た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 43

2007年01月07日 | 連続物語
 翌日雨が降り始めたのは、日が昇ってからである。昼過ぎには車軸を流すような大降りになった。先にも述べたが、私の通夜はそうした中執り行われた。いよいよ、通夜の様子について語らなければならない。

 私の父方の親戚にはやかましいのが多い。その筆頭が大裕(たいゆう)叔父である。六十を超えているが、本人は二十代くらいに思っている。心の若さゆえに何をしても許されると思い込んでいる。私が十六のときに無理矢理私に酒を飲ませたのは彼である。それも、酒くらい飲めないと立派な大人になれないようなことをまことしやかに説教した。稼業の電気屋を息子に譲ってからは貧弱な泥鰌ひげを生やした。生涯の夢が引退したら鼻ひげを生やすことだったのだから、名前の割には器の小さな人間である。小さな器のくせに、その器に誰彼ともなく掬い取ろうとする。彼の理不尽な世話焼きは、毒舌の叔母をして「薮蚊よりうるさい」と言わしめた。甥であり大学教授である私は、地方の小さな電気店の元社長である彼にとって格好の暇つぶしの種であり、それは私が死んでも続くことになった。この度それがよくわかった。彼は仏壇の前の金襴菱小紋の座布団を我が指定席と見なし、他人がどれだけ焼香しにやってこようとお構いなしに、酒の入った赤い顔をしてそこに鎮座し続けながら、私の棺桶に向かって私をいびり続けたのである。

(つづく)
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