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時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

正義のビル

2006年06月05日 | フィールドワークから
先日交通違反(自転車で信号無視)をやって警察に捕まり、違反切符を切られました(5/11の記事)。6/1が出頭の締め切り、遅れるとひょっとしたら刑事裁判にかけられたり、へたすると逮捕されるんじゃないか。法律も、弁護士の頼み方も、相場も分からない国でそんなことになったら大変と、行動を起こしました。警官に渡された書類によると、Monroe County(Bloomington市を中心とした、郡みたいなもの)の事務所で支払える、とあります。期日の前日、5/30(水)の朝の授業後、行ってみました。

写真が、その事務所がある「Justice Building」というすごい名前の建物です。写真右、大きなドーム型の場所に、中が見えないガラス張りの入り口があります。でも「EXIT」という文字しか見えないので、うろうろしたあげく写真左の小さな入り口へ。「Sheriffのオフィスって書いてあるから、違うよなあ」と思いつつ、ともかく中に入り「交通違反の罰金を払いに来たんです。ここじゃないことは分かってるんですけど、入り口は?」と尋ねると、最初のところでいいらしい。

(ケーサツとSheriffって多分違うんでしょうね、アルバカーキにも、Police以外にSheriffって書かれた自動車がありました)

「金属探知機がある入り口ですよ」と教えてくれたとおり、入るとすぐに警官がいて、セキュリティチェック。空港とおんなじ体制。入り口が分かりにくかったのは、こういうふうに進入経路を限定していたかららしい。「ここで支払います」とか、いろいろ写真にとって紹介しようと思っていたのですが、この時点で断念。写真なんか撮りまくる姿勢を見せようものなら、別室に連行されていたに違いありません。

さて、その事務所自体はなんということはない、普通のお役所の窓口。戸籍や住所の届出の窓口があって、一番奥の「離婚」の窓口の脇に「交通違反」の窓口。でも、払えませんでした。「現金・為替・小切手」で支払えるんですが、ふだん家賃や公共料金の支払いに使っている銀行の小切手はだめだと言われました。たしかに「Personal checkはだめです」と書いてはあったのですが、銀行の小切手はそれに当たるのか・・・

その窓口の担当の若い女性は「来週の月曜日までに届くように郵送すれば、もう一度ここに来る必要ありませんよ」とおっしゃる。え、明日が締め切りでしょ? と思ったのですが、まあ、その翌週の頭までならいい、というくらいの緩やかな基準でやってるのかもしれません。為替は現金を持っていって郵便局やガソリンスタンドなどで作ってもらうそうな。

でも、遅れると心配だったし、午後も北川先生との仕事が待っていて郵便局に行っている時間がなかったので、キャンパス内の銀行(IU Credit Unionという取引している銀行です)に行って、公的機関が受け取ってくれる小切手を作ってくれるかどうか聞いてみました。

想像通り、銀行が発行する小切手なら大丈夫で、希望額を作ってくれました。窓口の男性によると、わたしが持っているPersonal checkに対して、銀行が発行するものをCasher’s checkと呼ぶ。Personal checkは銀行にその額の預金が本当にあることを保証しないので受け付けない、銀行からの小切手はその額が確かにあることが保証されるのでOK、ということだそうです。手数料は$1.00。郵便局で為替を作ってもらうと、この半分くらいだったと思いますが、ともかく早く郵送してしまいたかったので、やってもらいました。これで、逮捕されないでこのまま生活できると、思います。たぶん。

空港以外であのゲートをくぐらされたのはこれで2回目、以前はアメリカ大使館(虎ノ門の)でビザ申請に行ったとき。Bloomington市内でこんなことをさせられるとは思いませんでした。「正義のビル」なんて名前がついてるだけのことはあります。

共同作業

2006年05月31日 | フィールドワークから
音声学の学生実験をしたグループで今夏、韓国でフィールドワークをしようと計画中。いよいよHuman Subject Committeeの審査を受けています(以前にも書きましたが、人を使った研究には、必ず研究計画の審査と許可が必要です)。

