中国のキリスト教会に迫る危機的状況; 上海神殿に関連して

　[新唐人電視台、カナダにある。中国に批判的。]

　2014-16年の3年間に浙江省で1500以上の教会が、十字架の撤去、会堂の破壊、聖職者や信徒の指導者の身柄拘束など迫害を受けてきた。実際には同省政府が「古い街区の改造、違法建築取り壊し」を名目に2013年から始めていて、2017, 18年にも散発的に十字架撤去が行なわれていた。河北省、山西省や他の省でも行われたことが伝えられた。

　これは夏宝龍が浙江省共産党書記（トップの地位）にあった時に、千以上の教会から十字架を撤去したり、会堂破壊を指揮したりしたことに始まり、温州を起点に省全域に及んだ。2017年に国務院は新しく「宗教事務管理条例」を公布し、中国各地のキリスト教会は礼拝や信仰実践面で政府の様々な抑圧を受けている。

　

　そんなさなか、末日聖徒イエス・キリスト教会は今年2020年4月の総大会で、上海に神殿を建設する計画を発表した。キリスト教界に大変な逆風が吹く中、この発表をどう受けとめればよいのだろうか。教会の代表（主に十二使徒たち）の長年にわたる忍耐強い交渉と中国における一般キリスト教会の歴史を簡単に見ておきたい。

 

　教会はBYUの歌舞グループを送ったり、英語教育で講師を派遣したりするなど、友好関係を築くことから始め、徐々に教会幹部と中国政府（宗教関係部署）間の関係が出来上がるように働きかけてきた。バラード長老、マックスウェル長老、オークス長老、そして古くは現大管長のネルソン教授（当時）らが下地を作ってきた。教会側は中国における宗教政策を尊重し、中国大陸在留の米国会員が礼拝できるよう慎重に道を探ってきた。そして1980年代末に北京、上海などに支部が設けられ、1990年代末に中国籍と外国籍の会員が別々に集会を家庭やビルの部屋を借りて開けるようになった。但し、布教活動は厳に控えることという条件が伴った。（これは中国のキリスト教会一般についても同様であった。）

 

　私は1996~2004年訪中する度に、また2009-11年黒龍江省ハルピンにいた間、機会がある毎に中国のキリスト教会に出席するように努めた（計20回）。それで分かったことは、信徒たちが皆熱心で賛美歌を歌うのも、集会に出席するのも熱意と信仰に溢れていたことであった。信仰の姿は保守主義、根本主義と言えるものと受けとめた。聖書を字句通り受けとめる姿である。

 

　上記の状態に至るには長年の潜伏期間と発展の時期を経ていた。1949~79年は迫害の下でキリスト者は「内に向かう」姿勢で「祈り、励まし合う」信仰であり、1978年12月以降改革開放政策の下、教会から「外に出て」「公益、社会のために役立とう」とする姿勢に転じる。そして21世紀に入りキリスト教会の発展期を迎え、プロテスタント信徒2,300万人、家庭教会を加えると1億人との推計が出るほどになっていた。（BBCも報道した。）

 

　それが2013年習近平が首席になって以来、浙江省時代部下であった夏宝龍がキリスト教会に辣腕を振るい始めたというわけである。

 

　2015年中国を訪問した黄大衛（九州ルーテル神学校教師）によれば、「中国全土で見れば、キリスト教会の置かれた状況は浙江省などを除けば概ね良好」である、という。また北京における教会は意外に平穏な状態にあったと報告している。浙江省でも会堂が破壊されても宗教活動は継続されているという。憲法で信教の自由が謳われていて(1982年改訂)、地方政府もそれに配慮しているのだと見る。

　

　上海神殿計画の発表は、増えつつある中国籍の会員が台湾や香港へ行かなくてもすむようにする、北京や上海に大勢滞在している米国籍の会員がいちいち香港に行かなくてもすむようにするためではないか。また、教会に見られる特徴の一つとして、存在感を示す象徴（相手方の地に築く心理的橋頭保）として機能させたい意志があるのではないか、と私は見ている。返還直前に香港に神殿を建てたことや、聖地エルサレムにBYUエルサレムセンターを設けたこともその意義があったと思う。

 

　上に引用した黄大衛は「中国人は規則よりも人情である。良い関係だったら、何でも相談できる」、逆に「敵対関係にあったら、たとえ理が相手にあるとしても、相手と敵対する」と述べている。おそらくそれで教会幹部は中国を苛立たせたり、機嫌を損なわないように、神経を使っている。中国における末日聖徒の現状や将来について、軽々に論じることは控えるように、伝道熱心な働きかけは厳に慎むようにと。末日聖徒（米）は西欧列強の帝国主義的侵略とは無縁であったので、直接嫌悪の対象とはなっていない。その立場にあるので、注意深く接近を試みているように思われる。

　なお、黄大衛が意外に平穏と見るのとは違って、習近平は言論、信教の自由に対する統制を一層強化しているとの見方もあるので、予断を許さない状況である。（石川他著）。

 

参考

・劉燕子メモ「都市新興『家庭教会』の非力牧師を囲む会」2017.05.06

・黄大衛「中国キリスト教と政府の宗教政策」2015年12月

・石川照子他「はじめての中国キリスト教史」2016年