きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

11月13日(木)のつぶやき

2014-11-14 01:20:23 | 日記

【定期】日付変わったね。今日が素敵な日になりますように。


12星座【弱点】あるある 牡牛座は予定変更に弱い、蠍座は社交性なし! uport.cocoloni.jp/content/29268 #i無料占い @imuryouranaiから


10の質問でわかる自己嫌悪度 自分のこと好き? それとも嫌い? uport.cocoloni.jp/content/29322 #i無料占い @imuryouranaiから


想像力が豊かで思い込みの激しい一面がある人が多い誕生日

1位:31日
2位:18日
3位:28日
4位:1日
5位:22日

妄想力が豊かで浮き沈みが激しい一面がある人が多い誕生日

1位:3日
2位:24日
3位:23日
4位:12日
5位:10日

銀狐さんがリツイート | RT

天然女子がモテる理由はつっこめるから。逆に完璧女性がモテない理由は、完璧すぎて近寄りがたい、つっこみどころがない。つっこむことによりスムーズなスキンシップ、コミュニケーションが可能になる。

銀狐さんがリツイート | RT

気をつけなさい。
「共感」というのは他人とともに
泥沼に落ち込むことを意味します。
ー ジョセフ・マーフィー
マーフィーの「超」能力! a.r10.to/hWFe8o

銀狐さんがリツイート | RT

下駄番を命じられたら、日本一の下駄番になってみろ。
そうしたら、誰も君を下駄番にしておかぬ。
ー 小林一三

銀狐さんがリツイート | RT

【定期】今日も元気で行ってらっしゃい。気を付けてね。


短く笑って 長く泣く それが恋の習いだ

銀狐さんがリツイート | RT

【定期】古来傾城の美女に化けるという金眼白毛の九尾の妖狐。その女狐は今齢一万歳を超えたただの古狐。人見知りの狐は薬師を生業として世界の片隅でひっそりと生きている。構ってくれたら懐きます。ほぼ100%フォロバしますが反応遅いかも知れません。


【定期】若い男性の身体の造形ってどうしてこうも美しいのだろう。溜息が漏れるくらい綺麗だと思う。(イケメン限定)という変態大人腐女子。人見知りでコミュ障ですが仲良くして下さい。タメOK。個別リプ出来ないことが多いですがほぼ100%フォロバします。


【定期】ブログ「銀狐の時空城迷宮」bloggoo.ne.jp/nonchromatic/ ほぼ挿絵つき自作ライトノベルと落描きイラストギャラリー他不定期連載中。どうぞよしなに~。m(_ _)m


【定期】ブログで自作小説不定期連載中。たまに落描きギャラリーも載せてます。妄想癖のある変態です。フォローされたらほぼ100%フォロバしますがなかなか個々のリプ出来なくて失礼しています。こんな奴でも許してくれる優しいフォロワーさんたちありがとう。


齢一万歳を超える金眼白毛の九尾の妖狐。世を忍ぶ仮の姿は薬師。異世界への旅へと誘う時空城の案内人・銀狐。中二病を拗らした妄想癖のある妖が嫌いではないと言って下さる方はどうか仲良くしてやって下さい。…という定期。


さらさらと風に揺れるストレートの少し長い前髪の間から覗く切れ長つり目。色白短身痩躯の君の華奢な前腕、綺麗な指先。あぁ、君は何て美しいのだろう。いつまでも君だけを見つめていたい…という定期。


【定期】妖狐の森から来ました銀狐といいます。動物みたいな名前ですが、一応人間です。よろしくお願いします。


だれでも簡単!Twitter自動つぶやき設定ができるサイト!AutoTweet(オートツイート)! autotweety.com 定期的につぶやくbotやURLの宣伝にも使えます! 549819892


【定期】年上年下関係なくタメでOK。人見知りですが仲良くしてくれたら懐きます。フォローされたらほぼ100%フォロバしますが個別のリプはなかなか出来ないかも知れません。夜行性なので反応遅いかも知れませんがご容赦願います。


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銀狐通信

2014-11-14 00:47:02 | 日記
時空城へようこそ。

この迷宮の案内人・銀狐です。

経過報告と告知をさせていただきます。

不定期連載ブログ小説最新作「卵(らん)―神の理(ことわり)に背きしもの」1章10560字・2章7171字完成・投稿しました。

3章は下書きがほぼ完成で入力がまだ途中ですが、近日中に完成・投稿予定です。

今回は全3章で完結します。

欲を言えばきりがありませんが、何となく「詳しめのあらすじ」の域を出ていないような気がしてもう少し掘り下げたいとか、俯瞰ではなくちゃんと回想シーンみたいな形でそこも丁寧に描きたかったとかいう思いは多々ありますが、最近は本業やプライベートの事情もありなかなか思い通りにいかないことが多いので取り敢えずは完成の方向を目指すことにしました。

