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のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

忍路について

2009-07-05 | 小説 忍路(おしょろ)
 忍路(おしょろ)は伊藤整の小説「若い詩人の肖像」に感銘を受けて旅をしたわずか3日間の出来事を小説にしたものです。  伊藤整は北海道生まれの詩人、塩谷村(小樽市塩谷町)で少年期を過ごし、上記小説の舞台となる小樽高等商業学校(現小樽商科大学)を卒業します。  次回から、忍路(その4)「小樽商科大学」       忍路(その5)「塩谷」       忍路(その6)「忍路」と伊藤整の小説の舞台を訪ね . . . 本文を読む
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居酒屋 15

2009-07-04 | 小説 忍路(おしょろ)
 緩やかな登り坂をしばらく行って左に折れ、小さな橋を渡った。その橋の上から見える小川は雪明りの中でおとぎの国のような優しさが感じられた。  里依子の寮はそこからすぐ左手に見えた。それは想像よりも大きく、立派な建物であった。浅黄色の壁はしかしこの夜の雪には合わないようにも思われた。幾分機能的な形がそう思わせるのかも知れなかったし、橋から見た雪景色とあまりに対照的なためだったのかも知れない。  門限 . . . 本文を読む
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居酒屋 14

2009-07-03 | 小説 忍路(おしょろ)
やがて橋の上に出た。千歳川が雪解けの水を乗せて豊富な流れとなっているその上を私達は歩いた。春を待ちわびるもののために、一刻も早く冬の残り香を海に運んでしまおうとするかのように、その早い流れは私達を包む夜気とよく調和していた。  橋をわたるとすぐホテルの前に出た。それがあまりに突然であっけなかったために、私は少なからず失望を覚えた。もう1時間はこうして歩いていたかった。  里依子の寮はそれから . . . 本文を読む
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居酒屋 13

2009-07-02 | 小説 忍路(おしょろ)
 11時ごろであっただろうか、ちょうど新たな一群がやって来て、入り口で立ち往生しているところだった。  里依子の一言で私達はそこを出た。外はすでにやって来た時の雨は上がっており、代わりにはく息が白く口から横に流れた。  「歩きましょう」  そう言って私達は所々に水溜りの出来た暗いアスファルトの路を歩き始めた。  私は居酒屋の太った男から解放されて、やっと二人きりになれたという安心感があって、随 . . . 本文を読む
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居酒屋 12

2009-07-01 | 小説 忍路(おしょろ)
突然明るい声が私の後ろから里依子の名を呼んだ。  その声は里依子と私の間に割り込んできた。赤いセーターを着込んで、両の手にビールのビンを持って立っている。その若い女性は里依子の同僚だった。急にその場が盛り上がって、彼女と里依子は手を取ってはしゃぎ戯れあった。  その印象は私にはいいものだった。  里依子は彼女に私を紹介した。  「話はよく伺っています。」  赤いセーターの女性はそういって私を . . . 本文を読む
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居酒屋 11

2009-06-30 | 小説 忍路(おしょろ)
 私はなんとか里依子を取り返そうと試みた。  男の話の節々に私の理解出来るところがあるとすかさず話しを割り込ませて、会話を私の方に持ってゆこうとした。  するとそれは男の一言でかわされてしまい、話の流れは変わらなかった。私の挑戦はまるで太刀筋を見切られた二流剣士のようにオロオロと剣を振り回すばかりなのだ。  あるいは強引に、二人にしか分からない会話に里依子を誘うと、その間合いに男の声が巧妙に入り . . . 本文を読む
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居酒屋 10

2009-06-29 | 小説 忍路(おしょろ)
   私の想いなど誰にも見えるはずはない。男の話は延々と続き、いつ果てるとも知れなかった。それに応ずる里依子のにこやかな態度は、自分でも言っていたように、おそらく職場で培われた笑顔であるに違いなかった。  そう思うと、その一方で、それでは私に見せる笑顔もまたそうしたものだろうかという考えが生まれてきた。  里依子の私に対する態度もまた、彼女の本心からのものではなかったとしたら・・・こうした考えが不 . . . 本文を読む
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居酒屋 9

2009-06-28 | 小説 忍路(おしょろ)
なんとなく話が一区切りとなってしまった頃であった。  それまでは気付きもしなかったのだが、私達の話を聞いていたのだろう里依子の隣に座っていた男がいきなり会話に割り込んできた。そして彼女の職場の仕事についての話を始めた。  里依子は嫌がりもせず、笑顔でそれに応えた。それは私には分からない話だったが、里依子の態度に引きずられて少しは私も愛想笑いをしたに違いない。  男は里依子の仕事と同じ関係者ら . . . 本文を読む
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居酒屋 8

2009-06-27 | 小説 忍路(おしょろ)
「こんな事を考えるには手紙を書くときだけです。」    普段は何も考えないで過ぎてゆくというのであった。里依子からやってきた何通もの手紙には、よく彼女の日常のこまごましたことが書かれており、私はそこから里依子の人となりを感じ、その温かさと明瞭さに強く心惹かれていた。そこにははつらつとした透明感があったが、その間合いに深刻な人生への思いを綴りそして迷うのだ。  そして私もまた同じ波長を里依子に . . . 本文を読む
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居酒屋 7

2009-06-26 | 小説 忍路(おしょろ)
 里依子はもっと気安く自分の悩みと付き合っていくべきだと私は思った。けれどもそのことをどう伝えていいかわからず、くるくると頭の中で言葉を探しては貧相な自分の人生しか見えてこないことに苛立ちを覚えるのだった。    人は生きていること自体が素晴らしいのであって、悩みはその喜びを知らしめるためにある。  どこで聞いたのかも分からない受け売りの言葉を繰り返すしかない私は馬鹿だとも思った。そんな言葉は . . . 本文を読む
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