「警備隊だって。」
「とにかく奴らには気をつけるんだ。下手をすると、この世から形を消されてしまうぞ。」
「分かった。」
「じゃあな。」ユングはそこだけはっきりした声で言うと引き返した。途中で踵を返して振り返り、手を振って叫んだ
「きっと皆で遊びに来るんだぞ。」
「また後でな。」バックルパーは手を振ってこたえた。そのとき、ユングの背後に人影が見えて、消えた。
何もなかったよう . . . 本文を読む
通り慣れた道だった。道の隅々まで見覚えがあった。あの角を曲がるといつも口の開いたごみ箱が置いてあるということまで、エミーには分かっていた。この国が左右反対だと分かった瞬間から、奇妙な吐き気は消えた。するとその光景はいつも見慣れた町そのものに思えるようになったのだ。
「おい、バックルパーじゃないか。」
不意に後ろから声がした。
「おお、ユング!!元気だったのか。」声の主を見て、思わずバ . . . 本文を読む
「今の、何だったの。」エミーが歩きながら、小声で訊いた。
「よく分からないが、あの胸の勲章は見たことがある。この国の身分の高い者だろう。逆らわない方がいい。」
「私のこと言ってたの。私、怖い。」
「いや、この国に来て間のない者を若いと言うのだろう。だんだん皮膚が腐って行って骨だけになったのが、さしずめ老人ということなのだろうな。」
バックルパーは行き交う人の姿を眺めながら言った。 . . . 本文を読む
御嶽山
2014-10-07 | 日記
御嶽山の痛ましいニュースが連日流れてくる。
先日私の元職場から、この3月まで同僚だった先生が、噴火に遭遇して亡くなったという知らせを受けた。
3年間一緒に働いた。アウトドアでも活躍して、熱気球の世界大会に出場したり、モトクロスで山野を走る。それを授業に取り入れてなかなかの熱血先生だった。
その知らせを受けた瞬間から、御嶽の惨状が私の身に喰い込んでくる。
噴煙で真っ暗になり、石が空から降って . . . 本文を読む
町に入ろうとすると、前から馬車がやってきた。御者はぼろぼろのローブを着ていた。頭巾の下に覗いている顔は、どう見ても骸骨そのものだった。大きく窪んだ眼窩に目玉がガタガタ揺れていた。二人は顔を見られないようにうつむいて、馬車をやり過ごした。かすかに腐臭がした。馬の皮膚が腐って、足の部分だけ骨が飛び出しているのだ。
町は生の国のセブズーと同じように、たくさんの人達が行き来していた。ただ違うのは重々 . . . 本文を読む
通路はやがて岩肌がむき出しのトンネルになり、そこを抜けると小高い丘に出た。二人は呆然としてその丘に立ち尽くした。
その眼下には異様な町の光景があった。町全体が炎に包まれているのではないかと思われた。青いはずの空は、全天がくぐもった様なオレンジ色に染まり、世界全体がその色を反映しているのだった。
「ここはセブズーの町、私達の町よ・・・ねバック。」エミーはバックルパーに訊いた。
「そのよ . . . 本文を読む
闇と無音の世界が続いた。舟はゆっくりと流れていった。船底から伝わる波の揺らぎだけが時の変化を告げていた。
「舟が向こう岸に近づくと、そこだけ丸い形に波立っている水面を通過することになるだろう。審判の淵じゃ。よいか、その時大人が乗っていると知れると、な、舟はその丸い淵に飲み込まれてしまうのじゃ。汚れたものは決してそこを通過することは出来ぬ。」
出発する間際に老婆は言った。エミーの . . . 本文を読む
ゆっくりとしたリズムでオールが動き、小舟は闇の上を滑るように動き始めた。バックルパーは船乗りのように手慣れた、無駄のない動作でオールを使い、舟を漕ぎ始めたのだ。
小舟が岸を離れると、老婆の姿は訳もなく闇に飲み込まれてしまった。発光する小舟の上で、二人の姿はぼんやりとホタルの色に染まっていた。他には、闇があるばかりだった。
オールのリズムに合わせて、滑るように湖面を進んでいた . . . 本文を読む
闇の中に黒い影が立っていた。大きな体格をした男だった。その横に男の腰あたりまでの人影があった。子供だろうか。二人は身動き一つしなかった。
「怖いか。」太い男の声がした。すると小さな影が動いた。首を横にふったのだ。そして二人はそのまま黙ってしまった。大きな影が手を伸ばし、小さな影の手を取った。
その時、青白い光が闇を切り裂いて二人の上に降りかかった。二人の前の扉が開けられたのだ。所在ない月明 . . . 本文を読む
生と死をテーマにしたファンタジー「黄泉の国より」を初公開します。
実際に見た生々しい夢がきっかけで、夢中になってキーを叩き続けて出来上がった作品です。
生々しい夢は心の懐かしい部分にまとわり続けて、文字にしないといつまでも消化できずにいます。絵では解決できないのが不思議です。
絵描きである私の二面性だと思っています。
しばらくはファンタジーでお付き合いください。
(Waa)
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