テーマも構想段階のものとは微妙に変わっていたりしますが、最終的にはともあれ何とかまとまってくれたら良しとしようという感じです。

これから週末に向けてラストシーンを書き上げて見直しに入り今週末での完成を目指します。

鋭意創作活動に勤しみますので今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

よろしければまた時空城へお越し下さい。

あなたを摩訶不思議な異世界の旅へとご案内致します。

またのお越しを心よりお待ち申し上げております。
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卵(らん)―神の理(ことわり)に背きしもの―2

2014-11-14 00:31:39 | 日記

[前章までのあらすじ]流星雨の降る夜に飛来した蟲のような惑星外生物が研究所に侵入し、女性科学者カザリン・牟田(むた)博士を捕食してその体を乗っ取り、彼女に憧れる男性科学者喜多條(きたじょう)博士を誘惑して仔を産もうと計画していた。喜多條がカザリンへの想いから中身は別物としりつつケイトと名付けたその女を自宅に連れ帰り関係を持った直後ケイトは卵を産み落とした。

 早朝の研究所内に警告音(アラーム)が鳴り響く。
深夜突然原因不明の機能停止により完全に沈黙していたセキュリティシステムが深い眠りから目覚めたように自然に回復した途端、牟田博士の研究室の異常を察知しモニターが昨夜の血の惨劇の痕跡を映し出していた。
 所長始めセキュリティシステムの関係者及び各研究室の責任者の携帯端末に通知が送られ、システム関係者は原因究明のための調査に乗り出し、サイボーグの保安部員たちは失踪した牟田博士の捜索を開始した。
 通知を受け取った喜多條博士は考えた。昨夜最後まで所内に残っていたのも、システムエラーにより退勤の記録が確認できないのも牟田博士と喜多條博士の2人だけだということは調べればすぐにわかる。所謂(いわゆる)不在証明(アリバイ)というものがない以上今朝出勤して来なければ当然怪しまれることは間違いない。寧ろいつも通り何食わぬ顔で出勤し、昨夜のことは何も知らないとシラを着る方が良策だ。例え怪しまれたとしても確たる証拠がなければ、疑わしいだけでは罪に問われたり罰せられたりするはずはないのだから。喜多條はそう考えていつもと同じように出勤の支度をした。
 カザリン・牟田博士を捕食しその肉体を奪った惑星外生物をケイトと名付け自宅へ連れ帰っただけだと真実を訴えたところでそんな荒唐無稽な話を誰も信じる訳がない。幸い自宅は周囲に民家も殆どなく人目には付きにくいから、万が一誰かが訪ねて来ても絶対に居ることを悟られないように隠れていろとケイトには言い含めて早々に家を出た。

 喜多條は昨夜ケイトとの情事のあと逃避行の疲れもあって死んだように眠りこけていたのでケイトが一人でこっそり卵を産み落としていたことには全く気付かずにいた。ケイトはバスタオルにくるんでこっそりベッドサイドに隠していた卵を取り出すと中の仔は昨夜よりも少し成長して動きも激しくなっていた。ケイトは愛おしそうに卵を見つめ殻の上から仔を撫でて言った。
「出でよ。我が仔よ。時は満ちた。」
するとペリペリと音がして殻がひび割れ始めた。仔は小さな指で殻の欠片をつまんで口に入れた。人間の赤ん坊の姿をしたものが今まで自分の入っていた卵の殻を頬張ってむしゃむしゃと食べている光景は異様としか言いようがない。本物の人間の赤ん坊なら歯が生えたり固形物を食べるのはおろかまだ目さえ開いていない新生児のはずなのに。殻を全て食べ終わると仔は乳児ほどに成長していて2本の脚で立ち上がり、にっこり微笑んでケイトを呼んだ。
「かあさん…。」
仔の股間には小さな男性器が認められた。
「雄か…。」
ケイトは満足そうに笑った。ついに手に入れたのだ。待望の雄の仔を。いずれこの世を統べることになるであろう最初の新種を。

