1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

5/26・モンキー・パンチのにがみ

2013-05-26 | マンガ
5月26日は、「モダン・ジャズの帝王」マイルス・デイヴィスが生まれた日(1926年)だが、「ルパン三世」の作者、モンキー・パンチの誕生日でもある。
自分がはじめて買ったレコードは「ルパン三世のテーマ」だった。A面が、
「ルパン・ザ・サード、ルパン・ザ・サード、ルパン、ルパン……」
という単純な歌詞が延々と続く曲で、B面は、テレビアニメのエンディング・テーマで、暗い、もの悲しい歌だった。いま思うと、どうして買ったのだか不思議だけれど、はじめて買ったレコードのことで、そのときは興奮してうれしくて、繰り返し繰り返し聴いた。

モンキー・パンチこと、本名、加藤一彦は、1937年に、北海道厚岸郡浜中町で生まれた。
高校時代から漫画を描いていた彼は、高校卒業後、上京し、東海大学の電気科に入学した。が、アルバイトの漫画に熱中して大学を中退。本格的に漫画家を目指した。28歳のとき、「がむた永二」のペンネームでデビュー。
29歳のとき、ペンネーム「モンキー・パンチ」を名乗った。
30歳のとき、雑誌に「ルパン三世」の連載を開始。この「ルパン三世」がヒットし、テレビ・アニメ化され、映画化され、ゲーム・ソフト、パチンコ台にまでなり、時代を越えて愛される彼の代表作となった。
2003年、65歳のとき、東京工科大学の修士課程に入学。自分がさらに進歩するため、現代の情報メディアを勉強し直す必要を感じたためという。
2010年、73歳で、東工大の客員教授に就任した。

テレビもアニメも漫画本も、「ルパン三世」は、いろいろな人が脚色して描いたものが出ている。原作者のモンキー・パンチは「基本的なキャラクターだけ変えなければ、自由にいじってくれてけっこう」というスタンスで、任せきりにしている。ある意味で、その放任主義が、「ルパン三世」をあれだけ大きなものにしたわけである。
自分はどの「ルパン三世」も好きだけれど、やはり強烈な魅力を感じるのは、雑誌「漫画アクション」に連載されていた元祖「ルパン三世」である。
自分は以前、最初の「ルパン三世」のシリーズを全巻もっていた。いつの間にか散逸してしまったけれど、いまでも何冊か持っている。
モンキー・パンチ自身が描いていた元祖漫画版のほうは、エロチックで、サディスティックで、いかがわしくて、ギャグの精神を忘れない、大人の味わいを持った漫画作品である。たぶんあの形のままでは、テレビや映画でのメジャー展開はむずかしかっただろうけれど、あそこにこそ「ルパン三世」の本質がある、という気がする。けっしてヒューマニズムのきれいごとで終わらせない、非情な部分をもった、理に落ちない、不可解な部分を平気で残し、或るいい加減さを失わない、遊びの精神が、そこにはある。

自ら映画「ルパン三世」を監督した際、モンキー・パンチはこういう意味の発言をした。
「女性をほっぽりだしても自分は逃げると。そういう冷たさみたいなものをルパンはもっている。戦うときも女の子をかばわない。ハードボイルドタッチと、ゲーム的なおもしろさを出したい」
小説のアルセーヌ・ルパンもそうだけれど、元祖漫画版の「三世」にも、独特のにがにがしさがある。この「にがみ」こそが、漫画でも音楽でもなんでも、秀逸な作品を、凡庸な作品から隔てている、表現のつぼだという気がする。
(2013年5月26日)


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