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時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

小切手送ります

2012年09月21日 | Indiana大学
今年の4月、インディアナ大学の出納課(Office of Bursar)から電子メールで連絡。忙しくて放置していたら、今月、全く同じ内容の手紙。「あなたが大学に納めたお金が余っています。返金のため小切手をお送りしたはずですが、それ以降6ヶ月経っても換金されていない、ということが判明しています。どうなさいますか?」

インディアナ大は、学費等の経費もオンライン振込みになっていて、学費補助等が発生したりすると払い戻しが生じて、請求額がマイナス、つまり大学側が過超徴収になっている状況がしばしば発生します。去年、プログラムの終了時点でもやはりその状態で、「どうなるのかな~」と思っているうちに帰国。出納課は、小切手をもう一度送るから、送り先を教えろと。額は$24.97。2000円くらいでしょうか。


アメリカで発行された小切手、たしか換金できないことはないのだと思いますが、この額では、手数料を払うと足が出るのは確実。寄付するつもりで、出納課に連絡をとってみました。

「自分が所属した言語学科に寄付したいのですが」
「寄付できるとしたらIU財団だけです。小切手をお送りしますか?」
「..... 寄付します。書類郵送するので確認お願いします」

ということに。最後に住んでいたアパートも、米国を離れる2日前に引き払ったときに、使用状況のチェックが入り、正確な計算が後に行われて... 日本に小切手が送られてきました。これも換金しようとしても面倒なうえ、足が出るだけ。Deposit、日本でいう敷金のようなものは、全額そのままとられてしまいました。こっちは$167.00、1万2~3000円くらいにはなるだろうから、ちょっと残念。

日本よりは対応が柔軟な面も多い米国社会ですが、こういうことに関しては(他もあるでしょうが)、まったく融通が利かない(あくまで米ドル、あくまで小切手)ような。まあ、国家間を超えるとは、こういうことなのでしょう。

最終試験

2011年08月25日 | Indiana大学
香港記が中断してますがとりあえずその前に。

昨日、一般に言うところのDefense、正式にはFinal Examinationがありました。やったことはつまり博士論文の口頭試問。3ヶ月ほど前にこの日を目標にすることを審査委員の4教授と合意、ここを目指して作業をしてきて、結局なんとか予定通りに済ませることができました。

最終試験はインディアナ大全体の大学院(Graduate School)から日程等が正式に承認、公表されて、公開で行われます。私の場合は、審査委員の教授陣4人以外に聴衆6人。まず、最初に25分ほどで博士論文の概要を述べる発表を行い、その後はだいたい一時間ちょっとの質疑・応答。最後に審査委員だけが部屋に残って合議、私が呼ばれて結果が伝えられる、というものです。来てくれた後輩の学生とちょっと立ち話をしているうちにドアが開き「おめでとう」と握手。用意しておいた承認のサイン用のページに4人のサインをもらって終了。

幸い、審査委員の評価はよかったもよう。あとは、ちょっと最後の修正をして、最終版を大学院に提出すれば、事務的な手続きを待って正式に学位が授与される、ということでした。今日確認に行ったところ、次の提出期限が9月15日で、それに間に合わせれば9月中に学位が出るそうです。

2005年9月にプログラム開始、まる6年かかりました。仕上げった論文を見ると、この程度のものならあと一年くらい早くできたのではとも思いますが、まあ、自分にはこれが精一杯だったかも。

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師匠Ken de Jong先生が提案してくれて、その日の夜は先生のお宅でカジュアルなパーティを催しました。審査委員の教授4人と、いっしょに仕事をする機会に恵まれたJohn Kruschke先生、師匠の学生数人が来てくれて、ほんとうにありがたい機会でした。料理は師匠の奥さまにもちょっと補助をしていただきつつ、うちの嫁さんがほぼ全部用意しました。さいわい好評、Good Jobでした。写真は、娘と遊んでいるときに私が描いた、師匠Ken de Jongの肖像。博士論文より出来がいいかも。

お互いがんばりましょう

2010年11月28日 | Indiana大学
先日、インディアナ大の東アジア言語文化研究所が主催するセミナーで、日本の大使館員の方が講演するというので、まるで専門外ですが、ちょっと話が聴きたくていってきました。タイトルは「アジアと日米同盟にかんする日本の外交政策」で、かのビデオ流出の件で日本の対応が注目されていたからか、狭い会場は満員でした。まして、直後の北朝鮮の砲撃事件を考えると、なんともタイムリーな講演でした。不思議なことに、日本人は私のほかは一人だけでしたが。

