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残暑一人旅⑥

2015年09月17日 | essay
 祭りから一夜明け、帰途に就く。

 ただ電車に揺られて戻るだけというのもつまらないので、もう一駅下車してみようと思い立つ。昨日出会った大学生の言葉を思い出し、駒ケ根で下車することに。

 電車から降りると、なるほど何かありそうな雰囲気である。構内の観光案内所のパンフレットを見て、行き先を光前寺に決める。光前寺と言えば早太郎伝説。犬の早太郎が化け物を退治してくれるというなかなか奇想天外な昔話の舞台である。昔話は知っていたが、早太郎の生地が光前寺というのはパンフレットを見て初めて知った。

 バスに揺られて三十分。降りてみれば、立派な古刹である。参道の石畳を歩くだけでも心洗われる思いがする。その洗われた心が、一枚の看板を見て俄然色めき立った。

 「当寺の参道はヒカリゴケが自生しています」

 何を隠そう、私はもう何年もの間、ヒカリゴケを追って生きてきたのだ。さすがにそれは過言だが、しかしそんなに過言ではない。それが証拠に、昨年はヒカリゴケがあるという洞穴を目指して佐久まで足を延ばした。しかし、道を尋ねた地元の人たちが一様に、ああ、あのヒカリゴケね、と、気の抜けたような返事を返すので、次第に期待はしぼみ、いざ目的地に着いてみると、案に違わずその規模の小ささに、思わず高笑いしてしまった記憶がある。まるで誰かが蛍光ペンで塗ったような小ささであった。

 そのヒカリゴケが、この境内で再び見られるという。どこだ。どれだ。左右に目を凝らしたが、はっきりしない。日に照らされた苔がそうだと言われれば、そんな気もする。これだからヒカリゴケは食わせモノだな、と、気持ちを切り替え、わき道に入って庭園を見ることに。広い境内でこの庭園だけがなぜか有料なのだが、そういうところにわざわざ金を払ってみたくなるのが旅ごころである。

 庭園はまずまず。もう少し手入れをすればずっと良くなるのにと思いながら靴を履きかけ、ふっと横を見ると、なんとなんと、縁の下にヒカリゴケが。それも、はっきりと大量に光っている。

 私はいたく感動した。さすがにここまで来ると蛍光ペンの仕業ではない。




 ついでに駄句一句。

文明も ネオンも呵呵呵 ひかり苔


 それにしても、不思議な植物である。いくらなんでも光る必要はあるまい。虫寄せでもなかろうし。まさか、光合成のための光を自前するわけでも・・・。

 一見必要がないところに、魅力がある。魅力の奥には、隠された目的がある。

 寺を出ると、日はまだ高い。汗だくになって歩き、温泉場へ。身も心もさっぱりし、この短い旅を締めくくった。

 (おわり)
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