私はそこからまだ西に続く道をあきらめ、北の方角に交差する道に進んだ。するとその先に車が一台止まっていた。室内灯がついてかすかなエンジン音が聞こえていた。今頃こんなところでといぶかる思いよりも、私自身が闖入者であるという気持ちが先に立って素早くその横をすり抜けた。
ところどころに小さな建物が建っており、どうやらここは農場だと思われた。そのような建物横手に巻きながら進んでいくと道はさらに細くなり、やがて足の幅ほどの道が心細く続いて行き止まりになってしまった。
引き返して別の道を行くと再び建物の横で行き詰まりになってしまう。だが私の立ち止まった所は今までのような地面とは違っていた。歩くことばかりに気を取られていて気付きもしなかったが、立ち止まって足元を逡巡して思わず私は自分の顔を覆った。
足元はふわふわとして柔らかく、じっとりと濡れていた。それは積み重ねられた草の上であるらしく、よく確かめようと顔を近づけると下からむっとした生暖かい気体が立ち上ってきて、馬糞の匂いが鼻をついた。
暗くてその様子はよく分からなかったが、どうやら厩舎の使い古された敷き藁の山の上であるらしくその山の上で私は引き返しもならず、進むことも出来ないまま立ち尽くしているのだ。
ぶよぶよした馬糞まみれの藁の山の上で、下手に動けば足を取られて全身が想像もしたくない惨状となるだろう。
その間にも生暖かいむせるような匂いが足元を踏み乱す度に立ち上って私の鼻を突き、私は口元を手で覆いながらその場を耐えるしかなかった。
HPのしてんてん
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