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カジノ依存は手ごわい

2014-08-28 08:45:13 | 医療と介護
香山リカのココロの万華鏡


毎日新聞社 2014年8月26日(火) 配信

 先ごろ、パチンコや競馬などの賭け事をやめられない「ギャンブル依存症」の疑いがある人の国内推定数が厚生労働省から発表された。その数およそ536万人。男性の8・7%、女性の1・8%という結果は、諸外国に比べても高い。
 おりしも政府内では、海外からの観光客誘致の一環としてカジノ解禁の議論が進んでいる。厚労省はカジノ整備には反対しないものの、日本人の利用を認めないよう求めていく方針とのことだ。この動きに関して推進派からは「ギャンブル依存の原因はその人自身の特性や生活にあり、カジノができたからといって依存症が増加するわけではない」という声も上がっている。
 しかし、依存する対象への接触や利用のしやすさが依存を促進し、いったんでき上がった依存からの脱却をしづらくするのは否定できないだろう。たとえばアルコール依存症に陥り、治療を受けて断酒を始めた患者さんには、初期の段階では「なるべく飲み会には行かないように」と伝える。宴会に出て酒を勧められても「私はお茶で」と断れるようになるまでには、かなりの時間が必要なのだ。
 何より問題なのは、カジノの場合、パチンコなどに比べて一度に動く金額が膨大になる可能性があるということだ。一瞬にして何億ものお金がもうかったり消えてしまったりするときの興奮、緊張、そして快感や失望は、ほかの遊びや仕事などではとても味わえない、と依存症に陥った人が語ってくれたことがあった。ほかの依存ならスポーツや農作業などで日常を充実させることで回復する可能性もあるが、カジノ依存は手ごわい。健康的な生活に戻っても「あのスリルが忘れられない」と再び手を染めてしまう人も少なくない。
 もちろん、日本にカジノができたからといって、利用者のすべてがどんどんのめり込むわけではなく、依存症にまでなるのはほんの一部だろう。私は個人的にはカジノ整備には反対だが、実現したら多くの観光客が世界からやって来たり地域が潤ったりするのだとしたら、あえて見送るのはあまりに惜しいという気持ちもわかる。
 ただ、いったんカジノ依存が生じた場合、家族や職場にも甚大な迷惑がかかり、本人も一生を棒に振る危険性があるということを、推進派はしっかり覚悟しておいたほうがよい。「そんな人はいるはずないよ」という楽観論はこの場合、通用しないということは、国内外のたくさんのケースを見れば明らかだ。(精神科医)

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