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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月25日・サマセット・モームの人生観

2014-01-25 | 文学
1月25日は、詩人、北原白秋が生まれた日(1885年)だが、サマセット・モームの誕生日でもある。
自分は高校生のころ、モームの小説『月と6ペンス』を読んだ。ゴーギャンをモデルにした画家、チャールズ・ストリックランドという主人公が、とつぜん芸術に目覚めて、仕事も家族も友人もすべてを捨てて絵画に打ち込みだすという筋の小説で、自分には衝撃的だった。

ウィリアム・サマセット・モームは1874年、仏国のパリで生まれた。父親は英国人の法律家で当時、英国の駐仏大使館の法律事務を扱っていた。そのころのフランスの法律には、フランスの国土の上で出生した者は、フランス軍の徴兵に応じる義務がある旨の法律があったため、ウィリアムの父親はこれを避けるため、ウィリアムを大使館のなかで生まれたことにしたという。
ウィリアムが8歳のとき、母親が結核で亡くなり、10歳のときに父親がガンで没し、彼は孤児となり、英国イングランドのケント州の親戚に引き取られた。
フランス育ちで英語下手で、吃音のあった孤児モームは、学校ではいじめられた。この少年時代の体験が、彼の人生観に大きな影を落としたと言われる。
モームは十代のころから作家志望だったが、生活の便宜のため、医学の道に進み、貧民街でのインターン勤務などをへて、23歳のころには医師の資格を取得した。
しかし、医師にはならず、小説や旅行記、戯曲などを発表し、作家になった。
40歳のとき、第一次大戦がはじまり、彼は軍医をへて、諜報部員になった。
一次大戦終了後の45歳のとき、『月と6ペンス』を発表。これが世界的なベストセラーとなり、それ以前に発表していた『人間の絆』などの作品も評価されだし、モームは世界的作家となった。小説『雨』『赤毛』、戯曲『おえら方』、評論『世界の十大小説』などを書いた後、1965年12月、南仏のニースで没した。91歳だった。

2010年に、英国ではMI6(英国の情報部の対外工作部門)の、1909年から1949年までの40年間の正史をまとめた本が出版された。40年間の極秘文書の閲覧がはじめて、この本を書いた歴史学者に許可され、それでそれまで秘密だった国家機密がたくさんおおやけになった。そのなかに、サマセット・モームもMI6の一員だった事実が含まれていて、これにより、モームが英国のスパイだったと明らかになった。自分はそのときの新聞記事を切り抜いてとってある。

自分は若いころ、モームをすこし読んだ。筋立ては凝っているのだけれど、話の底にシニカルな冷たいものが流れていて、読んだのはどれも、救いがある話ではなかった。
代表作の『人間の絆』のなかに、
「人生は無意味で無目的である」
という意味のフレーズがあって、これがモームの人生観ではないか、と言われているらしい。自分とは人生観がちがうけれど、モームは子ども時代につらい経験を多くした苦労人で、貧民街や各国の様子など見聞も広く、世の中のいろいろな悲惨を見てしまうと、そういう虚無的な人生観にならざるを得ないのかなあ、と思う。でも、人生を捨てず、なかなかの長寿で天寿をまっとうした。立派だと思う。
(2014年1月25日)




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