先週末に最初の結果が返ってきたのですが、説明不足もあったせいか、いろいろ疑われて、あれも説明しろ、こういう文書も提出せよ、と、10項目くらいの回答要求をされました。「口コミで被験者を探すとのことですが、電話でお願いするのですか? 電子メールですか? 方法を説明してください。また、電話で依頼するなら、その会話例を文書で提出してください」なんてのもありました。また、こっちはちゃんと説明したのに、見逃して「説明せよ」と言われたところもありました。とことん疑ってかかられている気がして、なんか、頭にきてしまいました。

そんなわけで、週末もやる気にならず、そのままにしてしていました。ホントはのろのろしている場合ではないのです。許可をもらわなければ、いかなる部分も開始できないのが鉄則で、早くしないと夏休みに実験が出来ません。

今日、いっしょにやってくれるチョンヘ、ヒョンジンと図書館でディスカッションして、委員会への回答、文書修正の方針と担当を決めました。まず、委員会への回答を私が作り、それを基本に、二人が、さまざまな文書を作ってくれる、とのこと。

委員会の審査のための英語の文書、同じ内容の、被験者に見てもらう韓国語の文書と2種類作るのですが、これを彼らが担当してくれると言い出してくれて、助かりました。でもなにより、ディスカッションしているうちに、とても励まされましたし、うじうじしていた自分が情けなく思えました。彼らは、とてもポジティブなのです。

そのあと残ったチョンヘと実験文についてディスカッション。どんな単語なら一つの句を作りやすいか、フォーカスがかかりやすいか、こういう表現は自然か、などなどの情報を教わりました。彼女はとうぜん言語学の知識があるし、内省も鋭いので、いつもいいアイデアがもらえます。得難い仲間だと思います。

学生に戻って、こうやって気楽に共同研究ができて、いいものだなあ、と思います。作業が分担してもらえる、という実利もあるのですが、それよりこうやってエネルギーやモチベーションを与えてもらえるのが、本当にうれしい。彼らよりはるかに経験があるはずなのだから、もっとがんばらねばいけない、という気持ちを新たにしています。

多少の苦労があっても、調査自体は本当に楽しいもの。韓国へ行くのは2004年の学会以来、久しぶりです。初めてソウル以外のところを訪れて調査が出来る(チョンヘの郷里の慶尚南道・晋州)ということもあり、とても楽しみ。写真は、2004年のときにソウルの地下鉄の乗り換え通路で取ったお餅の写真、どれでも1パック1000ウォン(100円ちょっと)です。たしか2パック買って、サッカー(Kリーグ)を見に行った。こういうのも楽しみです。

神のお恵みを

2006年05月27日 | フィールドワークから
学部の授業、K-300(心理学科の統計学)も半分を過ぎました。今週は急に暖かく(暑く)なりましたが、先週はずいぶん寒かった。風邪気味だった人も多かったようで、授業中くしゃみを立て続けにしている人がいました。

くしゃみをすると、周りの誰かが “Bless you” と言い、相手は “Thanks” と返す。この習慣を私は日本にいるうちに何かで知ったのですが、来てみると、確かにやってます。知らない人にもやるようで、今日もバスの中で、アメリカ人の女性が、たまたま横に座った中国人(私は知り合い)に言ってました。

K-300でこれを授業中にもやることに気づきました。くしゃみが止まらなくなくなると、友人が何度も言ってあげることもある。お礼も基本的にそのつど言う。先生もそれを注意するどころか、聞きつけると話を止めて “Bless you” と言ってあげるのです。

でも火曜日、試験中なのに “Bless you” “Thanks” の交換が行われたときにはさすがに驚きました。Huffman先生が教室や試験会場の管理に甘いわけではなく、「他の人の回答に目をやってはいけません。ちょっとでもやったら、カンニングとみなして、0点にします!」ときっぱり最初に言っているくらい、かなり厳格です。そんな先生でも、これは叱りません(驚)。

日本で試験中にくしゃみをした人に周りが「誰かがうわさしてるよ~」とか「お大事に」とか言ったら、(少なくとも教師をしていたときの私なら)「試験中はそんなこと言わんでよろしい!」と叱るところです。

この国の教育でもやはり「試験中はあらゆる私語禁止」という原則があるのは間違いありません。でもどうやら “Bless you” “Thanks” はそれに違反しても許容される(OT…)くらい、「なんとしても言ってあげるべきこと」のようです。

