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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6月28日・ジャン=ジャック・ルソーの火

2018-06-28 | 思想
6月28日は、絵本『100万回生きたねこ』を描いた佐野洋子が生まれた日(1938年)だが、啓蒙思想家、ジャン=ジャック・ルソーの誕生日でもある。

ジャン=ジャック・ルソーは、1712年、スイス、ジュネーヴで生まれた。父親は時計職人で、ジャンの上にひとり兄がいた。母親はジャンを産んで9日後に没した。
ジャンは小さいころから、小説や歴史が大好きな子どもだったが、10歳のとき、父親と兄が家出していなくなり、ジャンは孤児同然の身の上となった。叔父の言えに身を寄せた彼は13歳のころ、彫金師のもとに丁稚奉公に出され、主人にいじめぬかれた。16歳の或る夜、遅く帰ってとくると、夕刻に閉じられるジュネーヴの城門が閉まった後で、これをきっかけに、ルソーはそのまま放浪の旅に出た。
音楽教師、楽譜筆写工、従僕などさまざまな職を転々とした後、20代のころには、夫と別居中の男爵夫人の愛人となり、保護を受けながら、哲学や数学の勉強に打ち込んだ。
20代後半のころ、男爵夫人と別れ、リヨンで家庭教師をした後、30歳のころ、フランスのパリへ出た。ルソーは『百科全書』を編集・執筆したドゥニ・ディドロと親交をもつようになり、ルソーも『百科全書』に寄稿した。
38歳のとき、アカデミーの懸賞に応募にした論文『学問および芸術の進歩は道徳の純化と腐敗のいずれに貢献したか』が入選し、彼は一躍文名が高まり、これを機に執筆活動に入った。『人間不平等起源論』『社会契約論』を書き、49歳のときに発表した恋愛小説『新エロイーズ』はベストセラーとなった。
50歳のときに発表した教育論『エミール』が、冒とく的だとして禁書となり、逮捕状が出たため、彼はフランスを逃げだし、スイスへ亡命した。
その後、英国で亡命生活を送った後、ひそかにフランスへもどり、パリで身を隠して執筆を続けた。
自叙伝『告白』や、『孤独な散歩者の夢想』を書き、1778年7月、パリ郊外のエルムノンヴィルで没した。66歳だった。

ルソーこそ、現代人の生きる支えであり、同時に、現代人の抱える問題の元凶である。

フランス革命前夜に生きたルソーは、児童教育、自由、平等を訴えた思想家で、政治だけでなく、美術や文学など他分野に大きな影響を与えた。
ルソー以前には、王侯や貴族も司教などには価値があったろうけれど、一般庶民にはたいした価値はなかった。けれども、ルソーは、人間はそれぞれ異なってはいるけれど、人間一人としての価値は、みんな同じだけあるのだと唱えた。そして彼は『告白』を書いた。これは私小説の出発点で、それ以降、世界中でおびただしい数の私小説が書かれ、いまでも書かれているけれど、それら私小説はすべて、
「どんな人にも同じ、人間としての価値がある」
というルソーの思想を存在根拠としている。

「一般大衆の一人になってはいけない。近代市民であれ」
学生のころ、西洋史の担当教官によくそう言われたけれど、これもルソーが源流である。ルソーは、人間に「尊厳」という火を与えてくれた第二のプロメテウスである。
(2018年6月28日)



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