靭なのは、首の筋肉組織のほうでしてね。顎は獲物を抑えるためのもので、ふつうは強力な首をねじって、獲物のからだを引きちぎるんです。」下巻p.102
・「技術者に知能はない。連中にあるのは、わたしがいうところの "見かけの知能" だ。技術者は当面の状況しか見ない。連中にいわせれば、"目前の問題に集中する" ということだが、要するに考え方の幅がせまいということだ。技術者はまわりを見ようとしない。結果まで見とおそうとしない。」下巻p.180
・「科学者は副産物やゴミや傷や副作用を望む。それらを創りだすことで、彼らは安心するんだ。科学という布には最初からそのような意図が織りこまれていて、それが破局の規模を増大させてゆく」下巻p.182
・「「進歩とはなんだ?」マルカムはいらだたしげにいった。「さまざまな進歩があったにもかかわらず、1930年以降、女性が家事に費やす時間は変っていない。掃除機、洗濯機、乾燥機、固形ごみ圧縮機、生ごみ処理機、ノーアイロンの服……。それだけのものが開発されていながら、1930年以降、家事にかかる時間が同じなのはどういうわけだろうな?」 エリーは答えなかった。 「なぜなら、進歩などなにもなかったからだ」と、マルカムはいった。「ほんとうの進歩はなかった。三万年前、ヒトがラスコーの洞窟に壁画を描いていたころは、一週間に20時間も働くだけで、食べものも済むところも着るものもみんな手にはいった。残りの時間は遊んだり眠ったり、好き勝手なことができた。しかも彼らは自然の世界に住んでいた。済んだ空気、澄んだ水、美しい森、鮮やかな夕焼け。考えてみてくれ。週に20時間だぞ。三万年前はそれでよかったんだ」」下巻p.183
・「あらゆる大規模な変革は、死に似ている。彼岸にいってみないことには、向こうのようすがわからない」下巻p.237
・「だが、あんたは決して自然に慈悲を乞おうとしない。自然をコントロールしようとする。その時点から、人間は深刻なトラブルに巻きこまれざるをえない。なぜなら、そんなことはできっこないからだ。」下巻p.305
・「地球は人間の愚かさを超えて生き延びる。生物は人間の愚かさを超えて生き延びる。そうでないと思うのは――人間だけだ」下巻p.337
・「人間が出現してからいままで、地球にとってはまばたきひとつするあいだのことだ。人類があした滅亡したとしても、地球は気づきもしまいよ」下巻p.339
・「古生物学者というものは、長いあいだ化石骨を発掘してきて、骨格からどれだけ貧弱な情報しか得られないかをわすれてしまっている。化石骨はたしかにその動物の姿形を、体長や体重を教えてくれる。筋肉がどのようについていたかもうかがわせてくれるし、その情報をもとにして、その動物の往時の行動ぶりも偲ばせてくれる。骨の状態から、その動物たちがどのような病気にかかったかの手がかりも与えてくれる。だが、しょせん骨格は貧弱な情報源でしかなく、そこからその動物の全体像を読みとることは不可能だ。」下巻p.389
●解説(小畠郁生)より
・「この耳慣れない "ジュラシック" とは日本語の "ジュラ紀" にあたる時代の名称で、フランスとスイスの境にあるジュラ山脈にちなんで名づけられたものだ。ジュラ山脈をつくっている堆積岩が、もともとこの時代にできたのである。」下巻p.403
・「主人公グラント博士のモデルは、どうもモンタナ州立大学ロッキーズ博物館の恐竜温血論者ジョン・R・ホーナー博士らしい。私は彼に何度も会ったが、風貌といい、性格といい、ビールのすすめ方までグラントそっくりだった。」下巻p.404
●訳者あとがきより
・「本書が世に出たころは、まだ "大きい、鈍重、頭が悪い" という恐竜イメージが一般に定着していた。そのイメージの落差をついて、時期的に遅すぎもせず早すぎもせず、絶妙のタイミングで常識をくつがえし、読者の知的好奇心を刺激したことが、本書がアメリカで大ベストセラーとなり、日本でも大好評をもって迎えられた最大の理由だろう。」下巻p.412
・「そういえば、このザウルスという表記、すっかり定着している感があり、話すときなどはつい「ティラノザウルス」などといってしまうのだが、語源はいったいなんなのだろう? もしや、「左(さ)衛門」が「××左(ざ)衛門」となるように、日本語特有のなまりではないかという気がするのだが、どなたか教えていただけませんか。」下巻p.415
?せんもう【譫妄】 医学で意識障害の状態の一つ。外界からの刺激に対する反応は失われているが、内面における錯覚、妄想があり、興奮、不穏状態を示したり、うわごとなどを示す。