情熱の薔薇

天幕旅団主宰:渡辺望が傾ける様々な情熱。

「銀河鉄道の思い出」の情熱

2012-04-21 12:47:50 | Weblog
個人的な思い入れのある特別な本っていくつかあるけれど、「銀河鉄道の夜」もそのひとつ。
決まって思い出すのは、おじいちゃんの顔だ。

幼い頃、毎年夏休みになると、新幹線に乗って、京都に住むおじいちゃんの家に行くのが恒例だった。
四つ上の、まだ小学校に上がったばかりの兄と二人、新幹線に乗って京都に向かった。子供二人だけの電車旅は、とにかくとてつもなく不安で、京都駅のホームに祖父母の姿を見つけた時の泣き出したいくらいの安堵感は、いまでも覚えている。

京都で過ごす夏休みの間は、引き伸ばされたみたいにゆったりとした時間が流れていた。
僕と兄は、朝から晩まで遊び、そしてよく眠った。

ある日、おじいちゃんが僕らを映画に連れて行ってくれた。
「銀河鉄道の夜」というアニメ映画だった。
薄暗い画面の中で、目だけが明るく光る猫がたくさん出てくる。静かに、列車の走行音だけが響くその映画は、幼い僕にはなんだかすごく怖い感じがしたことを覚えている。
見終わったあと、すごくふわふわして、足元がおぼつかない感じで、おじいちゃんに手を引かれて帰路についた。

その晩、僕は熱を出した。
なんのことはない、ふわふわしたのは、熱があったからだ。
おじいちゃんは、僕を自転車の荷台に乗せ、救急病院に連れて行ってくれた。

翌日には熱も下がり、東京に帰る日が来て、そして、夏休みも終わった。
その旅は終わり、僕は日常に戻った。

「銀河鉄道の夜」を読む度に、亡くなったおじいちゃんの顔が思い浮かぶ。
死者との旅、は僕にとって、大好きだったおじいちゃんとの旅なんだと思う。

宮沢賢治は、やっぱり特別な作家で、学生時代に「銀河鉄道」を題材に一本書いたし、前の劇団でも上演した。「グスコーブドリの伝記」もやった。
また、いつか再演したいなあ、とか思ったり。

「銀河鉄道の夜」の芝居に関わる時は、いつも、特別な気持ちになるのだ。

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