来たのは、一等書記官という身分の方。お役人ということで、無難な発言に終始せざるを得ないのか、と思っていたら、けっこう私見を明確に述べていました。このような場なら、個人の立場で発言をするということもある程度まではアリなのでしょう。内容としては、日本人なら知っている状況や背景に時間をかなり割いていたので、それほど驚くようなことはなし。面白かったのは質疑応答。

聴衆にはかなり事情に詳しい人もいたようで、ビデオ流出とか、少子化とか、経済とか、その他忘れましたが、日本大丈夫ですか? これは問題ですか? とさまざまな質問が。それから、やっぱり出たか、と思ったのが、「日本はまだアジアの国に対して謝罪していない、日本は唯一全ての隣国と領土問題を抱えている、どう思うか」という質問。これは、何度説明しようと、無知(または悪意による無視)から何度でも受ける質問なのでしょう(あるいは、質問した若い学生は、だれかにそう吹き込まれていたか)。これに対しては「領土問題はどの国も抱えている。難しいが平和に交渉により解決するほかない。また、謝罪問題は残念な誤解で、日本は公式に謝罪している。謝罪が足りないとか、違う意見を表明する日本人がいるとか言うのはかまわないが、謝罪していないとは言えないはずだ。」という答え。

その他、難しい質問もあったと思うのですが、全てにたいして冷静に、かつきっぱりと対応していて、とても頼もしく感じました。講演後、少しだけ話したのですが、「国を守らなくちゃいけないですからね」とのことでした。「お互いがんばりましょう」と言われたのですが、その方と違って、家族を守るので精一杯の私が日本のために何ができるんだか。

それにしても、北は体制維持のために必死なのでしょう。日本もここで何ができるか、真価を問われるところかも。講演をなさった方はどう考え、今何をしてるんでしょう。でも何より、韓国がどうしたいのか聞きたい。

Rに(も)つかえるText Editor

2010年10月07日 | Indiana大学
日本でも、研究者の間で統計プログラミング言語Rの使用がすっかり広まってきたように見えます。日本語による教科書やインターネットチュートリアルにも、すんぱらしいのがいろいろあるようです。言語学関連でも、社会言語科学会という学会が、ちかぢかRの中級講座を開催するとか。私も使い始めて3年、もうすっかり手放せなくなりました。タダだということより、世界の研究者がさまざまなライブラリを提供してくれて、今でも超強力、さらに日々進化するというのが最大の魅力ではないでしょうか。Matlabより軽快に動くし。

分かる人には言うまでもない、分からん人には言っても分からないハナシになりますが、Rそのものにももちろんプログラムのエディタがあります。色分け機能も何もないシンプルなものなので、{ }()の不整合等のミスが出やすい。色分けがされてカッコの一致などが確認しやすいエディタを使ったほうがそういうのは防げるわけですが、私はなぜだか今までそういうのに手は出さず、エラーメッセージをくらってはバグを直し、使ってきました。

Rは、たとえば、これもよく使うPraatと比べるとはるかにバグ修正がしやすいので、あまり不満を感じてこなかったのですが、いつまでもそんなことやってないで作業の効率化を図るべきなのはまちがいない。そんな折、若い友人が、RにもつかえるText Editorを教えてくれました。名前はNotepad++。フリーソフトで、以下からダウンロードできます。

http://sourceforge.net/projects/notepad-plus/files/

以前授業で、R(のみならず統計全般)の師匠、John Kruschke先生が、Rに特化されたTinn-Rを紹介してくれたのですが、試したところ、恐らく、Windows Vistaのシステムとの干渉のせいで上手くRにプログラムが送られないことがある。昨日話したところではKruschke先生もこれに悩まされ、他を探していたとか。

Notepad++じたいは、その名のとおり、Rに特化されたものではなく、さまざまな言語の編集に使えるエディタですが、このエディタから直接Rにプログラムを送る橋渡し機能を持つソフトも教わりました。NppToR(Notepad++ToR)というベタな名前のソフトです。ダウンロードは以下から。

http://sourceforge.net/projects/npptor/files/

使った感想は、満足。動きは軽い。Tinn-Rほど機能や画面がごたごたしてない。もちろん、直接Rをコントロールできる。カラーコーディングがあまりはっきりしていなくてちょっと不満だけど、パージョンアップも頻繁なようなので、進化に期待してます。日本語版はないと思うんですが、英語が苦にならない人ならお勧めです。