写真は今日午後6時、アパートのベランダから撮ったものです(写真の奥が西)。まだまだ日は高い。サマータイム中ですから、実質5月終わりの午後5時。不思議ではありませんが、最近は真っ暗になるのはようやく午後9時ごろです。

この先工事中

2006年03月16日 | フィールドワークから
週末は雷雨続きの後天でしたが、すっかりいい天気に。まだ空気は冷たいのですが、日差しの強さが違ってきました。思えば日本より道路工事がずっと少ないBloomingtonですが、ここ数日キャンパス周辺の道路の補修をやっている模様。IUの休日を利用して混乱を避けるということのようです。いつも使っている6番のバスは図書館直前で迂回。迂回した先でもまた工事。そちらとは反対方向へ曲がって、図書館へ戻ります。

そこに出ていた「この先工事中」の標識を写真に撮りました。このサイズなら読めると思いますが、MEN WORKINGと書いてあります。「作業中の人がいるから気をつけてくれ」というメッセージでしょうが、“MEN” と明記。私は去年やはり工事現場で初めてこれを発見したとき、「え? これはありなの?」とちょっとどっきり。 なにしろ、SalesmanもWaitressもChairmanもやめようという「言葉狩り」厳しいこの国です。「これは男女両方を含んだcover-termなんです」と言い張れるとは思えません。

1980年代にMen At Workというバンドがありました。あれもたぶんこのテの標識からバンド名を取ったんだと思いますが、まあ、バンド名だし、時代も前だし(オーストラリアだし、ってのは関係ないのでしょうか)。。。

働いていた人は。。。

2006年03月16日 | フィールドワークから
実際の工事現場を確認しました。見る限り、男性しかいません。去年初めてこの表示を発見したときも、やはり男性だけでした。まあ間違ってはいない、のですが・・・ 日本では工事現場、とくに交通整理に女性を見ることは珍しくないですし、こっちでも工事に女性がいることもあるのではないか、と想像するのですが、絶対ありえないのか、休日が空けたらだれかに聞いてみます。

でも、年齢・人種等等による選別同様、あらゆる職業をからいずれの性も締め出してはならない、という建前なんだとしたら、事実上男性しかいなくっても、Menはいかんのではないのか、と悩んでおります。ついでにいえば、日本でも最近は多くなってきましたが、Bloomingtonの市バス、Bloomington Transitの運転手は利用している実感では4割くらいが女性です。

印刷媒体デビュー(ただし声だけ)

2006年02月24日 | フィールドワークから
この世界も狭いもので、あちこちの音声学研究室のサイトで手に入る音声は、だいたいその時の院生や研究員が発音して吹き込んだものだったりするようです。音声学の授業でIPA転写の試験が毎回出ますが、この間は「これはKeith Johnsonさん(UC Barkeleyの先生)」とEricが教えてくれて、「ほぇ~」と一驚き。講談社ブルーバックスの『英語リスニング科学的上達法』シリーズのデモビデオに写っているのも、Ann BradlowというNorthwesternの先生だそうです(本人が研究グループの一員)。共同研究をした事のあるNさんによれば、あの本のビデオには他も知っている人がいっぱいだそうです。Ladefogedの本も本人の横顔があったりするし、みーんな研究者本人がやる。他の誰かに頼めばいいのにと思いましたが、顔を出すとなると、お金かかるか。

ところが私にもなんだかそんな機会が。もう先週の話。その日も院生室の「主」となって勉強していると、音声学のBob Port先生がやってきて「ちょっといいかい?」。何か雑用だろうと思ったのですが、もうちょっとだけ頭を使う頼みで、日本語のミニマルペアを一緒に考えてくれ、とおっしゃる。どうやらいわゆるモーラ音素(とくに促音・撥音)のあるなしで対立するペアがほしいらしい。で、一つ二つでいいらしく、思いつくままアクセントが一致している例を探して「鳥・通り(助詞をつけるとダメですが)」「肩・勝った」を提案。途中からKen先生も参加して、「鳥・通り」は助詞無しで発音すればいいだろう、とかアイデアをくれました。結局、条件がそれほど厳しくないらしく、最初の提案がそのまま採用になりました。

