1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6/23・リチャード・バックの空

2013-06-23 | 文学
6月23日は、仏国のサッカー選手、ジネディーヌ・ジダン(1972年)が生まれた日だが、米国の作家、リチャード・バックの誕生日でもある。『かもめのジョナサン』の作者である。
『かもめのジョナサン』はとても有名で、自分も子どものころから聞いて知ってはいたが、実際に読んだのは学生になってからだった。読んでみると、なかなかおもしろかった。1970年代らしさというか、自由を尊ぶ、あの時代特有の空気感があると思う。

リチャード・バックは、1936年、米国イリノイ州のオークパークで生まれた。彼自身が訴えるところによれば、彼は音楽の父、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの子孫だという。
学校を出た後、バックは米空軍の予備役に入り、24歳のころには仏国に駐屯していた。
彼は飛行機好きで、空軍予備役や、その後に入ったニュージャージー・ミリシャ(国民軍)でさまざまな戦闘機を操縦した。曲芸飛行気乗りをしていた時期もあり、飛行機会社の技術書を書いたり、飛行機雑誌の編集をしたりと、さまざまな職を転々とした。
1970年、彼が34歳のとき、『かもめのジョナサン(Jonathan Livingston Seagull)』を発表。これはジョナサンという一羽のかもめが、食べ物を求めて生きる生き方に飽きて、純粋に飛ぶことを追求することに目覚めるという寓話で、著者の飛行体験や人生哲学がそのなかに凝縮されている。
この短い本は、ハードカバーとして出版されると、驚異的な売り上げを示し、それまで『風と共に去りぬ』がもっていたハードカバーの売り上げ記録を塗り替えてしまった。
その後、バックは『イリュージョン』『ワン』などの作品を発表。これらは日本語にも訳出されている。
2012年、76歳のバックは、飛行機を着陸させようとして事故を起こした。天地さかさまに着陸して、頭部と肩に重傷を負ったが、生命に異状はなかった。彼は、この事故によって『かもめのジョナサン』の続編のインスピレーションを得たという。2013年には『パフとの旅(Travels with Puff)』を発表した。

自分は、『かもめのジョナサン』より先に、バックの次の作品である『イリュージョン』を読んだ。なぜ読んだかというと、これは村上龍が翻訳していたからで、読んでみから、とてもおもしろかった。それで、前作の『ジョナサン』を読んだという逆の順序になった。彼の作品は、邦訳されたものはすべて読んでいると思う。

『イリュージョン』は傑作だと思った。30年くらい前に読んだおぼろげな記憶を頼りに言うのだけれど、たしか、現代にイエス・キリストみたいな救世主がいて、でも、その救世主は怠惰で世の中に退屈していて、引退を考えている、というような話だったと思う。やはり空を飛ぶことに関係のある話だった気がする。現代の神話と呼ぶべき物語である。

リチャード・バックは、空を飛ぶことに、人生の意味を投影して、物語を編んでいく、独特の軽みをもった作家である。
彼は自分の日常生活をおおやけにせず、露出を避け、なるたけ読者から距離を置き、正体を隠そうとしてきた作家である。しかし、その作品は、とても暖かく人間的で、逆に読者にとてもやさしく、近しい。彼の作品には、生を愛する心があり、自由への憧れがあり、人を許す包容力があると思う。
(2013年6月23日)



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