 喜多條はサイボーグの保安部員から事情聴取を受けたが、他の研究室や職員とは交流がないので何も知らない、システムの不具合にも気づかなかった、と答え、案の定その証言を覆すだけの証拠は何もなく、それ以上追及されることはなかった。勿論完全に疑いが晴れた訳ではないが、断罪するだけの決め手がない現時点では喜多條の身柄を拘束することも出来ず、推定無罪で放免するしかなかったのである。その代り常に所在の確認が取れるようプライベートでも必ずGPS機能の作動している状態で携帯端末を携行するよう義務付けた上で、もしも端末を長時間放置したり意図的に破壊するなどの違反行為があった場合には直ちに身柄を拘束するのでそのつもりで、と釘を刺した。
「わかっていますよ。…今日は体調が優れないから早めに退勤させてもらいますが、端末さえちゃんと持ち歩けば問題ないでしょう?」
喜多條はそう言って席を立った。
内心自宅に残したケイトが気掛かりで一刻も早く帰りたかった。それは彼女の存在が露見しないかという恐れなのか、彼女を抱きたいという情欲なのか、恐らくその両方ともが今の喜多條の偽らざる本心だった。喜多條は怪しまれないように普段通りの業務をこなしている振りをして適当に時間を調整し、いつもより早めに研究所を出て自宅へ向かった。

 保安部員が研究所内をくまなく捜索して回ったが、牟田博士の行方についての手掛かりは全く得られなかった。牟田博士本人の携帯端末は現場に残されたまま乾いて固まった血液が赤黒い皮膜を貼ったようにディスプレイを覆っていたから、各研究室の責任者宛の通知も届くことはなく、呼び掛けてもその端末から応答できるはずはなかった。
他の職員の証言と機能停止前のセキュリティシステムの記録から事案発生当時研究所に残っていたと思われる喜多條博士からも何の情報も得られず、DNA鑑定の結果現場の血痕は全て牟田博士本人のもののみだと判明したものの、その失血量から考えて彼女が生存している可能性は殆ど皆無に等しいと推測された。更に奇妙なことに、彼女が死亡していたとして、その亡骸(なきがら)は一体何処へ消えたのか。遺体を引きずったような痕跡は認められず、辛うじて足跡(そくせき)の一部らしいものがごく僅かながら残されてはいたが、それも形状からして博士本人のものらしく、有り得ないことではあるが、まるで死体がひとりでに動き出して何処かへ歩み去ったとしか考えられなかった。

 事案の報告と事情聴取のため、研究所の所長はカザリンの自宅を訪ねた。
インターホンのボタンを押して用件を伝えると、わかりました、どうぞ、と音声のみの応答があり、アンドロイドのメイドがドアを開けて所長を迎え入れた。玄関を入ってカザリンの居住スペースなのであろうあまり生活感のないこじんまりした部屋のソファに腰を下ろし、メイドがエスプレッソマシンで淹れて来たコーヒーを飲んでいると、奥のドアからウイルス遮蔽率の高いディスポーザブルマスクと外科手術用のニトリル手袋をつけた、若い男性としては少し小柄で華奢な青年が現れた。
 カザリン・牟田博士はシングルマザーであった。研究所の対岸の街の中でも比較的静かな住宅街にある自宅で一人息子の望(のぞみ)と暮らしていた。
とは言ってもカザリンは一日の大半を研究所で過ごし、休日も経過観察のため研究所に出かけることが多くて望は殆ど一人暮らしのようなものだったが、生まれる前から既に優秀な研究者だったカザリンを母として育って来た彼にとってはこんな生活が普通で何の違和感も感じなかったし、特異体質と先天性の難病を持って生まれて来た望は学校にも通わずにずっと自宅から出ることなく暮らして来たので、一般的な家庭の生活など知る由もなかった。


