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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

11月28日・宇野千代の平気

2023-11-28 | 文学

11月28日は、構造主義の社会人類学者、レヴィ=ストロースが生まれた日(1908年)だが、日本の女性版スタンダール、作家・宇野千代の誕生日でもある。

宇野千代は、1897年、山口の岩国で生まれた。父親は放蕩者で、草競馬を主催するバクチ打ちだった。母親は千代を産んだ後、間もなく亡くなり、後妻がきたが、幼いころ、千代は継母に連れられて、警察の留置場にいる父親のもとへ差し入れに行った記憶があるという。(宇野千代『倖せを求めて生きる』海竜社)
千代は17歳の年に、故郷の小学校の教員となったが、翌年同僚の教師と恋愛関係になり、村のうわさとなったため、身をひいて退職。朝鮮半島へ渡り、しばらくして帰国し、19歳のころから、まだ学生だった従兄と同棲をはじめ、22歳のころに結婚。夫が北海道の銀行勤務になったため、いっしょに北海道へ移った。
24歳の年に、新聞の懸賞小説に応募し、一等となり、作家デビュー。そのときの二等が後にベストセラー『人生劇場』を書いた尾崎士郎、選外佳作には後に「小説の神様」と呼ばれた横光利一がいた。
25歳のころ、東京の雑誌社へ小説を売り込むために、夫を北海道において単身上京した。そして東京で尾崎士郎と出会い、意気投合し、そのまま同棲をはじめた。その後、北海道の夫と離婚し、尾崎と結婚。しかし、尾崎とも30歳のころには別居し、33歳の年に、宇野は画家の東郷青児と同棲をはじめ、尾崎と離婚した。
30代の後半から、小説家の北原武夫とともに、ファッション雑誌を創刊し、編集者としても活躍した。東郷とは数年間同棲した後、別れ、宇野は42歳のとき、北原武夫と結婚した。小説『色ざんげ』『おはん』『生きていく私』などを書いた宇野は、1996年6月に没した。98歳だった。

宇野千代は、90代でなお元気に健筆をふるい、
「わたし、なんだか死なない気がする」
といい放った。その人生、人生観が太く、大きい。

事業家で、デザイナーで、作家。会社を作って大成功させたり、倒産して借金取りから逃げまわったり、結婚と離婚を繰り返したり、そのたびに家を建てたりした。いいときと、悪いときの差がはげしいジェットコースターのような、目茶苦茶といえば目茶苦茶な人生だった。
宇野千代は、スタンダールの墓碑銘「書いた 愛した 生きた」を地でいった人である。

以前読んだ随筆のなかで、たしか彼女は、こういう意味のことをいっていた。
生きてきて、もうだめだと思うときもあったが、なんとか切り抜けてきた。そういう窮地におちいったときは、平気なふりをしていると、またなんとかなるものだ、と。
平気なふりを決め込もう。
(2023年11月28日)


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