情熱の薔薇

天幕旅団主宰:渡辺望が傾ける様々な情熱。

冒頭しかない童話「沈まない太陽の国」

2010-12-29 22:25:06 | Weblog


「明日は雨が降るね。」
彼女がぽつりと呟いた時には、正直とても驚いた。

「どうして?」と僕は、内心の揺らぎを悟られないように聞き返す。
「なんとなく。だけどそんな感じがしたから。」と彼女は、いつもの子犬のような柔らかな微笑みにのせて答える。

それで僕は、ますます混乱してしまった。
その日の空は酷く埃っぽくて湿っぽくて、どう軽く見積もっても、明日は本格的に雨が降りそうだったからだ。


彼女の嘘つきは筋金入りだ。
いついかなる時でも嘘をつく。
昨日見た映画の話も、雨漏りのする洗面所の話も、大好きだったおばあちゃんの話も、彼女はまことしやかに嘘をつく。
それは、嘘かホントか、ほとんど区別がつかないような、絶妙な嘘だ。
誰もがその話に熱心に聴き入り、やがて騙された事を知る。

何故そんなにするりと嘘をつくのか、僕にはさっぱりわからない。
世の中、嘘をつく事は圧倒的に悪であるし、なにより、嘘を嘘だと気付いたときの、足元の揺らぐ感じはなんとも言えない悲しさを伴う。

だけども僕は、その嘘つきな彼女がたまらなく好きだ。
彼女が嘘をつく時に必ず見せる子犬のような微笑みを限りなく愛おしく感じている。
その子犬のような微笑みに、恋をしている。
それは突き詰めてみれば、彼女が嘘をつく事に恋をしている、という結論になるんだと思う。


そんな彼女が、いつも嘘をつく時に見せる子犬のような微笑みで、ホントの雨の話をしたのだ。
それはまさに、記念碑的な夜だった。
天と地がさかさまにひっくり返ったって、そんな夜は二度と来ないと思う。
少なくとも僕にとっては、それが生涯で最後の夜だった。

「あとね、カワハラくん、」
彼女は透き通るような小さな声で続けた。
「アタシ、この家を出ていこうと思うの。」
子犬のような微笑みは、いつのまにか消えていた。
真顔で僕を見つめる彼女の目は、なんだか寂しそうだった。
どうして子犬のように微笑んでくれないんだろう、と僕は思う。
どうして嘘をついてくれないんだろう、いつもみたいに。


次の日、雨が屋根を穿つ音で目を覚ますと、彼女の姿は消えていた。
代わりに、キッチンのクッキーの缶の下に、小さな走り書きのメモが残されていた。
几帳面な彼女の字で一言、「捜さないでください」。
その字は、微笑んでいる。
どう見ても子犬のように微笑んでいる。

財布と携帯電話をコートのポケットに詰め込むと、雨の街に走り出た。
外は、ひんやりと終末の匂いがした。
僕の、沈まない太陽の国の冒険は、こうして始まる。

冒頭しかない童話「ハートフル・ストライプ」

2010-12-28 17:47:44 | Weblog
靴下の穴に気付いたのは、今朝。
玄関先に座り込んで靴を履こうとした時だ。
右足の中指が、ストライプの生地の真ん中から顔を覗かせていた。

履き替えようかとほんのひと時逡巡したが、ノボルは結局、そのまま靴を履き紐を結んだ。
8時33分の急行電車に乗るためには、一秒でも早く家を出る必要があったからだ。
緑と白の履き慣れたスニーカーは、何事もなかったようにするりと足に収まった。

駅までの道程は、少し急な坂道になっている。
走る度に息は白く、まるで生きている証みたいに、立ち上っては溶けていく。
今夜帰ったら、押入から手袋を探さなきゃと、かじかんだ指先をポケットに避難させながら考える。
冬というのは、遠慮がちにやって来るのに堂々と居座る困った奴だ。

最寄り駅は、いつものように落ち着きがなかった。
朝、出勤や通学のために駅を利用する人々は、誰もがそわそわして浮足立っている。
我先にと周りを押しのけて満員電車に乗り込む準備体操でも始めそうな勢いで、電車の到着を待っている。
ノボルは、少し居住まいを正した。
満員電車というのは、どんなに乗っても慣れない。
だが、今日の8時33分の急行電車には、なにがなんでも乗らなければならない。
ただでさえ、自宅から大学までは1時間以上かかるのだ。
単位のかかった大事なテストに遅刻するわけにはいかなかった。

「失礼ですが、」
その駅係員が話しかけてきたのは、列車の到着を告げるアナウンスが流れた直後だった。
「あなたを乗せるわけにはいかないんです。」
彼は優しげな声でそう言った。
どういうことですか?と、当惑しながら聞き返す。
見れば彼は、濃い紺色の制服に白い手袋、床屋に行ったばかりみたいに綺麗に切り揃えられた髪の上に制帽を深く被った、どこか「完璧な駅係員」だった。

「決まりですので」
と、その完璧な駅係員は言う。
まるで、「今日はジョンレノンの命日です」と言っているのと同じような、完璧な断定だった。
大学で単位のかかった大事なテストがあるんです、遅刻するわけにはいかないんです、と隠しきれない動揺を含んだ声で説明をしていると、ホームに急行電車が滑り込んできた。
8時33分。時間きっかりだ。
綺麗な列を作って並んでいた客達が、一様に少し身構える。
だが、完璧な駅係員だけは、ノボルの前に立ちはだかり、身じろぎ一つしなかった。

もはや時間の猶予はない。
どうして僕はあの電車に乗っちゃいけないんですか?、とノボルは聞く。電車の走行音に掻き消されないように、精一杯の声で。
まるで自分の声が自分のものではなくなったみたいな感じがした。

完璧な駅係員は言う。
静かな、でもはっきりとした声が真っすぐに耳に投げ掛けられた。
「靴下に、穴があいているからですよ。」


・・・・・つづく
(物語は続きそうですが、冒頭だけ書きたかったので、特に今後の掲載はありません。)

12月26日(日)のつぶやき

2010-12-27 01:42:58 | Weblog
17:06 from www.movatwi.jp
舞台上から目を見て微笑まれたら、きゅんとしちゃうなあ。
17:43 from Keitai Mail
中身はかわらないけれど、マグカップで供されるのと、紙コップで供されるのとは雲泥の差だな。と、思いつつ、これから今日二本目の観劇。池袋。 http://photozou.jp/photo/show/721817/61881149
23:11 from Tweet Button
閣下って、やっぱりすごいなあ。 --  #nowplaying あの鐘を鳴らすのはあなた http://t.co/6roGB9b via @youtube
by nozomu7170 on Twitter

12月23日(木)のつぶやき

2010-12-24 01:53:46 | Weblog
00:56 from Keitai Mail
あ、タモリ倶楽部見ようとしちゃった。金曜日ぢゃないのか。
11:34 from web
RT @nakajima_ramo: 永遠も半ばを過ぎた 私とリーは丘の上にいて、鐘がたしかにそれを告げるのを聞いた
13:46 from Keitai Mail
今日のiPodは、なんだか、くるりばかり選曲している。そんな気分の日なんだな。
by nozomu7170 on Twitter