一瞬女性かと見間違えるほどに中性的な銀髪で色白の青年は、暗紅色の瞳を隠したがっているかのように前髪を長く垂らしていて、顔はよく見えなかったが、それでも母親にそっくりなのは一目見ればわかる。カザリンが学生の頃からの付き合いで彼女をよく知っている所長も息子の望と会うのは今日が初めてだった。
「牟田博士のご子息、望君ですね。」
「はい。こんな姿で失礼ですが、特異体質と先天性疾患があるので、出来る限り細菌やウイルスの感染を避けるようにと母からきつく言われていますので…。」
「そのお母さんのことなんだが…。」
所長は少し躊躇(ためら)い、望の様子を窺ったが、長い前髪とマスクに隠れた望の表情は判然としなかった。彼にとってはたった一人の肉親である母がもうこの世には居ないかも知れないという残酷な現実をどうやって彼に知らしめようかと迷ったが、ここまで来て告げない訳にはいかないと腹を括(くく)った。
「昨夜研究所でセキュリティシステムが原因不明の機能停止をしている間に牟田博士が失踪されて、現在も行方が分からない。研究室内で何事か不測の事態が起こったようなのだが、現場に残った大量の血液が牟田博士のDNAデータと一致したことから考えて、彼女が生存している可能性は極めて低いと言わざるを得ない…。」
「そうですか。」
所長はあまりの反応の薄さに驚いて望を見た。あまりにも淡々とした彼の言葉に我が耳を疑った。
自分が彼の答えを聞き違えたのか、それとも彼が自分の話を聞き違えたのか。どちらにしろ彼に自分の話が正確に伝わったのならば有り得べからざる反応だとしか思えなかった。
「牟田博士、つまりお母さんは…。」
「亡くなったんですね。」
勘違いでも気のせいでもない。望みはきちんと自分の話を理解していたのだ。
そうだとすれば尚更あの反応は有り得ない、と所長は想定外の望の反応に混乱ししどろもどろになった。
「その…何と言っていいか…。」
いくらいつも多忙な母との接点が少なかったとはいえ、たった一人の母親を失ったことを知ったにしてはあまりに冷静過ぎる望の態度に所長は二の句が継げなかった。
「すみません。おかしいですよね。普通母が亡くなったと聞けば、息子ならもっと驚いたり悲しんだりするのでしょうね。しかし僕は生まれつきこのような体なので、身の回りの世話はメイドアンドロイドのナニーがしてくれましたし、殆ど他人と接することが無くて僕には親子の情というものがよくわからないのです。冷たい息子と思われるかもしれませんが、決して母を憎んだり恨んだりしていた訳ではなくて、僕は僕なりに母を愛していましたし、母も母なりに僕を大切にしてくれたと思っています。
ただ、母は母である前に研究者だったのだと、僕にはわかっていますから。」
所長は望の言葉にどう答えていいかわからなかった。
カザリンもまた高名な科学者であった父・牟田博士との親子関係が希薄であったことは知っていた。親に愛されたという自信のない子供が親になり、我が子の愛し方がわからなかったのだろうと少し同情した。

 カザリンの父は学生時代から飛び抜けて優秀で、大学院卒業後助手として所属していた大学の研究室の主任教授で学内最大派閥の長老の娘と結婚した。
余り裕福ではない家庭出身の苦学生であった牟田は、非凡な才能を持ちながらも、自分が主となってコツコツと業績を積み上げて来ても、共同研究者として名前だけでも論文に乗ればまだしも、ただの助手に過ぎないからと上の者においしいところだけ持って行かれて成果を横取りされ悔しい思いばかりして来て、思う存分自分がやりたい研究をするためには何としても教授に上りつめて金や地位を手に入れなければならないと思っていたし、妻は若き天才と評判のこの男と結婚すれば自分の虚栄心を満足させられるであろうと思い結婚を承諾したのだった。
 子供を産めば体型が崩れるから子供は欲しくないと言う妻を説得して何とか採取した妻の卵子と牟田自身の精子との人工授精による我が子を自らが研究中の人工子宮で育てたのも全ては研究のためであり、牟田の家庭には夫婦間にも親子間にも愛情というものは存在しなかった。
 我が子という研究材料を得て集められたデータから牟田の人工子宮の研究は成功し、今まで人工授精で子供は作れても、子宮がないために自らの胎内でその子供を育(はぐく)むことの出来なかった女性にとっては、何かと問題の多い代理母を依頼することもなく、人工子宮を利用することが可能になるという多大な恩恵をもたらしたが、カザリンの母は自分の腹を痛めて生んだ訳ではない娘のカザリンに対しては興味も関心も持っていなかった。
 カザリンは飛び級を重ね若くして大学を卒業したが、大学院へ進学した直後父に乞われて休学し、助手として父の研究に協力することになった。
当時の父は折角教授の地位を得ても大学という組織の中では本当に自分のやりたい研究が出来ないと思い始めており、妻と離婚して職を辞し私的研究室(ラボ)を作って秘密裏にとある研究を進めていて、それをカザリンに手伝って欲しいと望んでいたのだった。
カザリンは高名な科学者である父を尊敬していたし、娘としてではなく研究者としての自分を高く評価されて父に招聘されたのだと思い、それが嬉しかったのだろう。
 カザリンの心の何処かに、今まで娘よりも研究を優先し愛してはくれなかった父に対して、それでもなお恋しい気持ちがあって何としても父の期待に沿いたいと願ったのか、それとも、父と同じようにただ一研究者として父の研究内容に対する興味がありその研究に身を投じたいと考えたのか、カザリン自身にもよくわかっていなかったのかも知れないが、カザリンはその研究に携わる道を選択した。
 暫くして父・牟田博士が病死し、ラボの後始末を済ませたカザリンが復学した時は既に彼女はシングルマザーになっていた。
カザリンの復学を快く思わない者たちの中には、父の秘密研究の助手などという話は表向きで実は誰かと公に出来ない不適切な関係を持って身籠り、私生児を産むための口実だったのではないかなどと噂する者も居たが、カザリンはそんな心無い陰口さえも一向に意に介すことなく、大学院を卒業して現職に就いた。所長はカザリンとは旧知の仲で、噂の真偽はともかく、彼女の研究者としての腕は認めていたので彼女を採用することに決めたのだった。