Port先生のことはご存知の方もいらっしゃると思いますが、タイミングの研究をずっとしていて、最近は「音素」という単位の音声情報処理レベルでの存在を否定しようという考えで研究をすすめているらしい。で、その例についてネイティブスピーカの録音がほしいという、誰かと思えば、私。。。

私は、岐阜生まれ(多治見市)で両親も岐阜の人。3歳で名古屋市に引っ越したので岐阜の記憶はほとんどありませんが。そのあと、中学を金沢、中学以降を埼玉・神奈川・東京とあちこちで過ごしているので、自分の音声を「日本語代表」として使っていいとは、ちょっと思えない。私自身が研究をするなら、絶対使いません。そもそも実験などについて無知ではない、という問題もありますが。(ちなみに、誤解が少なくないのでぜひ書いておきたいのですが、岐阜は一部を除いてほとんどが東京式アクセント(の一変種)の地域です。ですから私も私の家族も、金沢の3年間を除いてずっと東京式アクセントの地域で暮らしてきました)

さて、ともあれ頼まれたので、アパートでフィールドワークに使っている装置で録音したのが画像のもの。「肩・勝った」ペアとアクセントを一致させようと考えた「取れ・通れ」ペア。授業で教わっているWavesurferの画面です。上が「あいつは『取れ』と言った」下が「あいつは『通れ』と言った」。さすがはTVも何にもなくて静かな(寂しい)わがアパート、ノイズがなくてきれいな音声。「行った」の「っ」の無音区間が本当に無音(フォルマントの動きがない)ことでご確認いただけます。

Port先生はどうやら音声の質など気に入ってくれたらしく、どれかを使うそうです。どんな文脈で用いるかは、まだ謎ですが。だからおそらく、スペクトログラムだか、音声波形だか何かが、いずれ発表される論文のどこかに(ちょっと)載ると思います。ということで、私もついに不特定多数が見る印刷媒体にデビュー。写真などじゃなくて幸いです。でも、私なんかが日本語代表でいいのか、やっぱり不安です。

相棒の死

2006年01月01日 | フィールドワークから
 今日12月31日未明、2年間にわたって大活躍してくれたPCが息を引き取りました。前からうなりをあげるなど症状は出ていたのですが、昨日は今までにない大きなうなり声を上げ、固まってしまいました。リカバリーディスクを使った初期状態への復帰も受け付けず、「ついに来るときがきたか」と。

 昨日まで、約1ヶ月の測定&分析、ポスター作りをこなし、なんとかKen先生に合格をもらうところまで踏ん張ってくれました。じょじょに具合が悪くなったので、幸いHDDの情報もすべて書き出せました。忠義なやつというしかありません。

 調査でも大活躍してくれました。写真はそのようすです(福島の国見町公民館)。ワイヤレスユニットの送信機にヘッドセット型のマイクをつなぎ、発話してくださる方に装着していただきます。PCに受信機を接続し、音声を入力。とてもいい音質で、最初からデジタル録音ができて、DATで録音してさらにもう一度デジタルサンプリングという手間もかからず、非常に便利でした。

 2年で壊れるのか、という方もいるかと思いますが、調査で男鹿半島から四国の伊吹島まで、学会で韓国・アメリカと、たくさん音声を録って、たくさん分析してくれました。酷使に耐え、仕事を支えてくれた相棒に感謝。。。
 
 とりあえず学会の仕事を続けなくてはいけません。学校へ行けばたいていのことはできますが、10年近く使い続けている音声分析ソフト(Kay Multispeechというものです)を使うために、どうしても個人のPCが常に必要です。同じようにPCが壊れて買い換えたYさんに電話で相談すると、たまたま前日、いつものとおり息子さんとバスの旅で行ったWalmartでかなりスペックのいいものが安く出ているのを見たとのこと。

 というわけで買って来ました。院生のOさんにお願いして、車で連れて行っていただきました。年末なのにぱっと出て来てくださって、これも大感謝。絶対必要なソフトのインストールだけ済ませ、この記事を書いています。キーボードの位置が違ったり、OSの表示が全部英語だったりしますが、すぐ慣れるでしょう。ちなみに東芝製品で、税込み$1,000ちょっと。安いです。ただ、でかい(それを考える余裕がなかった)。アメリカの仕様なのか、ディスプレイの縦横比が違うみたいです(横がちょっと長め)。

