今改定の加算倍増を踏まえ、8月から支給
m3.com 2014年8月7日(木) 橋本佳子(m3.com編集長)
東京大学医学部付属病院は、この8月から、医師を対象に、新たに「緊急手術等手当」の支給を開始した。時間外や休日に、緊急の手術や処置(いずれも1000点以上)に従事した医師に、3時間以上の場合には1回3万円、3時間未満の場合には1回1万5000円、自然分娩にも時間外であれば1万5000円をそれぞれ支給する。
支給対象は、手術・処置に参加した全医師。常勤医、非常勤医を問わず、大学院生や研修医なども含まれる。内視鏡を用いた処置や、カウンターショックなどの緊急処置には、1000点を超すものが多いため、外科系医師だけでなく、内科系医師も、「緊急手術等手当」の対象になる。
「緊急手術等手当」の支給開始は、2014年度診療報酬改定で、時間外や休日に緊急手術・処置を実施した場合の「休日・時間外・深夜加算1」の新設を受けた対応(『「夜間や休日の手術」、医師の負担軽減』を参照)。加算額は従来の2倍で、「予定手術前日の当直免除」のほか、「医師への手当支給」が施設基準だ。この基準は非常にハードルが高いため、「休日・時間外・深夜加算1」の算定病院は全国でもごく少数であり、東大病院での手当支給は注目される動きだ。
東大病院副院長で、小児外科教授の岩中督氏は、「今改定は、消費税率引き上げ分が完全に補てんされていないことなどから、東大病院にとっては、マイナス改定だった。2014年度の病院予算は、赤字予算を組まざるを得ない状況。それでも、時間外の業務に当たる医師の労に報いるため、手当の新設に踏み切った」と説明する。
岩中氏は、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の会長補佐で、手術委員会委員長を務め、「医師への手当支給」を要件とする点数の新設を厚生労働省に要望した経緯がある。ハードルが高いながらも、自院で率先して、手当支給に踏み切ったわけだ。
「緊急手術等手当」の支給の有無は、標榜診療科単位で決まる。人員が少ないなど、「予定手術前日の当直免除」をクリアできない科では、手当は支給されない。2013年度の東大病院の医業収入は、約420億円。これを基に試算すると、「休日・時間外・深夜加算1」の算定で、少なくとも年間1億2000万~3000万円の収入増になると試算される。うち約8割を手当の原資とし、残りは人員不足の診療科での人員増に充当する方針だ。
前2回の改定、医師は恩恵受けず
2010年度と2012年度の2回の診療報酬改定の特徴の一つは、外保連の手術試案に基づき、手術料が大幅にアップした点だ。しかしながら、このアップ分は、現実には病院の赤字補てん、医療クラークの配置、医療機器の更新などに優先的に充当され、個々の医師の手当として還元した病院は少ない(『「宿直中の診療」手当支給、大学の6割にすぎず』を参照)。
東大病院でも、医師の手当としては、以前から、宿日直手当(2万円)、夜間診療手当(外科系1万円、内科系5000円)、緊急コール手当(病院外にいて呼び出された場合に1万円)などを支給していた。麻酔科医に対しては、約2年前に、「麻酔業務手当」を新設した(例えば、毎週月曜日、月4回麻酔業務に従事した場合は、常勤医5万円、非常勤医4万円など)。しかし、2回の改定後、外科医らの手当の新設は、見送られていた。
診療報酬改定に先立ち、各学会は厚労省に要望を提出するのが恒例。日本外科学会と外保連が今改定に先立って要望した一つが、「医師への手当支給」を要件とする点数の新設だった。
「休日・時間外・深夜加算1」の施設基準は、緊急入院患者数の実績などのほか、(1)病院勤務医の負担軽減・処遇改善策の実施、(2)静脈採血、静脈注射、留置針によるルート確保は原則として医師以外が実施、(3)同加算を算定する全診療科で、予定手術の術者および第一助手について、前日の当直を免除(ただし、年間12回まで当直可)、(4)休日・時間外・深夜の医師への手当支給――などを満たすことが求められる。
東大病院、標榜診療科を見直し
この8月からの「休日・時間外・深夜加算1」の算定開始に先立ち、東大病院では、就業規則の見直し、標榜診療科の見直し、各診療科における当直体制の見直しなどの準備を進めた。
標榜診療科の見直しは、院内の表示に合わせて変更したという意味だ。外科系であれば、胃・食道外科、大腸・肛門外科、肝臓・胆のう・膵臓外科、血管外科、乳腺・内分泌外科、臓器移植外科、呼吸器外科、女性外科に分かれていたが、医療法上は従来、「外科」と一括して標榜していた。