 「そうだね。彼女は優秀な研究者だった。まだ死亡の事実が確定した訳ではないが、もし本当に彼女が亡くなったとしたらとても残念だ。とても信じられないし、信じたくもないが。」
「ありがとうございます。そう言っていただければ母も喜びます。祖父と同じように、いえ、祖父以上の研究者になることが母の夢だったのでしょうから。」
その後所長は、もしも彼女が生きていたらと仮定して何か手掛かりになるようなことや思い当たることはないか、と望に訊ね、恐らくそんなことはないだろうが、万が一連絡があったら知らせてくれ、と言って席を立った。
望は昨夜見た奇妙な夢のことは誰にも言うまいと決めていたので、特に何もありません、と答えた。

 あの夢が真実なら―恐らくそれは間違いなく真実だと確信してはいたが―いよいよ来るべき時が来たのだ、と望は思った。
僕はそのためだけに生まれ、今まで生かされて来たのだから。
僕自身のためにも、この世界や人類のためにも、出来れば永遠にそんな日が来ない方がいいと思っていたけれど、もしもその時が来てしまったら、僕は僕のなすべきことをして自分に課せられた使命を果たす、そのためだけに。
それこそが僕の生存意義(レゾンデートル)だ、と。

 奪われた肉体の細胞の中に留(とど)まったカザリンの残留思念が、我が身に昨夜起きたことの一部始終を知らしめようと望の細胞と共鳴し、母の記憶と感覚とを共有した望は、母がその肉体を捕食され蟲のような姿をした惑星外生物に同化されたことも、それと同時に母の自我が完全に消失したことも、あたかも自分自身の実体験のように現実的に感じられたが、既に母のものではなくなったその肉体の感覚や思考までが否応なしに望に伝えられたためにケイトが喜多條に抱かれている時にはまるで望自身の体が弄(もてあそ)ばれているようで、背筋にぞくっと悪寒が走ったし、ケイトが自ら産み落とした仔と共に抱く野望も全て知ることとなった。
 しかしそれを所長や他の誰かに告げたとしても母の死によるショックで望の頭がおかしくなったとしか思われないだろうし、祖父と母の秘密を守り独りで全てを背負うことが望の宿命(さだめ)だと既に覚悟を決めていたので、ケイトが次の仔を産む前に、そして生まれてしまった最初の仔が成長してまた仔を作る前に、母のためにも母と同化したケイトとその仔を完全に葬り去らなければならないと決意した。

 そしてケイトも又自分の感覚や思考を覗き見ているような望の存在には気づいていた。
(…あのカザリンという雌の子か…。妾(わらわ)を母の仇と知り、妾の仔までも討とうという魂胆であろうが、妾とて汝(うぬ)が如き若造一人に易々(やすやす)と討たれはせぬ。汝と妾とがそれぞれの護らねばならぬ世界の命運を賭けて闘わねばならぬ宿命ならば、汝の母への思いと妾の仔への思い、どちらがより勝っているのか試してみようではないか。…面白い。来るがよい。ヒトの子よ。返り討ちにしてくれる。汝一人の力なぞ所詮は蟷螂(とうろう)の斧と思い知らせてやろう。)
ケイトは不敵な笑みを浮かべた。そしてその横で既に幼児ほどに成長した仔が母そっくりの表情で嗤(わら)っていた。
ゆるくウェーブのかかった紫色の髪と母親と同じギラギラと異様に光る黄金(きん)色の瞳の雄の仔が。

(つづく)
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卵(らん)―神の理(ことわり)に背きしもの―1

2014-11-14 00:20:23 | 日記

[この物語はフィクションであり特定の個人・団体及び地域・時代とは一切関係なく、現実の制度・法律及び医学的・科学的事象とは異なります。]

