釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

災害時に現れる人間らしい行動

2012-03-18 19:24:35 | 文化
曇り空で日が射さないが風が気持ちよく感じられるようになって来た。例年だと今頃は福寿草の花が見られることを思い出して、家から少しだけ離れたところの個人の庭先へ行ってみた。塀囲いがないので道からすぐに目に入る。やはりもう福寿草の花が咲いていた。近くの日陰になるところには雪もわずかだが残っていた。春を告げるはじめての花を見た。以前山田町へ来られた虚無僧尺八の奏者き乃はちさんが3月11日からロシアで演奏活動をされているが、そこでは娘の所属するNPO法人が作成したフォトムービー「復興カメラ」が流されている。被災直後の釜石周辺の状態を撮った写真で構成されている。き乃はちさんのブログにロシアでの活動の様子が出ている。娘が撮った写真も出ているようだ。昨夜も宮城県沖を震源とする地震があり、今日の午前中には岩手県沖を震源とするM5の地震があった。ここのところ地震が頻繁になって来ただけでなく、地震の揺れの時間が長くなっている気がする。読売新聞には、今、息子がボランティア活動に行っている気仙沼市の中央公民館であった震災時の救助のことが出ている。公民館には津波が襲って来た時、約450人の避難者がいたが、津波だけではなく、火災が発生し、周囲を火で囲まれて孤立した。避難者の一人がメールで英国ロンドンに住む息子さんに「火の海、ダメかも」と打った。メールを呼んだ息子さんは自分のツイッターで救助を求めた。偶然、このツイッターの書き込みを読んだ東京都副知事の猪瀬直樹氏がすぐに東京消防庁へヘリコプターによる救助の指示を出した。翌日から救助活動が行われ、公民館の避難者たちは助かった。東京消防庁は管轄はあくまで東京都に限られているが、緊急時の副知事である猪瀬氏のとっさの判断で多くの人命が救われた。今回の震災ではこのように表には出ては来ないが、陰では個々にたくさんの感動的な救出劇がたくさんあった。先日記した『災害ユートピア』の著者レベッカ ソルニット氏と同様に米国タイム誌の記者でもあったアマンダ・リプリー氏もこれまでの世界の災害を取材して、災害時には被災者がパニックを起こすどころか、見ず知らずの人たちが助け合う、驚くべき姿が自然発生している、という。ソルニット氏はその状態を「災害ユートピア」と名付けた。リプリー氏は東日本大震災の被災者の忍耐強さや保たれた秩序についても「忠実で受け身という精神状態は、じつは世界共通の災害生存者の反応であり、脳のメカニズムがそうさせていることが分かっている。つまり、日本人固有の性格に帰する分析は必ずしも正しくない。」と昨年5月のダイヤモンド社のインタビューで述べている。福島原発事故後の情報開示についても「情報を公開すると、パニックを招くのではないかというのは誤解だ。実際にはパニックは起こらないし、情報はたとえ不完全なものであっても、少ないよりは多く出すほうがいい。なぜなら、状況を知りたいというのが人間の本能であり、情報公開はそれに応えるものだからだ。」と述べている。パニックを起こすのはむしろ「エリート」であり、被災者は一般に考えられているのとは異なり、一時的ではあるが、小さな原始共同体のようなコミュニティを形成し、互いに助け合っている。それは今回の震災に限らず、世界の災害を受けた場所では共通に見られるものだという。それはリプリー氏によれば、文化的な違いを超越した人間の共通の反応なのだと述べている。災害という非日常性が迫った時、人は「悪」よりも「善」の衝動にかられるようだ。まさしく、小説や映画とは逆のようだ。現実は最も人間らしい行動が生まれている。
釜石に春を告げる福寿草