1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月31日・柳田國男の珠

2024-07-31 | 思想
7月31日は、「ハリー・ポッター」の作者、J・K・ローリングが生まれた日(1965年)だが、民族学者の柳田國男(やなぎたくにお)の誕生日でもある。

柳田國男は、1875年、兵庫の辻川で生まれた。父親は儒学者で医者だった。國男は八人兄弟の六男だった。小さいころから読書家で博覧強記だった國男は、東京帝国大学で農政学を学び、卒業後、農商務省に入省。全国の農山村を歩き、実態調査をするようになった。以後、法制局参事や貴族院書記官など役人をしながら、『遠野物語』『山の人生』などを書き、雑誌「郷土研究」を創刊し、民俗学の発展に努めた。またエスペラント語の普及にも尽力した。
1962年8月、東京の自宅で、心臓衰弱のため没した。87歳だった。

柳田國男は13歳のころ、こんな経験をしたと書いている。
そのころ、柳田少年は医者になった長兄の家に身を寄せていたが、となりに蔵書家の小川家があった。読書好きの柳田は小川家へ日参し、本を読ませてもらっていた。
小川家には奥に土蔵があって、土蔵の前に小さな石の祠(ほこら)があった。ある日の昼間に、柳田少年はこっそり祠の石の扉を開けてみた。すると、そこにひと握りの大きさの、きれいなろうせきの珠(たま)が納められてあった。
柳田少年はそれを見て興奮し、なんとも言えない気持ちになって、しゃがんで空を見上げた。すると、数十の星が見えた。
「昼間見えないはずだがと思つて、子供心にいろいろ考へてゐた。そのころ少しばかり私が天文のことを知つてゐたので、今ごろ見えるとしたら自分の知つてゐる星ぢやないんだから、別にさがしまはる必要はないといふ心持を取り戻した。
 今考へ直してみても、あれはたしかに異常心理だつたと思ふ。(中略)そんなぼんやりした気分になつてゐるその時に、突然高い空で鵯(ひよどり)がピーッと鳴いて通った。さうしたらその拍子に身がギュッと引きしまつて、初めて人心地がついたのだつた。あの時に鵯が鳴かなかつたら、私はあのまま気が変になつてゐたんぢやないかと思ふのである。
 両親が郷里から布川へ来るまでは、子供の癖に一際違つた境遇におかれてゐたが、あんな風でながくゐてはいけなかつたかも知れない。幸ひにして私はその後実際生活の苦労をしたので救はれた。」(「故郷七十年」『定本 柳田國男集 別巻第三』筑摩書房)

引用部分の終わり「幸ひにして私は……」が味わい深い。
祠にあった石の珠は、小川家の亡くなったおばあさんが、晩年にいつも手で撫でまわしていた形見だったという。
『山の人生』や『遠野物語』もいいけれど、柳田國男というとまず『故郷七十年』を思い出す。
(2024年7月31日)



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