PIAFUL♪

ピアノを愛する私の・・・独断と偏見による
その時々の旬な話題?を気紛れに~♪

ウシガエルの変身

2005-06-15 | book
新婚旅行のホテルで…五郎は悪夢にうなされていた。
「ガッガッガッガッ!」
夢から醒めても “誰かが俺たちのことを狙っているかもしれん。油断は禁物だ”。
しばらくして、ウトウトと眠りに入りかけた五郎の耳に、またあの音が…
「ガッガッガッガッ!グワ~!」

んっ?その音は…菜穂子が発しているものだった。五郎は茫然と彼女を見つめる。
“すごい、いびき。ウシガエルみたい”
(実際のウシガエルは 「グォォ~」 と 「モォ~」 の中間のような鳴き声らしい)

菜穂子への愛の深さゆえ、可憐な彼女の心が傷つくのでは?と 心配し、五郎は
ウシガエル、いや菜穂子のいびきについて、一切触れずにいた。
自分がその音をブロックする道を選び、色んな防音策を試みた。だが…挫折。
結婚して一年…。180センチ、90キロあった五郎の体重は65キロにまで減った。

菜穂子は、匂いにも鈍感らしく、ガス漏れの匂いに気づかなかったことがきっかけ
となって…意を決して伝えた。 「君は鼻が悪いのではないか?」
かなり重症の “鼻中隔弯曲症” と診断され、手術をすることに。嗅覚も回復させる
ために五郎の鼻粘膜を少し採って “嗅部細胞移植” も、いっしょになされた。

術後…ウシガエルいびきは、ほとんどおさまり、五郎の安眠も確保された。
ところが、大脳辺縁系にある嗅覚中枢が大混乱に陥り、匂いの感覚が異常に…。

クサヤ、納豆、ドリアンなど、腐敗臭の強いものを好み、ガスの匂いを愛するように
なった。そしてもうひとつ、菜穂子がこよなく愛したのは、五郎の体臭である。
つまり、五郎の鼻から採られた嗅部細胞の移植によって、自分のふるさとの匂いを
嗅いでいる時が、いちばん気持ちが落ち着くというわけだ。

五郎のからだの隅から隅まで、くんくんと匂いを嗅がなくては眠れなくなった彼女は
五郎にまつわりつき、鼻先をくっつけ・・・
「くんくん、きゃん!」・・・
菜穂子は、ウシガエルからイヌへ変身したのである。めでたしめでたし!んっ?

有りそうな無さそうな…移植シリーズ その2   永井 明 『生真面目な心臓』 より