 『我等流浪の民の始祖なる女神は言われた。
「何時(いつ)如何なる時も万難を排して只管(ひたすら)生き延びよ。
種(しゅ)の存続の危機あらば躊躇(ためら)うことなく故郷(ふるさと)を捨て去りて遥かなる宇宙(そら)へと旅立て。
新天地に胤(たね)を蒔(ま)いてその地に根付き、産めよ、増やせよ、地に満ちよ。
その地こそ我等が新しき故郷となる。」』(失われし惑星ヴェスパの聖典)


 流星雨が夜空を彩り恋人達が華やかな天体ショーを眺めながら甘い言葉を囁き合う夜。
流れる星に紛れ宇宙からの招かれざる客が密かにこの惑星(ほし)に到着したことに気づく者は居ない。
それは宇宙という大海(うみ)を漂流してこの惑星に辿り着いた小舟。
この惑星が無人島のような場所ではなく生命に満ち溢れた豊かな地であることを知っていたのだろうか。
何処(どこ)から来たのか、どのくらい長く宇宙を彷徨(さまよ)い続けたのか。
冷凍睡眠(コールド・スリープ)カプセルの中には唯一の乗組員が眠っている。
自動操縦の宇宙船はどう見てもただの隕石にしか見えない。
何処の惑星に漂着しどんな知的生物と遭遇したとしても滅多なことでは見破られることはない完璧な「擬態」だった。
カプセルが開き宇宙から飛来した惑星外生命体は終(つい)にこの惑星に降り立ち、黒い影は夜の闇に紛れて何処かへと姿を消した。

 賑やかな都会の一角にありながら1本の橋だけで繋がる大河(かわ)の中州の小さな孤島(しま)。
万が一の事故や災害に備えると共に近隣住民への配慮からまるで世間から隔離されたようにその研究所は存在していた。研究所の職員は早朝や深夜に及ぶ実験等がある時には、街では交通機関の運行していない時間帯でも24時間自家用車で自由に橋を往来することが可能で、騒音を気にする必要もなかった。
通勤と日常生活の利便性から対岸の街の比較的橋に近い場所に住居を求める者が多い中で、橋から道なりに直進すれば自然に到達する街の中ではなく、敢えて橋を降りてすぐに左折する脇の細い側道の奥へと進み、他人(ひと)との関わり合いを避けるように、人家も疎(まば)らな街外れを選んで住む者も居た。と言ってもそんな酔狂な者はたった一人に過ぎなかったが。
 その変わり者の科学者の名は喜多條(きたじょう)。
まるでカートゥーンに登場するマッドサイエンティストそのもののような中年男である。
伸ばしっぱなしの黒い蓬髪(ほうはつ)は櫛を当てたこともないのかうねってもつれあい、前世紀の遺物のような黒色の太いセルフレームに分厚い硝子レンズが嵌め込まれた強度近視眼鏡をかけ、死んだ魚のようにどんよりと濁った目の下には青黒い隈、肌は土色で、無精髭の生えた頬はこけている。
背は低く筋肉の乏しいひょろりと痩せた体はまるで白衣を羽織らせた木乃伊(みいら)のようだった。
これまでいろいろな研究に手を出しては見たが、どれもたいした業績を上げないうちに、似たような研究をしていた他の誰かが成果を上げたと聞くとすぐに放り出しては別の研究を始めてしまうのでいつまでたってもものにならない。
それでも当の喜多條本人は自分のことを天才だと固く信じて疑わず、今は周囲から正当に評価されていないが、そのうちに皆を見返すような画期的な大発見でもしてやる、と本気で考えていた。
(…そうしたらきっと君だって俺を見直すだろう。もう害虫でも見るような嫌な顔をして俺を冷たい目で見ることもないはずだ。
尊敬のまなざしでうっとりと俺を見つめ、俺の才能に惚れ込む。科学者としての俺への尊敬はいつしか男としての俺への愛情に変わる。
きっとそうなるに違いない。いつかそんな日が来るまで俺は決して諦めないからな。ああ…カザリン。美しい。何としても君を手に入れたい。)
喜多條は携帯端末のディスプレイを見つめながら心の中でそう呟いていた。
 その視線の先には盗撮と思(おぼ)しき白衣姿の女性の画像が映し出されている。
喜多條の指先が拡大した画像の胸のネームプレートの文字は辛うじて「カザリン・牟田(むた)博士」と読める。
栗色のミディアムストレートの髪に灰緑色の瞳、ブルーライトカットグラスをかけた美しい横顔のその女性はこの研究所で勤務している科学者である。
広い意味では喜多條と同僚と言えなくもないが、実際にはこの研究所内にはいくつもの研究室があり、それぞれが独立した研究を行っているので、別の研究室に所属する職員との接点は殆どないに等しい。食事や休憩の時に全ての職員が利用出来る共同のスペースはあるが、それぞれが独自のスケジュールに従って作業をしているので、24時間365日開放されている共同スペースであっても、うまい具合にタイミングよく同時にその場に居合わせるという偶然は滅多には起こらない。普段から交流のある親しい間柄ならいざ知らず、喜多條は一匹狼であり、他の職員も誰一人として彼に対して好印象を持つ者は居なかったから、仮に共同スペースで誰かと出会ったとしても、会釈でもされればまだしも、相手にまるでそこには何ものも存在しないかのように完全に無視されるのが普通だった。
 勿論最初からそうだった訳ではない。かつては皆も喜多條に挨拶したり話し掛けたりしたこともあったが、少しでも構うと旧来の友の如く馴れ馴れしくなり、聞きたくもない喜多條のつまらぬ自慢話や独断と偏見に満ちた不満を延々と語られて面倒なので、今では野獣同様の扱いで喜多條とは目を合わすまいと誰もが避けるようになってしまったのである。喜多條の方もそんな気配を察知してか、別にこんな奴等と群れなくても結構、と気にも留めなかったが、カザリンにだけは無視されても冷たくあしらわれてもめげることなく執着し続けていて、こうして毎夜一人で盗撮した彼女の画像を眺めては、いつか彼女に認められて好意を持ってもらえるようになるという妄想に酔いしれていた。

