た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

コンサート

2016年03月06日 | essay

 人からもらったチケットで、天満さんのストラディバリウスを四賀村まで聴きに行く。ここ数週間休みがなく、おまけに早急に決断を下さなければいけない案件を幾つか抱えており、とてもクラシックに身を委ねる余裕がなくも思えたが、ここが私の卑しいところで、人からタダでもらったチケットなら会場で寝ても構わないと踏んだのだ。

 車を山間に走らせ、道に迷い、村役場の会場に着く。ステージに、村の陽気でおしゃべりなおばちゃんが出てきたと思ったら、その人が天満さんだった。大変失礼な誤解をした。それにしても飾らない人柄である。たとえリハーサルでも、音楽家たるもの、もう少し威厳があるべきではないかしらん。そう思っていたら、彼女の弓が弦に触れた瞬間、不覚にも涙が溢れ出た。

 私は人からチケットをもらったから来た身である。別にクラシックに造詣が深いわけでも、耳が肥えているわけでもない。もっと言えば、私のそのときの精神状態も多少は影響したかも知れない。いずれにせよ、私は最初の曲目で完全に打ちのめされた。あれは誰でもわかる凄さではなかろうか。最前列に少年が座っていたが、あの少年でさえ打ちのめされたに違いない。それくらい深い音色であった。魂を揺さぶる響きであった。

 くどいようだが、人からもらったチケットである。まったくタダも申し訳ないので、入場前に入口で地元の「おやき」を六個ほど購入した。帰りには、天満さんのCDを買おうとまで思ったが、本人のサイン会が始まり、手帳にサインしてもらったら、満足してCDのことを失念してしまった。

 溜まった疲れが綺麗に吹き飛んだわけではない。抱えた案件ももちろん、音楽を聴いたくらいでは片付かない。しかし、確かに、何かをいただいた。サインだけではなく。

 人間というのはいろんなことができるのだなあと、そんな妙なことにまで感心した音楽会であった。

 帰宅してから「おやき」を食べてみた。地粉で作られており、なかなかに旨かった。

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