はじめての実験参加

2010年09月15日 | Indiana大学
昨日、娘がインディア大心理学科のとある研究室の実験に参加してきました。付き添ったヨメさんの話では、どうやら認知発達系の実験だったらしく、いろんな遊びにチャレンジさせる中で、物の形のパターンを認識して、それにたいして適切に働きかけられるかどうかを試していたもよう。きっと彼女が関わったものの中に実験の条件が設定されていたのでしょうが、直接見たわけではないし、わかりません。本当はぜひ自分が行きたかったのですが、締め切り直前でそれどころではなく断念。

どうして娘に声がかかったかというと、土曜日の Farmer's Market にこの研究室が出店を出していて、実験参加可能の登録をしてきたところ、一昨日コンタクトがあったというわけ。さすがによく工夫がされていて、娘にとってはやさしいお姉さん(教員、学生ともに女性だったそうです)に新しい遊びを教えてもらってるようなものだったようで、楽しく作業をこなし、「とっても機嫌よくやってくれたから、よかったらおとなりの研究室の実験にも参加してくれませんか」と言われたそう。そちらはビデオでさまざまな刺激を提示して、視線を追跡するようなものだったそうです。

ということで二つの実験をこなし、写真のTシャツと、ノート+クレヨンセットをもらって帰ってきました。父親が実験大好きなので、娘はこれからも実験台になる機会が多くなることでしょう。

眼鏡を買うことにした

2010年08月13日 | Indiana大学
日本から戻って早々、眼鏡を失くしたようです。知り合いのご家族の引越しを手伝ったときか、自分たちの引越し荷物を整理してるときか。

近視とはいえ、必要なのは教室の後ろから文字を読むときくらいで、眼鏡無しでも生活には困らないのですが(そのためすぐ外しちゃうから無くし易い)、免許の更新時の視力検査に引っかかる可能性が高いので、そして、免許が切れているので(更新は可能)、眼鏡なしで済ますこともできず、新調することにしました。

やはり近眼のうちの師匠にアドバイスを受けたところ、「安いとは限らないけどいい仕事しますよ」ということで、大学の Eye Clinic へ行ってみました。検査には予約が必要、予約は10日待ち、検査の所要時間は2時間(!)とのこと。今日、やっと検査を受けてこられました。写真がキャンパスの南側に最近新築された、Eye Clinicです。

(↓ つづく)

検査

2010年08月13日 | Indiana大学
インディアナ大には School of Optometry という眼科の学部があって、検査担当は、その学生のインターン。検査は、ホントに2時間。インターンが要領が悪い、などということは全くなく、よく訓練されて非常に手際もいいし、態度も丁重。でも、近視、遠視両方の検査、眼底の検査などなど非常にていねいにやって、最後はホンモノのドクターが確認に来てくれる。

老化による軽い遠視が始まっているので、遠近両用の眼鏡を使ってもいいかもしれない、とのこと(来たか)。本を読むときには外すことにして、それはやめました。白内障もまだ非常に軽いけれども、年齢なりに始まっているそう。白内障の進行には、(1)タバコ、(2)紫外線が悪い、あなたはタバコを吸わないのだから、ジョギングするなら必ずサングラスをかけなさい、と言われました。ということで、眼鏡を作るというためだけではない、総合的な目の定期健診でした。学生の保険が入って、料金は42ドル。安くはないが、高くもないと思います。写真が測定装置です。

眼底検査のため、瞳孔を開く薬品を点眼されたので、しばらく近くに焦点を合わせられないし、夏の光がめちゃくちゃまぶしいので、くらくらしながら帰りました(臨時のサングラスとして、眼鏡型のフィルムをくれました)。バスの中でも本も読めず、どうしようもないので寝てました。

(おしまい)

読書録3 

2010年05月03日 | Indiana大学
春学期終了。読書録として、今学期、Teaching Assistantとして働いた授業Introduction to statisticsで使用した教科書を。著者は、担当のTrosset先生。長年、統計学入門を教えて使ってきた教材を最近出版したもので、今回初めて授業で使われました。

Michael W. Trosset Introduction to statistical inference and its application with R. Chapman & Hall, 2009.

