五岐が彼女の背中を抱きかかえた。「どうした」
彼女は蒼白である。気絶寸前である。それでも私は、自分の口を閉じることができなかった。叶わぬことながら、私は自分の声が志穂よりも、彼女を抱き締める鷲鼻に届くことを希った。
「その手を離せ」
「来ないで!」
「君、大丈夫か」警部は混乱している。
「助けて! お願い」
「歩くんだ、さ、早く君」
「その手を離せ」
憎悪が突沸した。お節介にして無知なるいかり肩よ。お前に彼女を連れ去る権利はない。私には、では果たしてその権利があるのか? そのような冷静な判断のできる状態ではなかった。私は両手を伸ばした。お節介男の首を絞めようとして何度も宙を握り潰した。馬鹿である。しかし私は止めなかった。何度か繰り返すうちに、必ずや奴の喉元を掴める気がした。その手を離せ。かつて抱いたことのないほど強烈な殺意が、私の体無き体を熱く火照らせた。
離せ。女を離せ。警部の小さな目が不審げにしばたたいた。違和感を首筋に感じている。もう少しである。次の瞬間、私の背中は強力な何かに引っ張り上げられた。
(つづく)
彼女は蒼白である。気絶寸前である。それでも私は、自分の口を閉じることができなかった。叶わぬことながら、私は自分の声が志穂よりも、彼女を抱き締める鷲鼻に届くことを希った。
「その手を離せ」
「来ないで!」
「君、大丈夫か」警部は混乱している。
「助けて! お願い」
「歩くんだ、さ、早く君」
「その手を離せ」
憎悪が突沸した。お節介にして無知なるいかり肩よ。お前に彼女を連れ去る権利はない。私には、では果たしてその権利があるのか? そのような冷静な判断のできる状態ではなかった。私は両手を伸ばした。お節介男の首を絞めようとして何度も宙を握り潰した。馬鹿である。しかし私は止めなかった。何度か繰り返すうちに、必ずや奴の喉元を掴める気がした。その手を離せ。かつて抱いたことのないほど強烈な殺意が、私の体無き体を熱く火照らせた。
離せ。女を離せ。警部の小さな目が不審げにしばたたいた。違和感を首筋に感じている。もう少しである。次の瞬間、私の背中は強力な何かに引っ張り上げられた。
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