1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6/12・「手づかみの真実」鎌田慧

2013-06-12 | 歴史と人生
6月12日は、『アンネの日記』を書き、ナチスの強制収容所で没したアンネ・フランクが生まれた日(1929年)だが、日本のルポライター、鎌田慧(かまたさとし・敬称略)の誕生日でもある。鎌田慧は、自分がもっとも信用し、尊敬するノンフィクション作家である。

鎌田慧は、1938年、青森県弘前市で生まれた。高等学校卒業後に上京し、いくつかの工場で働いた後、早稲田大学に入学。大学卒業後、業界紙の記者をとなり、後に退社して、フリーのルポライターとなった。
35歳のとき、『自動車絶望工場 ある季節工の日記』を発表。これは、みずからトヨタ自動車の期間工となって働いた現場の経験をもとに執筆したもので、これにより鎌田慧の名は一躍有名になった。
以後、現場にからだごとぶつかっていき、自分の目で見、自分の耳で聞いた真実を大切にするスタイルで、社会に隠れている問題点や不正義を履く白日の下にさらし、数々の名著をものにした。扱うジャンルは、産業、労働、環境、教育、法律、政治など幅広い分野に及ぶが、つねに、差別され、こき使われ、いじめられる弱者の側に立った視点から発言をつづけている。著作につぎのようなものがある。
『狙われた教科書』『去るも地獄残るも地獄 三池炭鉱労働者の二十年』
『ロボット時代の現場 極限の合理化工場』『中曽根康弘 権力者たちの素顔』
『教育工場の子どもたち』『一億みんな芸能人』
『反骨 鈴木東民の生涯』『六ケ所村の記録』
『反骨のジャーナリスト』『さようなら原発の決意』

自分が読んだ鎌田慧の著作のなかでは『自動車絶望工場』『ぼくが世の中に学んだこと』『家族が自殺に追い込まれるとき』などがよく記憶に残っている。
彼のルポタージュは、非情な現実を扱っているので、読んでいて、とてもつらい。また腹立たしい気持ちになる。
「著者は、よく怒りを抑えて、冷静に書けるなあ」
と感心することがしばしばである。

近年、日本の労働環境は、『自動車絶望工場』が書かれたころより、もっと深刻になっているようだ。最近の企業は、平気で人間を使い捨てにする。
日本人は、個人としては人間的だが、いったん徒党を組むと、とたんに冷酷で非人間的なことを平気でやるようになる人種だとは、よく言われるところだが、ほんとうに組織に属する日本人ほどおそろしいものはない。まったく、人間というのは、どこまで同じ人間をいじめられるのだろう、と暗澹たる気持ちにさせられる。

高いところから見下ろして、大きな時代の流れや、社会の動きを見定める構えも必要だけれど、地を這うようにして、小さな虫や草花を一つひとつ確認していく作業も、大切にしなくてはならないと思う。そこが生命の根っこなのだから。そういう面倒な作業をになうルポライター、ノンフィクション作家というのは、苛酷でいて実入りのすくない仕事で、鎌田慧のような人は、あえてその道を選んで社会の木鐸とならんとした。その高い志と強い意志には、ほんとうに頭が下がる。
(2013年6月12日)



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