 そんなわけで、またまたワタクシらしく、人にも迷惑をかけ、ばたばたした年の暮れでした。相棒の弔いに、年越しも音声分析で(ビョーキですね)。

今年やった仕事

2005年11月29日 | フィールドワークから
今日は本年度の仕事を報告します。とはいえ、このBlogのタイトル通りではなく、東北でやったものは一つしかありませんが。

(論文)
1) 吉田健二「韓国語のDenasalizationの音声実態と韻律の影響」アクセント史資料研究会編『論集I』
2) Donna Erickson, Kenji Yoshida, Caroline Menezes, Akinori Fujino, Takemi Mochida & Yoshiho Shibuya, Exploratory study of some acoustic and articulatory characters of sad speech, Phonetica 62
3) Kenji Yoshida, On gradualness and discreteness of sound change, Proceedings of Linguistics and Phonetics 2002

(ポスター発表)
4) Kenji Yoshida, The uniequeness of level register of the Ibukijima-island dialect in Japanese, 80th annual meeting of Linguistic Society of America, Albuquerque.

 (1)は日本を出る直前に提出したもの。今年の1,2月にやった実験結果です。韓国語の鼻音が(おおざっぱに言って語頭で)濁音っぽくなるのをご存知の方も多いと思います。鼻音が弱まっている、あるいは鼻音じゃなくなっているように聞こえます。これについて、もう10年も前に言語学会で発表したのですが、そのときは弱まるのか、なくなるのか、どういう条件だとどの「程度」弱くなるのか、測定できませんでした。今回は、鼻音だけを独立に測定できる実験装置を使えたので、韻律条件による変化の実験結果を書きました。韻律的境界が強いほど鼻音は弱化するが、消えるわけではない。また、韻律的境界の強さによる持続時間変動とは関連がなく、持続時間とは独立に鼻音弱化自体が積極的な制御を受けている可能性が高い、という結論。母音による違いのデータも録音してありますが未分析。今後やるつもりです。

 (2)はDonna Ericksonさんが中心の論文です。泣きながら話しているときの音響・生理上の特徴について日本語と英語でほぼ同じ実験を行ったものです。重要な知見は、「本当に泣いているとき」と「悲しい真似をして話しているとき」の特徴が、はっきり違うこと。音声に込められた感情を調べるとき、真似の音声を使ってはいけないことを示唆します。去年、NTT通信研究所(厚木)で、日本語の実験をたまたま手伝い、そのまま分析などもやらせてもらいました。去年の音声学会全国大会で発表し、そのあと論文にした、というものです。

 (3)が東北でやった調査をまとめたもので、2002年に明海大学で開催されたLP2002という学会で発表したあと、論文にして提出してあったもの。ある事情で出版が遅れていたものが年末に出版予定とのこと。共通語アクセント獲得(ここでは2モーラ無核語の、秋田のLLから東京のLH)が、単に2種類のピッチパターン(LL、LH)の取替えとして進行する(音声レベルでdiscreteな変化)のではなく、それを引き金として、LLがLHに近づいていく、音調の連続的なシフトが起こる(音声レベルでgradualな変化)という趣旨です。

 ちなみに、Sociolinguisticsの授業で、全員授業に関わりのあるテーマで発表せねばならず、「言語変化」がテーマの回に、これをPowerPointのスライドにして発表。Auger先生がリハーサルを聞いてアドバイスをくれたのでずいぶんと整理ができて、英語が心もとない私も何とか発表を終えられ、今後に向けて少し自信がつきました。

(4)は来年1月のアメリカ言語学会のポスター発表です。先日記事にしました。対象は、方言アクセント研究者の間では有名な、平安時代に区別された2拍名詞アクセントの5つの区別を唯一保持する、伊吹島アクセントです。この方言でもう一つ重要なのが、これまたここにしかない、3種類の「式」の対立です。このうち議論の的となる「下降式」については以前紹介した(8月13日)、Project Aのメンバーが現在研究しています。私は、これと対立する「平進式」(東大の上野先生の用語)が「実際には少し下降する」が、他の(式が2つだけの)方言の「平進式」とは「下降の斜度」「持続時間との関係」いずれも違う、全くユニークなものだ、という実験結果を報告します。