 一人暮らしの喜多條は自宅へ戻っても同じだからとさしたる用もないのに深夜まで研究室に残っていることが多かったが、その夜もまたいつもと同じように研究室で一人妄想にふけっていたので気づきもしなかった。
何処から入り込んだのか珍しい一匹の蟲(むし)。蜂のようにも蜘蛛のようにも見えて、頭の部分には闇の中でもギラギラと光る黄金(きん)色の4つの眼と4本の牙が突き出た大きな顎があり、8本の黒い肢(あし)が生えた胴体部分には毒々しい赤色と紫色の禍々(まがまが)しい斑(まだら)模様がある。何とはなしに不吉な感じのする蟲がまるでじっと喜多條の様子を窺(うかが)っているかのように暫(しばら)く彼からは死角の位置に停まっていた。
誰かに見られているような気がして喜多條が振り返った時にはもう蟲は何処かへ行ってしまったようで、喜多條は目に見えない誰かに自分の心の中を覗(のぞ)き見られたような不気味な悪寒に身震いしたあと、気のせいか、と一人ごちた。

 その夜研究所に深夜まで残っていたのは喜多條一人ではなかったが、一人去り、二人去り、殆どの職員は研究所を後にして帰路につき、偶然にも喜多條とカザリンの二人だけがそれぞれの研究室に居た。

 365日24時間常に全職員が各自の研究に専念できるように研究所は最新のセキュリティシステムによって管理されていた。
飲食物の提供や衣類等のクリーニング、施設内の掃除等もロボットやアンドロイド、クローンを利用したサイボーグ等それぞれの職能に特化した人間以外のサービススタッフにより行われていたが、施設内のあらゆる場所にはセンサーやカメラ等AIによる監視が行き届いており何等かの問題が発生した時には人間よりも遥かに高い戦闘能力と防御能力を兼ね備えたサイボーグの保安要員が現場に急行するようにプログラムされていた。
 あらゆる事案を想定し、如何なる場合にも十二分に対応可能なように設計され、万が一システムに不具合が発生したとしても、即座に幾重にも準備されたバックアップが起動するように設定されていて、誰もが完璧だと確信していたセキュリティシステムが、その夜に限って全く機能しなかったのは全く想定外のことが起こってしまったからだったに違いない。後に検証を行った時もどこにも全く異常はなく、何故その夜突然機能停止し翌朝になって何事もなかったかのように自然に回復したのか幾ら詳しく調べても全くわからなかったから、そう結論付ける以外になかった。
実際、非科学的な言い方ではあるが、大昔の童話のように魔女の呪いで時間(とき)を止められてシステム全体が眠らされていたのではないかとさえ思いたくなる。
 センサーやカメラ等の機器が正常に作動している間は常時点灯しているはずのランプが全て消え、機器の故障等があればエラーを表示するはずのランプは全く点灯せず、鳴り響くはずのアラームも沈黙したまま、まさにセキュリティシステム全体が突如として深い眠りに落ちたかのようだった。
それでもセキュリティシステム以外は全て正常に機能していたし、仮に停電が起きたとしてもこの研究所は常にバックアップとして即座に自家発電による非常電源に切り替わるようになっていたし、そもそも停電が起きたという事実もなかった。
まさかそんな異常事態が起きているなどとは喜多條もカザリンも気づくはずもなかったのである。

