た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

初スキー

2017年01月13日 | essay

 

 今年初めてのスキーに行く。アクセルを踏み込み、一路、白馬へ。

 冬の雪山に向かうのは、夏の海に向かうのとはまた一味違った、独特の高揚感がある。夏の海はほとんど無条件に開放的であり、「海だ!」「海だ!」という声が絶えず脳裏にこだましており、エサを前にした犬よろしく深いことは何も考えず涎を垂らして尻尾を振る状態であり、まあもし天候が荒れたり落雷や高潮が懸念されるのならそもそも海に向かわないだろうから、海に向かっている以上はこれはもうできるだけご機嫌な格好(アロハシャツにサンダル、サングラスを前頭部に掛けたりして)で、ディズニーのキャラクター並みのはちきれんばかりの笑顔を浮かべて車を走らせるのがふさわしい。

 一方でスキーは、そこまで開放的ではない。雪煙を上げて「ひゃっほうほう!」と、猿山を駆け下りる猿よろしくご機嫌に滑走するのだから、開放的なスポーツには違いないが、しかし何しろ冬山の天候はうつろいやすく、吹雪や降雨の可能性もあり、しかも基本的にはスキーをやらない人から見れば物好きだとしか思われない極寒の状況下で鼻水を手袋で拭いながらするスポーツなので、車を走らせていても、雪山に近づくにつれてどこか求道者的な顔の引き締まり方をしてくる。興奮に伴う凛とした覚悟がそこにはある。

 ところがここに、朝から缶ビールを空ける無法者の同乗者たちが加わると、大きく調子が変わる。覚悟も緊張もあったものではない。行きの車内から宴会状態。そのくせスキー場に着くとこちらが追い付けないほど本気で滑って、帰りはまた宴会。ハンドルを握る私はさすがに飲まないが、彼らを傍で眺めているだけで酔っぱらいそうである。そういうスキーツアーをもう十年近く続けてきた。いいのかなあ、これで。

 

 ※掲載の写真は数年前のもの。実際には、今回の初スキーはまさに吹雪に見舞われた。同乗者たちの行いのせいか知らん。

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