「休日・時間外・深夜加算1」の施設基準で、満たすことが難しいのが、「予定手術前日の当直免除」だ。各診療科で、工夫し、勤務体制の見直しを進めたほか、実績管理のため、新たに「在室時間及び手当申告書」も作成した。
各診療科で工夫の仕方は異なるが、小児外科などでは、大学院生を手術前日の当直担当に充てることなどを検討している。少ない診療科でも、5人から10人は、大学院生が在籍しているという。東大病院では、約2年前から、大学院生を「病院診療医」として、雇用契約を結び、診療や研修医の指導などに従事した際には、給与を支給する体制にした。それ以前は、時に無給で診療に当たるケースもあったという。この「病院診療医」制度を導入していたため、当直担当も可能になった。
「在室時間及び手当申告書」は、1カ月単位で医師別に記入する。勤務開始・終了時間、うち診療に従事した時間、超過勤務時間、宿日直や緊急手術・処置の実施の有無を把握するのが目的だ。
「3時間」を指標に手当の額を決定
「緊急手術等手当」の新設に当たって、議論になったのは、その額の設定の仕方。手術・処置に要する時間、難易度、診療報酬の多寡などに応じて、手当の額を設定すべきという意見が上がった。例えば、休日加算の増分は、100万円(10万点)の手術であれば80万円だが、10万円(1万点)であれば8万円であり、病院収入への貢献度は異なる。
しかし、「手術の難易度は、同じ診療科内で比較することは可能だが、他科との比較は難しい。また診療報酬も、100万円の手術であっても、材料費が高額で、赤字の場合もある」(岩中氏)などの理由から、一番公平な「時間」という指標のみで、「緊急手術等手当」を設定した。「3時間以上」と「3時間未満」に分けたのは、財源などを勘案した結果だ。
マイナス改定を強いられた東大病院では今後、収入増とコスト削減を進める方針。「時間外の手術・処置に対して、緊急手術等手当で労に報いることで、医師のさらなる協力が得られ、経営が正のスパイラルになることを期待している」(岩中氏)。
m3.com 2014年8月7日(木) 橋本佳子(m3.com編集長)
東京大学医学部付属病院は、この8月から、医師を対象に、新たに「緊急手術等手当」の支給を開始した。時間外や休日に、緊急の手術や処置(いずれも1000点以上)に従事した医師に、3時間以上の場合には1回3万円、3時間未満の場合には1回1万5000円、自然分娩にも時間外であれば1万5000円をそれぞれ支給する。
支給対象は、手術・処置に参加した全医師。常勤医、非常勤医を問わず、大学院生や研修医なども含まれる。内視鏡を用いた処置や、カウンターショックなどの緊急処置には、1000点を超すものが多いため、外科系医師だけでなく、内科系医師も、「緊急手術等手当」の対象になる。
「緊急手術等手当」の支給開始は、2014年度診療報酬改定で、時間外や休日に緊急手術・処置を実施した場合の「休日・時間外・深夜加算1」の新設を受けた対応(『「夜間や休日の手術」、医師の負担軽減』を参照)。加算額は従来の2倍で、「予定手術前日の当直免除」のほか、「医師への手当支給」が施設基準だ。この基準は非常にハードルが高いため、「休日・時間外・深夜加算1」の算定病院は全国でもごく少数であり、東大病院での手当支給は注目される動きだ。
東大病院副院長で、小児外科教授の岩中督氏は、「今改定は、消費税率引き上げ分が完全に補てんされていないことなどから、東大病院にとっては、マイナス改定だった。2014年度の病院予算は、赤字予算を組まざるを得ない状況。それでも、時間外の業務に当たる医師の労に報いるため、手当の新設に踏み切った」と説明する。
岩中氏は、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の会長補佐で、手術委員会委員長を務め、「医師への手当支給」を要件とする点数の新設を厚生労働省に要望した経緯がある。ハードルが高いながらも、自院で率先して、手当支給に踏み切ったわけだ。
「緊急手術等手当」の支給の有無は、標榜診療科単位で決まる。人員が少ないなど、「予定手術前日の当直免除」をクリアできない科では、手当は支給されない。2013年度の東大病院の医業収入は、約420億円。これを基に試算すると、「休日・時間外・深夜加算1」の算定で、少なくとも年間1億2000万~3000万円の収入増になると試算される。うち約8割を手当の原資とし、残りは人員不足の診療科での人員増に充当する方針だ。