まず、とてもバランスのいい本だと思います。統計学科の授業のための教科書ながら、理論に偏りすぎず、具体的な統計分析をするためにそのまま使える手順・数式・Rコマンドが手際よく説明されていて、かなり実践的。とはいえ、確率論に数章を割いて、数学的な基盤もおろそかにしていない。カバーしている統計手法は、t検定、一要因分散分析、予測変数が一つの回帰分析までですが、正規分布が仮定できないときの対処も丁寧に解説してあって、見た目より内容がつまってる。分割表の検定も、カイ2乗値によるのでなくて、一般化線形モデルへの発展を考えてG検定を中心に議論する、など統計学を専門にする第一歩としての役割も十分果たすと思います。

この本の一番の美点は、Exercisesでは。教授職に就く前にしていた、統計コンサルタントとしての仕事の経験を生かして、実際の研究例に基づく練習問題を豊富に収録してあって、入門の教科書を超えた味わい深さがあります。宿題は全て、中間・期末試験もほとんどがこのExercisesから出されるので、私はそれを採点するため、分かるまで読んで、問題を解き、学生の誤答にコメントをつけるためあれこれ見直したりと、徹底的にこの本を使ったので、かなり内容に精通したと思います。

一方、この本は本当の入門書ではないかもしれません。数学のバックグラウンドがちょっとあり、統計も多少の経験がある人が、もっと厳密な理解を目指す、という状況が最適か(日本人はアメリカの学生よりそういう人が多い気がするので、英語さえ苦にならなければ、読める方は多いのでは)。私は、ちょうどそういう段階にあったようで、いちばん勉強になった学生かも。Wilcoxonの符号付順位和検定のリクツがどうも分からず、三重大学の奥村晴彦先生のWebを参考させていただいて、やっと問題が解けたということもありました。理解してから読んでみると、教科書はちゃんと分かるように書いてあったのですが。

もう一つの問題は、Rに関する説明がちょっと簡単なこと。Trosset先生は十分だと思っているでしょうし、私もそう思わなくもありませんが、やっぱり経験がない人は面食らうかも。そのためか、手計算でやろうとした学生もいましたが、どうしてもどこかで間違う。Excelを使った人が、ExcelのLOG()関数のデフォルトがlog10である(自然対数ではない)ことを知らずに使って全然違う答えを出したり。。。

そんなわけで苦しんだ学生も多くて、こっちも採点には大変な時間がかかったし、「統計って難しいんだな」と再認識させられた、という面もあります。450ページほどのこの本を、15週間で隅から隅までカバーした先生も、付いてきた学生も立派。有名になることはない本なのかもしれませんが、良書だと思います。本のWebsiteのURLは以下。データセットと正誤表(たくさんある。いくつかは私が見つけた)がダウンロードできます。

http://mypage.iu.edu/~mtrosset/StatInfeR.html

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読書録というか、今学期の仕事を振り返った記事になりました。今日、一学期の合計点を報告して、私の仕事は終わりました。

t 検定するべからず

2010年03月11日 | Indiana大学
今学期は自分の所属する言語学科ではなく、統計学科のアシスタントをしてます。仕事は宿題の採点のみ。とはいえ教科書を読み、週3回の授業に出て、宿題を解き、45人分の採点をするのはかなりしんどく、規定どおり週20時間くらい費やしてるのでは。

授業はIntroduction to Staticsというタイトルで、大学院生向け入門。もちろん採用してもらったからには、コイツは大丈夫という判断があるわけですが、教えられる内容全てを完全に知ってるわけはなく、はじめて知ることも多々。

さて今日の授業。おなじみ「Studentのt検定」の講義でしたが、担当のTrosset先生が大学院生(UC Barkeley)だったときに授業で聞いた話を教えてくれました。高名な(という話の)Erich Lehmann教授が「この授業でこれだけは記憶に残して欲しい、ということを挙げるなら『t検定はやってはいけない』ということです」と言ったのだそうです。

この発言に学生だった先生はたまげたそうですが、理由はというと、Gossetによる提案以降、フツーのt検定の「2グループの分散が等しい」という仮定がまずく、その仮定が怪しいときに検定のパフォーマンスが著しく落ちることが検証されている。そもそもこの等分散の仮定がいかんワケで、それを前提とした(フツーの、等分散を仮定する)t検定はほぼいかなるときも避けなさい、ということだそうな。だから、それでも母集団が正規分布と仮定してオッケーなら、等分散を仮定しないWelchのt検定やりなさい、と。そういえば、日本の統計学者のWebsiteでも、Welchのt検定のほうが望ましい、という意見が主流になってるという情報をみつけたことがあるような。