 まだ今年は終わっていませんが、まだ1年目の学生なので、これで終わりでしょう。気が向いたらちょっとでもご覧いただければ幸いです(もちろん、「読んでやるから送れ」という方があれば、ぜひご連絡ください)。もうすぐ12月、授業も試験期間をのぞくとあと2週間で終わりです。

学会発表(伊吹島)やります

2005年11月21日 | フィールドワークから
10月24日の記事でちょっと書いたとおり、アメリカ言語学会の大会でポスター発表をすることになりました。先輩のNさんが「出しませんか?」と言ってくれたのでトライしてみたものが、なんとか採用になりました。以下のウェブサイトに情報があります。ご興味がある方はぜひご覧ください。
http://www.lsadc.org/annmeet/index.html

 学会は来年1月5-8日、ニューメキシコ州のアルバカーキで。私の題材は、日本の伊吹島方言アクセント。香川と愛媛の県境あたりの瀬戸内海に浮かぶ小さな島(行政区分上は「加ト吉」のある観音寺市)ですが、アクセント研究をやる人なら当然ご存知の、たいへん重要なアクセント体系を持つ方言ですね。写真は、伊吹島に二つある港のうち、対岸の観音寺港への連絡船が到着する真浦を離れていくところです。台風のあと、快晴の朝でした。

 去年の10月、東京音韻論研究会(TCP)で「伊吹島方言アクセント平進式のF0の動きについて」(亀田裕見さんとの共同発表)という題目で発表した内容が基になっていますが、De Jong先生との授業でのディスカッションを基に、今、一から分析をやり直しています。データは、松森晶子先生を中心としたグループの共同調査によるものです。この共同調査は科学研究費助成金(奨励研究)を受けて現在継続中で、今年も四国へ行きました(私はアメリカにいました)。

 内容は、もう出来る限りやるしかありませんが、英語で発表するのが恐怖。基本的には途中でツッコミがなく最後まで聞いてもらえる口頭発表に比べて、ポスターは客の出入りに合わせて伸縮自在・臨機応変にやらないといけないので、実は英語の力に関してはもっとしんどい、というのがこれまでの実感です。

 IUからは、De Jong先生がシンポジウムのスピーカーとして出るほか、言語心理学のPisoni先生、数人の院生などなどが発表します。私は2日目の午後。博士課程2年目のJungsunさんも発表するのですが、彼女は朝鮮語(韓国語)方言のピッチアクセントの研究をしていて、入学以来いろいろと情報交換をしてくれます。朝鮮語・日本語方言のアクセントの比較はおもしろいテーマで、将来は共同研究ができたらといいなと思っています。この記事を書いている最中も「日本語の母音フォルマントの論文か何か知らない?」と連絡がありました。

 彼女が方法を教えてくれて、なんとか往復の飛行機と4泊分のホテルの予約が出来ました。安売り、かつ飛行機&宿泊セットにしたのですが、そもそもアメリカのホテルは高いらしくて、合計574ドルもかかりました。あまり集金力のない分野である言語学には、学生に対する補助はあまりありません。学生の学会登録費は安いし、学会参加の補助が出る場合もあるようですが、毎回は期待できないようです。今回は自腹です。そもそも、学会会場がHotel Hyattなのです。学会は一種のお祭りで、社交の場だから仕方ないけど、痛い。。。

 でも、とりあえずどこか遠くに行けるのはうれしい。アルバカーキには、NBAのセレクションからはいったん漏れた田臥選手がいるようです。でも行くまでに昇格して「残念ながら見られなかった」となると、いいなあ。ちなみに直行便はあまりなく(たぶんあっても高いでしょう)、ヒューストンあたりでの乗り換えになります。帰りなどはむこうの空港を午後1:30ごろ発つのに、Indianapolisに到着するのは夜の8:00過ぎとのこと。

 帰ってすぐ次の日から春学期。来週の感謝祭休みも、クリスマス休暇も、分析とポスター作製で手いっぱいになりそうなので、気を安めている余裕がなさそうです。

日本語の方言を、アメリカで、アメリカ人から聴く

2005年11月15日 | フィールドワークから
珍しくコトバの話題を。(方言研究の報告が建前なのに。。。)