前2回の改定、医師は恩恵受けず
2010年度と2012年度の2回の診療報酬改定の特徴の一つは、外保連の手術試案に基づき、手術料が大幅にアップした点だ。しかしながら、このアップ分は、現実には病院の赤字補てん、医療クラークの配置、医療機器の更新などに優先的に充当され、個々の医師の手当として還元した病院は少ない(『「宿直中の診療」手当支給、大学の6割にすぎず』を参照)。
東大病院でも、医師の手当としては、以前から、宿日直手当(2万円)、夜間診療手当(外科系1万円、内科系5000円)、緊急コール手当(病院外にいて呼び出された場合に1万円)などを支給していた。麻酔科医に対しては、約2年前に、「麻酔業務手当」を新設した(例えば、毎週月曜日、月4回麻酔業務に従事した場合は、常勤医5万円、非常勤医4万円など)。しかし、2回の改定後、外科医らの手当の新設は、見送られていた。
診療報酬改定に先立ち、各学会は厚労省に要望を提出するのが恒例。日本外科学会と外保連が今改定に先立って要望した一つが、「医師への手当支給」を要件とする点数の新設だった。
「休日・時間外・深夜加算1」の施設基準は、緊急入院患者数の実績などのほか、(1)病院勤務医の負担軽減・処遇改善策の実施、(2)静脈採血、静脈注射、留置針によるルート確保は原則として医師以外が実施、(3)同加算を算定する全診療科で、予定手術の術者および第一助手について、前日の当直を免除(ただし、年間12回まで当直可)、(4)休日・時間外・深夜の医師への手当支給――などを満たすことが求められる。
東大病院、標榜診療科を見直し
この8月からの「休日・時間外・深夜加算1」の算定開始に先立ち、東大病院では、就業規則の見直し、標榜診療科の見直し、各診療科における当直体制の見直しなどの準備を進めた。
標榜診療科の見直しは、院内の表示に合わせて変更したという意味だ。外科系であれば、胃・食道外科、大腸・肛門外科、肝臓・胆のう・膵臓外科、血管外科、乳腺・内分泌外科、臓器移植外科、呼吸器外科、女性外科に分かれていたが、医療法上は従来、「外科」と一括して標榜していた。
「休日・時間外・深夜加算1」の施設基準で、満たすことが難しいのが、「予定手術前日の当直免除」だ。各診療科で、工夫し、勤務体制の見直しを進めたほか、実績管理のため、新たに「在室時間及び手当申告書」も作成した。
各診療科で工夫の仕方は異なるが、小児外科などでは、大学院生を手術前日の当直担当に充てることなどを検討している。少ない診療科でも、5人から10人は、大学院生が在籍しているという。東大病院では、約2年前から、大学院生を「病院診療医」として、雇用契約を結び、診療や研修医の指導などに従事した際には、給与を支給する体制にした。それ以前は、時に無給で診療に当たるケースもあったという。この「病院診療医」制度を導入していたため、当直担当も可能になった。
「在室時間及び手当申告書」は、1カ月単位で医師別に記入する。勤務開始・終了時間、うち診療に従事した時間、超過勤務時間、宿日直や緊急手術・処置の実施の有無を把握するのが目的だ。
「3時間」を指標に手当の額を決定
「緊急手術等手当」の新設に当たって、議論になったのは、その額の設定の仕方。手術・処置に要する時間、難易度、診療報酬の多寡などに応じて、手当の額を設定すべきという意見が上がった。例えば、休日加算の増分は、100万円(10万点)の手術であれば80万円だが、10万円(1万点)であれば8万円であり、病院収入への貢献度は異なる。
しかし、「手術の難易度は、同じ診療科内で比較することは可能だが、他科との比較は難しい。また診療報酬も、100万円の手術であっても、材料費が高額で、赤字の場合もある」(岩中氏)などの理由から、一番公平な「時間」という指標のみで、「緊急手術等手当」を設定した。「3時間以上」と「3時間未満」に分けたのは、財源などを勘案した結果だ。
マイナス改定を強いられた東大病院では今後、収入増とコスト削減を進める方針。「時間外の手術・処置に対して、緊急手術等手当で労に報いることで、医師のさらなる協力が得られ、経営が正のスパイラルになることを期待している」(岩中氏)。
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