でも、思えばt検定をしてる論文なんていっくらでも見る。たいてい自由度がキリのいい数字だから、Welchじゃあないんでしょう。そんな中に、実は等分散の仮定が不適切で、さらにp値が有意水準ぎりぎりで、Welchのt検定やったら、結果がひっくり返る(帰無仮説を棄却できなくなる)なんてケースがたくさんあったりして。今後、論文を読むとき気をつけてみようと。

自分自分でも、研究助手をしてたときなんかに、t検定をやたらたくさん実行しましたが、よくないということらしい。t(15.78)=2.12なんていうふうに自由度が半端になって、分かりにくい(分かってもらいにくい)かもしれないけど、Welchの方法をやるべきでした。

もう一つ面白かったのは、Welchの方法を選ぶケースで、両グループの分散を別個に推定した場合、平均値がどんな確率分布に従うか、まだ明らかにされていないというお話。(自由度を調整した)t分布を使うのは、経験則による近似だったんですね。宿題は、Rを使って解くことが推奨されてます。画像は私の作業結果。

なのにあなたはアメリカへ来るの

2009年10月24日 | Indiana大学
先週の月曜日、楽しみにしていたイベントがありました。会場は1100人以上が収容できる、キャンパス内でも最も立派な、Auditorium。ゲストは生物学者のリチャード・ドーキンス氏でした。

インディアナ大学では、毎学期テーマを決めて、招待講演、ビデオ上映、展覧会などを催すのですが、今学期はダーウィン生誕200周年ということで、進化がテーマ。ドーキンスさんも、新著の宣伝もかねてアメリカの大学をあちこち回っている最中で、来てもらったようです。

「ノーベル賞おめでとうございます(この日がOstrom教授の経済学賞の発表でした)」から始めたドーキンスさん、講演は早々切り上げて、長々質疑応答の時間を取りました。「ボクはアメリカ以上に進化論を受け入れない人の多い、トルコからの留学生です。そんな国の無神論者としてどうしたらいいでしょう」というマジメなものから「よー、こんちわ」と軽いノリから入って、「進化論の教育に聖書に書かれている内容を役立てることはできないの?」というちょっとフザケタ(真剣かもしれません)質問までいろいろ。ドーキンスさんもときにユーモアたっぷりに、たいていは大真面目に回答してました。

しばしば拍手が沸きあがり、最後はスタンディングオベーション、講演後は著書のサイン待ち、出待ち、と歓迎するむきが多数。アメリカの無神論活動をサポートする学生グループ、「神などなくても善良に生きられる」という広告をバスに出す活動をするグループ(知り合いの教授がやってました)などがブースを出していて、「こういう人もやっぱりいるんだ」と知ったのも面白い機会でした。少し話してみましたが、「アメリカで無神論者でいるのは容易なことじゃない」ということのようです。

私はドーキンス氏の主張にほぼ全面的に賛成ですが、それは私自身が根っからの無神論者だからで、いってみれば、彼に言われるまでもなくそう思ってきた、というだけ。そんな、もともと同じ考えの人間が共鳴して講演に来たとしても、多数派であるキリスト教徒に届くとは、あまり思えません。

なのに彼はなぜわざわざアメリカに来るのか、私なら「割に合わん」と諦めるに違いない。質問に対する答えから判断するに、「『地獄に落ちる』など、恐怖心に訴えて自分の信ずるところを子供に押し付けるのは、虐待である」と思っていることが、この活動を続ける使命感を支える一要因のようです。立派、という気もするし、余計なお世話かもしれないし、空しい努力かもしれない。でも、真剣、本気であることは分かったし、茶化すとか、揶揄するとかいう気にはなりません。

信者がみんな子供をいわば「洗脳」している、とも思いません。ただ、後日行われた討論会で、ある牧師さんが「神がなくても我々は善良でいられるかもしれないが、神がなくては我々は救われない」と言ったそうで、それは脅しに近くありませんか、と思わなくもない。私の答えは「誰も救われたりしねーよ」ですが。こんな自分についても、どうしてアメリカに来たのか、たまに自問自答します。教育・研究の水準だけが問題だったからですが、実際には、ここまで自分たちによくしてくれた人たちのほとんどはキリスト教徒(それもけっこう敬虔な)で、ちょっとフクザツです。