今日も月曜日恒例の情報学科の発表会に。今日は遺伝子学。「遺伝子の伝達構造の中で中心近くにあるものは、(1)下手に変化するとその生物にとって致命的であり、(たぶん、そのため)(2)遺伝情報の変化スピードが遅い」という話(誤解でないといいのですが)。また、「遅い」とは、調べた生物の範囲ではどれも、周縁近くにあるものの、だいたい70%くらいなのだそうです。

 今日はもう一つ、認知科学の発表会も。こちらはわが学部の音声学者、Port先生の発表。「われわれが記憶・貯蔵している言語音声情報は音韻や異音のような記号レベルのものではなく、本人の声などの詳細な情報が損なわれないままの情報の集合体であり、それが音声知覚&産出で使われるのだ」という趣旨。ここのところ有力になりつつあるExamplar Theoryに賛同する立場です。基本的には賛成なのですが、例えばピッチアクセントの同期や対立などについては、現時点では適切に説明できないだろうと思います。まだアイデアとしては萌芽的で、モデルの精緻化はこれからでしょう。

 さて、帰りは雨が降ったのでバスに。アメリカ人の男性の横に座ったのですが、図書館のところで乗ってきたアジア人らしい女性が、彼に話しかけました。会話は日本語。日本人でした。で、彼も、ちょっとたどたどしい日本語で応じるのです。話せるんですね。「日本語会話グループ」もあるし、日本語の授業もあるので、たまにいますが。

 知らん振りしながら聞き入っていると、先日の飲み会で、吐いてしまったという話。男性はそこで「久しぶりで飲んだ『けんが』...」。もちろん文脈から、「久しぶりに飲んだ『から』...(気持ち悪くなって)」という意味であることは明白。「お、方言を使う」と思って聞いていると、用例は忘れましたが、もう一度別の文脈で『けんが』を使いました。相手をしている女性は関東方言っぽいコトバ。彼女への「同調」ではないようです。

 彼がそこで使っていた日本語は、教室で習ったものというより、日本人の友達と付き合う中で習得したものでしょう。さらには、彼が堂々とそれを使っていることから、彼はそれを特殊なものとしてではなく、「友達同士で使う普通の言い方」としてとらえていることも推測できるように思います。もう一歩飛躍してよければ、この「けんが」を彼に教えた日本人も、「けんが」を、(少なくともくだけた会話で)デフォルトの形式として使用していたのだろう、と思います。

 この「けんが」のような、いわゆる「語尾」形式の方言形は健在なんだな、と想像しました。まともに研究したことが無いので自信はありませんが、伝統的な方言の文法形式はそれなりに複雑だからフルに習得して使いこなすのは困難だけど、分かりやすいものを積極的に採用して「自分たち地域の仲間うちのコトバ」らしい感じを出そうとするなら、こういうものが便利なのかなと。「けんが」のような接続形式や終助詞などは、接続が単純で習得が容易だし、比較的目立つ位置に来るので、「方言っぽい話し方」のマーカー(地域の若者にとっての、いわゆるsolidarity marker)として格好なんでしょう。もっとも関東の「べ」みたいに、接続が複雑でも単純化して使う傾向も見られるようですが。

 方言文法がご専門の方がたまたまご覧になったら恐ろしいですが、アメリカでアメリカ人が使っているのを聞いたということで、無責任に想像をふくらませてみました。ところで彼は「けんが」をどこで習得したのでしょう。九州には分布しているようですし、かれは断定形式に「や」を使っていたので、西部で間違いないと思いますが。。。 ご覧の方で「ここでよく使う」というのをご存知の方、教えてください。

 実は「ちょっとごめん。日本語、どこで勉強したの?」という質問が、喉元まで出ていたのですが、邪魔しては悪いのでやめました。まあ、アメリカにいる、九州出身の人から習得したのかもしれません。

 写真は今日の夕方研究会へ向かう途中。大学の正門(Sample Gate)からダウンタウンの方向を撮ったもの。遠くの建物の向こうに見える時計のある建物は、BloomingtonのあるMonroe County(郡みたいなもの?)の庁舎です。