釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

ドルの崩壊へ近付く世界

2019-09-10 19:12:42 | 社会
経済学では、貿易の赤字国の通貨は安くなり、それにより自国製品の対外的な価格が下がり、国際的な価格競争で有利になることで、貿易赤字が解消する。こうして貿易の均衡が保たれるとする。しかし、この経済学の原理は、現代では通用しなくなっている。この原理が機能するのは、互いに工業や農業などの生産が主産業である場合にしか、当てはまらないし、何よりも一国の通貨が「基軸通貨」である場合にはなおさら当てはまらない。米国が工業国家であったのはせいぜい1970年代までであり、1980年代には、他国に輸出する工業製品は激減している。自国で消費する製品は他国からの輸入に頼るしかない状態になった。その一方で、金融資本は巨大となり、国内に有り余る資本を対外へ向けた。これがグローバル化である。投資資金が早期に利益を得るための新自由主義も伴い、中国をはじめ、新興国へ投資が大量に行われた。1972年のニクソン大統領による米中国交は、そのための準備であった。現在、米国の貿易や資本の取り引きなどを合わせた経常収支は36兆ドルの赤字である。にも関わらず、基軸通貨であるためにドルは安くならず、価値を保って来た。各国が貿易や資本の取り引きで使うドルを自国通貨を売って、そのドルを買わねばならず、この各国のドル買いがドルの低下を抑えて来た。米国の通貨であるドルは、しかし、中央銀行FRBがただ印刷するだけのものだ。簡単に印刷出来るために、経常収支も政府財政も赤字をどんどん膨らませて来た。他国よりも金融経済規模がはるかに大きいため、株式や債券の市場規模も大きく、そこでの利益を求めて、世界中からもそれらへの投資資金が集まって来た。これもドル買いを促進した。しかし、際限なく膨らんで行く対外債務や政府債務に対しての不安や、また政治的な関係の悪化もあり、2008年以後、次第にドルから距離を置く動きが出始めて来た。世界の歴史を見ると、希少金属である金銀を裏付けとした通貨体制からの離脱には、必ず放漫財政が伴っていた。金銀の含有量を薄めることもやはり裏付けからの離脱であった。そしてその結果は物価の高騰を招いて来た。通貨価値を下げてしまうので、当然である。金融経済では得られる利益率や金利が重んじられる。金利が高いところへ資金が集まって来る。資本の移動の自由化がなされていない中国を除く主要国では、米国の金利がまだ高いため、世界の資金が米国に投じられ、債券も株式もデリバティブと称される金融派生商品も、全てバブル状態になっている。日本からも大手銀行・保険会社だけでなく、政府系の年金やゆうちょ、農林中金などの資金も多く投じられている。米国の金融経済の大きな支えでもある。2000年代の郵政民営化はまさに米国がこれを意図して日本に迫ったものだ。当時世界最大の資金量であり、米国はそれに目を付けた。こうした日本からの巨額の投資資金もドル買いにより、ドルの維持に一役買っている。国内の金利がマイナス圏にすでに入っている日本の金融機関は、為替のリスクがあっても、プラス金利の米国へ資金を投じて、少しでも多く利益を得たい。巨大なバブルが弾けないうちはいいが、バブルは必ず弾ける。日本の対外資産1000兆円の大半が米国に投じられている。現在、米国の株式はリーマン・ショック直前のピークの2倍に達しており、世界の総債務も同じく2倍になっている。しかも、金利はすでに超低金利状態である。ここで株式の暴落などから金融危機が発生すれば、米国もマイナス金利圏に入り込まざるを得ず、すでにマイナス圏にいる日欧はさらにマイナスを深掘りするしかない。マイナス金利の通貨自体が本来、価値が低下しているが、それだけではなく、再び中央銀行は金融危機で失われたマネーを補うために、大量に通貨を印刷することになる。これまでもドルは大量に発行して来たが、さらに発行量を増大させねばならなくなる。少なくとも単純にはリーマン・ショックの2倍は発行せざるを得ない。米国は政府債務もさらに激増するだろう。そのための米国国債を誰が購入するのか。もはや中国は容易には購入しなくなっているだろう。かえって、保有する米国債の売却すらあり得る。中央銀行がいくらマイナス金利を採用しようと、債券市場では金利が上昇する可能性すらある。ドルの崩壊は、次の金融危機で現実味を帯びて来る。
今も咲いていた甲子川沿いの額紫陽花