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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6月22日・アン・リンドバーグの心

2019-06-22 | 歴史と人生
6月22日は、作家、山本周五郎が生まれた日(1903年)だが、女流飛行家アン・リンドバーグの誕生日でもある。大西洋横断飛行のリンドバーグの夫人である。

アン・スペンサー・モロウは、1906年、米国のニャージャージー州エングルウッドで生まれた。父親はJPモルガンの共同経営者で、母親は詩人で教師だった。アンは4人きょうだいの2番目だった。
アンたちが子どものころは、母親が毎日1時間、夜寝る前に本を読んでくれ、そのおかげでアンたちは読むことや書くことに早く親しむようになったという。
米国東部の名門七女子大のひとつ、スミス・カレッジに入学したアンは、在学中の21歳のとき、大西洋横断飛行を成功させたばかりの25歳のチャールズ・リンドバーグに出会った。彼女は背の高いこの世界的な英雄に心を奪われた。彼女はこう言っている
「彼に対する気持ちの前では、世界のすべてが浅薄ではかない、ばかげたことのように感じられた」
1929年5月に、二人は結婚し、彼女はアン・モロウ・リンドバーグ(リンドバーグ夫人)となった。彼女が23歳になる直前のことだった。
結婚後、アンは空を飛びだした。グライダー免許を取得した初の米国女性となり、夫の副操縦士として、また、ナビゲーター、通信係、航空地図作成者として活躍した。リンドバーグ夫妻は単発エンジンの飛行機で、まだ未知の航空路だったカリブ海域のルートを切り開き、「カナダ・アラスカ・日本・中国」ルートを飛び、北大西洋と南大西洋の航空地図を作った。
夫とのあいだに6人の子をもうけたアンは、飛行機乗り稼業のほか、大戦後は欧州の戦地の罹災者の救援活動に従事し、また、紀行やエッセイ、小説を書く文筆家としても活躍した。彼女の日記・手紙を収めた『輝く時、失意の時』には、日本人についての記述や、アンが25歳のときに起きた長男の誘拐事件についての記述があり、エッセイ『海からの贈物』は名エッセイとして世界的なベストセラーとなった。
夫のチャールズは、ハワイのマウイ島で1974年8月に72歳で没した。アン・リンドバーグはその後、米国東部へもどり、2001年2月、脳卒中のためバーモント州で没した。94歳だった。

アン・リンドバーグが書いたエッセイ『海からの贈物(Gift from the Sea)』は、まるで澄んだ冷たい水のなかから取り上げた水晶を思わせる名品で、拙著『名作英語の名文句』でも取り上げた。
『海からの贈物』は、40代のなかばだったアン・リンドバーグが、フロリダ州のカプティバ島で休暇をすごした際、浜辺の貝に話しかけるように、生き方、恋、結婚、平穏、孤独についてのかなり抽象的な思考をつづった随想録である。

「他人の愛、或いは他人が差出してくれる鏡の中にさえも、自分というものがあるだろうか。私はエックハルトがかつて言ったように、本当の自分というものは、『自分自身の領分で自分を知ること』によってしか得られないのだと思う」(吉田健一訳『海からの贈物』新潮文庫)

1955年に発表されたこの本のあちこちに、60年代、70年代に花開くことになる女性解放運動の芽が、すでにほころびはじめているのを感じる。
(2019年6月22日)



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