情熱の薔薇

天幕旅団主宰:渡辺望が傾ける様々な情熱。

「サーカスナイト」の情熱

2017-07-22 13:54:12 | 稽古場から・劇場から

天幕旅団2017夏興行「ファンタズマゴリア」、1ヶ月のロングラン公演は、もう、終盤戦に入っています。
中島らもさんの小説で、「永遠も半ばを過ぎて」というのがあるのですが、ホントにこの言葉を噛み締めているであります。

今回は、再演2本に新作1本、合計3本を上演しています。

新作「天幕旅団の遊園地」は、なんとも不思議な手触りの作品です。
いままでずっと、童話や小説や、何かをモチーフに紡ぐ、本歌取りというスタイルで書いてきたのですが、はじめて本歌なしのオリジナルストーリーで紡いだ物語は、いろんな思いというか、想いというか、かなりストレートに表れたような気がしています。

脚本を書きながらずっと、七尾旅人さんの「サーカスナイト」という曲がぐるぐる頭の中を巡っていました。
消えてしまうサーカスの夜のひととき。
いまの気持ちにとても、シンクロしていました。

いままでのこと、これからのこと。
永遠に続くことなどなくて、それは儚い夢でしかない。
そんな、中の、いま、なのだと思うのです。

「ファンタズマゴリア」は、7/30までで消えちゃいます。
あとにはなんにも残らない。だからこそ、精一杯の夢を。

お席、まだまだいっぱいあります。
たくさんの人に、見て欲しい。
どうぞ、楽しい夢のひとときを。

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天幕旅団
「ファンタズマゴリア」
7/6(木)~30(日) SPACE 雑遊

■場所
SPACE 雑遊
(東京都新宿区新宿3-8-8新宿O・TビルB1F)

■タイムテーブル
7/6(木)19:30【遊】
7/7(金)19:30【エ】
7/8(土)18:00【エ】
7/9(日)14:00【遊】
7/10(月)休演日
7/11(火)19:30【エ】
7/12(水)19:30【エ】
7/13(木)19:30【遊】
7/14(金)18:00【エ】/21:00【遊】
7/15(土)18:00【エ】
7/16(日)14:00【エ】/18:00【遊】
7/17(月)14:00【遊】/18:00【エ】
7/18(火)休演日
7/19(水)休演日
7/20(木)19:30【雪】
7/21(金)18:00【雪】/21:00【遊】
7/22(土)18:00【遊】
7/23(日)14:00【雪】/18:00【遊】
7/24(月)休演日
7/25(火)19:30【雪】
7/26(水)19:30【遊】
7/27(木)19:30【雪】
7/28(金)18:00【遊】/21:00【雪】
7/29(土)18:00【雪】
7/30(日)14:00【遊】※千秋楽アフターイベント有

【遊】=天幕旅団の遊園地 【エ】=エメラルドの都 【雪】=僕の中にある静けさに降る、騒がしくて眩しくて赤くて紅い雪

■料金
前売3000円
当日3300円
高校生以下1500円(要学生証)
2演目セット5500円
3演目セット8000円
フリーパス10000円(特典グッズ付き)

http://ticket.corich.jp/apply/83038/002/


「演劇の神様」の情熱

2017-07-16 08:57:41 | 稽古場から・劇場から
天幕旅団「ファンタズマゴリア」
7/30まで、SPACE 雑遊にてロングラン中。
https://ticket.corich.jp/apply/83038/002/

フライヤーに寄せたごあいさつ文です。
演劇の、奇跡のおはなし。

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「演劇の神様」に出会ったことがある。1996年11月10日の出来事だ。

高校生の頃、インターネットがまだ普及しておらず、情報を得るのが今ほど容易でなかった時代。
生の舞台など一度も見たことがなく、演劇の「え」の字も知らない少年だった僕が、
「weeklyぴあ」の演劇欄の片隅に載ったその公演情報に目を留めたのは、
おそらく偶然という言葉でしか言い表せないのではないかと思う。
当時(今もだが)、ファンだった女優の富田靖子さんが舞台に出演しているらしい。
富田さんをスクリーン越しではなくて生で見られる機会など他にはない、
そんなミーハーな気持ちしかなかったが、その芝居を見に行こうと心に決めた。
行けるのは学校が休みの日曜日しかない。ちょうど千秋楽の日だった。
会場は、渋谷パルコPART3の8階にあった、SPACE PART3。
NODA・MAP番外公演「赤鬼」というのがその芝居のタイトルだった。

ひとまずチケットをとろうと電話をしてみたが、とっくに完売だと言う。
今にして思えば、大人気のカンパニーが小さめの会場でやる番外公演、
しかもその千秋楽なのだからチケットが残っていないなんて当たり前のことだが、
当時の僕は演劇の右も左も知らなかった。
電話口で困り果てる僕に、オペレーターのお姉さんは「当日券」という存在を教えてくれた。
若干枚数ではあるけれど、当日直接会場に行って並べば見られる可能性があるという。
朝10時、パルコPART3のオープン時間に1Fのエントランスに並んでいればいいらしい。
希望が繋がった。僕は始めて見る生の富田さんを想像し、ワクワクしながら日曜日を待った。

1996年11月10日、渋谷のスペイン坂を上がりきって左に曲る。
発売開始の10分前ぐらいに着けばなんとかなるだろうと思っていた僕は愕然とする。
そこには長い長い列が出来ていた。なんなら徹夜組とかも居たのではなかろうか。
パルコPART3の入り口から公園通りの方向へ、文字通り長蛇の列だった。
素人目にも、ここにいる全員に行き渡る分の当日券はなかろう、と察せられた。
半ば絶望しながら、とりあえず来たし記念に、ぐらいの気持ちでその長蛇の最後尾に並んだ。


「演劇の神様」に出会ったのはその時だ。

『仕事で見に来れなくなってしまって。』と神様は僕に言った。
神様はその時、30代ぐらいの女性の姿をしていた。
『誰か代わりに見てくれるならと思って。チケットを買ってくれませんか?』と神様は続けた。
今ならば、転売やらダフ屋やら、そんな言葉が脳裏をよぎって警戒するのだろうが、
演劇一年生の僕には、そんなことを疑う術すら知らなかった。
幸いにして、差し出されたチケットは本物だったし、神様はそれを定価で譲ってくれた。
『ありがとう』と言って渋谷の街に消えて行く神様の背中に、
こちらこそありがとうございます、とその時ちゃんと言えたかどうか、
僕はどうしても思い出せない。


その「赤鬼」という作品を見て、僕は演劇を始めた。
1996年11月10日の朝、渋谷の路上で演劇の神様に出会っていなかったら、
僕は、ここにいないのだと思う。


全てはただ、奇妙な偶然の連続だ。
ただひとつ確かなこと、世界には奇跡が溢れている。