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古い閉鎖体制、命守れず 

2015-03-12 21:57:09 | 医療と介護
生きなかった10年前の教訓 「群馬大病院の患者死亡問題」

共同通信社 2015年3月9日(月) 配信

 治療チームが批判や意見を受けず、閉鎖的体制を続けたことが背景にあった―。群馬大病院で腹腔(ふくくう)鏡による肝臓切除手術を受けた患者8人が死亡した問題で、病院の調査委員会がまとめた最終報告はこう言及した。同病院は約10年前の医療事故でも古い体制を変えるよう提言されたが、改善されないまま、相次ぐ死を防げなかった。厚生労働省は9日に病院長を聴取して体質をただす。
 ▽手柄優先?
 「死亡1例目で執刀医からの報告や改善がされていれば、その後の患者は死ななくて済んだ」。6日、患者2人の遺族の依頼を受けた弁護団が記者会見し、病院のずさんな管理体制を批判した。
 調査委の報告によると、第2外科では2010年12月に腹腔鏡による肝切除手術を導入後、1年未満に患者4人が死亡していた。しかし内部で歯止めがかからなかった。死亡例を振り返って検証や反省をせず、術前の必要な検査も行われないまま、新たな手術法は積極的に推進され続けた。
 「信じられないような症例をやっている」。報告を見た外科医の一人は驚く。高度な技術が必要で、開腹手術が妥当とされる「肝門部胆管がん」を腹腔鏡で手術し、患者は感染症を合併、約3カ月後に亡くなった。
 「外科医は『自分ならできる。症例数を増やしたい』と思うもの。しかし、患者が亡くなることが1例あれば、何とかしなければと考えるはずだ。手柄を優先してしまったのか」と推測する。
 ▽ナンバー制
 群馬大病院には第1、第2と分かれた外科があり、消化器や呼吸器など重複する臓器を両方で診ている。問題の手術をした第2外科の「肝胆膵(すい)外科チーム」の医師は2人きり。第1外科にも肝臓専門の医師はいるが、人材は分散され、ノウハウは共有されなかった。
 同病院のナンバー制診療科の問題が指摘されたのは初めてではない。05年11月、第1外科で生体肝移植手術の提供者となった女性が下半身不随になる事故が発生。第1と第2の別々のチームで移植をしている特異な体制が問題視され、検証委員会は「再構築を」と求めた。だが外科全体の体制見直しにはつながらなかった。
 かつて大学にはナンバー制外科が存在したが、専門が細かく分かれていく中で、科をまとめて臓器ごとのグループを置く再編が十数年前から全国で進んでいた。
 肝臓を専門とする門田守人(もんでん・もりと)・がん研究会有明病院長は「時代に合わない体制がそのままになっていた。生体肝移植の問題が起きたときに解消することもできたはずだ」と指摘する。
 ▽繰り返さないで
 群馬大病院は4月から第1、第2外科を「外科診療センター」に統合し、センター長が一元統括するなど改善策をようやく打ち出した。同病院は高度医療を提供する特定機能病院の承認を受けており、厚労省は承認を取り消すかどうか、社会保障審議会医療分科会で審議している。
 2月にあった非公開の会合では委員から、相次ぐ死亡例を把握できなかった組織体制などに厳しい意見が出たという。9日には野島美久(のじま・よしひさ)病院長を呼び、事情を聴く。
 弁護団も「悪質な過誤だ」として真相を独自に調査中だ。ある遺族は弁護団を通じてこうコメントした。「この家族の悲しみを繰り返したくない。同じような犠牲者が出ないようにしてほしい」

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