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ラテックスフリー手袋で手荒れ?

2014-08-26 21:20:14 | 医療と介護
製造工程で用いられる添加物でアレルギー性接触皮膚炎

原因となる加硫促進剤を含まない手袋の実用化進む
日経メディカル 2014年8月26日 リポート:富永紗衣

 ラテックスフリーの手袋を使っているのに手荒れが生じた経験はないだろうか。ゴム手袋の製造工程で用いられる加硫促進剤(ゴム硬化剤)などの添加物が原因で、遅延型のアレルギー性接触皮膚炎が生じることが注目されている。2013年に改訂されたガイドラインにも、添加物による遅延型アレルギーの現状とその対策が盛り込まれた。
 「ゴム手袋をよく使用する医療従事者では、製造時の添加物によるアレルギー性接触皮膚炎の発症リスクが高い。職業性皮膚疾患として対策を講じてほしい」と藤田保健衛生大学医学部皮膚科学講座教授の松永佳世子氏は注意を促す。

 1980年代以降、ゴム手袋などゴム製品の普及に伴い、ラテックスに含まれる蛋白質が原因で生じる即時型のラテックスアレルギーが問題視されてきた。近年は、蛋白質の残存量を軽減させたアレルゲン対策済み手袋や、ラテックスを含まない合成ゴム製(ラテックスフリー)手袋などが普及し、ラテックスアレルギーへの対策は進んでいる。

 しかし最近、ラテックス対策だけでは、ゴム手袋によるアレルギーを完全に防ぐことはできないことが注目されている。ゴム手袋の製造過程に使用される加硫促進剤などの添加物により、遅延型のアレルギー性接触皮膚炎を生じる可能性があるからだ。

 ゴム製品を製造する際には硫黄を加えて伸縮性や耐久性を持たせる、加硫という操作が行われている。加硫促進剤は、加硫に掛かる時間を短縮するために用いられる化学物質で主にチウラム系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、メルカプト系化合物などがある。これらの添加物は天然や合成にかかわらずゴム製品の製造時に一般的に使用されている。そのため様々なゴム手袋に、ある程度残留している可能性が高い。
 これらの加硫促進剤は、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会が日本人の接触皮膚炎の主な原因物質とした、ジャパニーズスタンダードアレルゲン(25種類)に含まれる。加硫促進剤の一つチウラム系化合物のパッチテストに反応し、アレルギー反応を示す患者は3~5%程度存在することが、松永氏らの調査により明らかとなっている。またチウラム系化合物に陽性反応を示した患者で職業が判明した27例のうち、約3割の8例は医療従事者だったという。

 添加物によるアレルギー性接触皮膚炎の症状は、痒みを伴う紅斑、浮腫、漿液性丘疹、乾燥、亀裂などで、ラテックスアレルギーやアレルギーでない刺激性接触皮膚炎と似ている。ラテックスアレルギーは即時型のためゴム手袋を脱ぐと症状が消えることが多いが、添加物によるアレルギー性接触皮膚炎は遅延型で、ゴム手袋に接触してから数時間後に症状が生じることが多い。刺激性接触皮膚炎との鑑別ではパッチテストが必要となる。

 日本ラテックスアレルギー研究会が2013年11月に発行した「ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2013」では、ゴム製品に含まれる化学物質による遅延型アレルギーの項目が新たに加えられ、医療従事者などハイリスク者への注意が喚起された。

 このガイドラインではゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎を防ぐために、加硫促進剤を含まないゴム手袋の使用や、ゴム手袋の内側に木綿の手袋を着用するなどの対策を示している。

 加硫促進剤が原因の接触皮膚炎患者に、加硫促進剤を含まないゴム手袋を4週間使用させたところ、手湿疹が軽減された上で、従来品と比べて遜色ない使用感だったとの報告がある(森田ら 日本ラテックスアレルギー研究会会誌 2013;17:71-8.)。また、症例1のように木綿の手袋の着用で一定の治療効果が得られることも確認されている。

 ただし、“加硫促進剤フリー”と呼ばれる手袋にも落とし穴はある。実は現在、製造工程で加硫促進剤を使用したが最終製品から検出されなかった手袋と、加硫促進剤を使用しない手袋の両者が“加硫促進剤フリー”手袋として販売されている。加硫促進剤検出不可の手袋でも、検出限界以下で同剤が残っている可能性がある。実際、このような手袋でアレルギー性接触皮膚炎を発症した例が報告されている。

(症例提供:松永佳世子氏)
 44歳女性、歯科衛生士。
 35歳頃から両上肢に湿疹を認め、近医を受診し、亜鉛華軟膏とアンテベート(一般名ベタメタゾン)軟膏の重層療法、およびヒルドイドソフト軟膏0.3%(ヘパリン類似物質)の外用を続けていたが、徐々に悪化してきたため藤田保健衛生大学病院皮膚科を受診した。花粉症の既往あり。初診時に前腕、手背に紅斑丘疹を認めた。
 パッチテストの結果(ICDRG基準)は、ジャパニーズスタンダードアレルゲン(Thiuram mix[紅斑と浸潤、丘疹;+]、Rosin[紅斑のみ;+?])、Plastic, Glue series(abietic acid[刺激反応;IR]、Turpentine oil[IR])、Rubber chemicals series(TMTM [+]、TETD[+])、パッチテストテープ「硫酸ニッケル」(+?)。持参させた3種類の手袋でもパッチテストを実施したところ、ラテックス手袋で陽性反応(+)を示した。同種の手袋を3年ほど使用していた。
 以上より、加硫促進剤による接触皮膚炎と診断した。前医の治療を継続しつつ、ゴム手袋を使用する際は内側に木綿の手袋を着用するよう指導したところ、湿疹は徐々に軽快した。
 表1に、製造工程で加硫促進剤を使っていないゴム手袋で、現在日本国内で販売されている主な製品の一覧を示す。通常のゴム手袋と比べ価格は2倍以上と高いが、加硫促進剤に対する感作の成立を防ぐためにも、これらのゴム手袋への切り替えなど、対策を講じてほしい。
表1 国内で販売されている、加硫促進剤を製造工程で使用しない主なゴム手袋(取材を基に編集部で作成)
http://medical.nikkeibp.co.jp/mem/pub/report/201408/closeup/538019_140826_glove.html
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