 セキュリティシステムが完全に沈黙した研究室でデスクトップのディスプレイを見つめ入力されたデータの数値を目で追っていたカザリンの背後にどこからか入り込んで来た件(くだん)の蟲がそっと忍び寄って来ていた。夥(おびただ)しい数字の列に集中しているカザリンの傍らで小さな蟲が音もなくむくむくと巨大化し、体長2mほどの大きさになった時初めてディスプレイに映り込む影でカザリンはその侵入者の存在に気づき、驚いて振り向いた刹那、人間のように2本の肢で立ち上がり胸と腹に相当するであろう胴体から伸びた4本の肢が素早くカザリンの両手足を捕らえ、肩の位置から出る2本の肢が左右からカザリンの頭部を挟み込むようにしてがっしりと押さえて蟲の目線の高さまで持ち上げた。
どういう訳かカザリンは声を立てはしなかったが、仮にあらん限りの声を振り絞って叫んだとしても防音壁に囲まれた研究室の外にその悲鳴が届くことはなかったし、体の自由を奪われて緊急通報ボタンを押すことはできなかったが、例えそれが出来たとしても全てのセキュリティシステムがダウンしている今その通報に応答があるはずもなかった。

 蟲がカザリンの首筋に噛み付くと麻酔にかかったように体が痺れて感覚が失われて行った。
恐らく即効性の毒なのだろうが、不思議と目がかすむことも意識が遠のくこともなく、触覚と痛覚が完全に失われただけで、逆に視覚・聴覚・臭覚は研ぎ澄まされたように鋭敏になったために、蟲のグロテスクな姿の細部に至るまで鮮明に目に飛び込んで来たし、幽かな呼吸音のような音さえもはっきりと聞き取れたし、何とも言えない生臭い蟲の体臭が鼻をついて吐き気を催しそうだった。
蟲は頑丈な顎でカザリンの右腕を喰いちぎり、大量の血液が飛び散ってディスプレイもキーボードも血まみれになったが、カザリンは自分の腕が喰いちぎられるのを目の当たりにしても全く感覚がないため現実のような気がしなかった。
蟲が右腕を咀嚼し嚥下すると失われたカザリンの右腕を捕らえていた蟲の肢は退化して胴体に吸い込まれ、同時にカザリンの頭部を押さえつけている右の肢が人間の女の右腕に変化した。同じように蟲が左腕を喰らえばそれを捕らえていた蟲の肢がなくなって頭部を押さえつけている左の肢が左腕に変化し、カザリンの両脚を喰らえばそれを捕らえていた2本の肢がなくなって床に立って体を支えていた2本の肢は人間の女の脚に変わった。

 (…妾(わらわ)がこの惑星の高等生物の雌と同化するために、汝(うぬ)の体を申し受ける。汝は知能水準も高く、雄が欲情する資質を備えていると判断した。これより汝の躯幹(からだ)を喰らえば、全ての内臓が、頭(かしら)を喰らえばその貌(かお)も脳も全てが妾と一体化する。汝は妾となり妾は汝となり、妾は汝の肉体(からだ)を得てこの惑星の新しき世の母となる…。)
蟲はカザリンの脳に直接話し掛けて来た。カザリンは口角を歪め皮肉な微笑のようにも見える表情を浮かべた。
(私の身体(からだ)が欲しいのなら奪うがいいわ。身体なんて所詮ただの器よ。)
蟲はカザリンの思考を読み取ると大きく顎を開いてカザリンの腹に喰らいつき腰から下をもぎ取って下半身が人間の女になった。次に頭部だけを残して首から胸を喰らうとあたかも全裸の女性が蟲のマスクを被って仮装したかのような不気味で滑稽な姿になった。
普通の人間ならいかに触覚や痛覚を失っているとはいえはっきりとした意識が残っているのに自分の体が徐々に喰われていくさまを見るなど到底耐えられるはずはない。片腕を失った時点で既に正気を失ってもおかしくないところだがカザリンは全く動じることがなかった。
いよいよ頭を喰われる瞬間カザリンの魂が自ら死を選んだかのように彼女の自我は完全に消失し、誇り高く安らかな笑みを湛(たた)えてそっと瞼を閉じた。
「体は奪われても心も魂も決して譲らない。」
カザリンの表情はそう言っているように見えた。
完全に人間の女性の姿に変化した後の蟲の足元には引き裂かれたカザリンの白衣や割れたブルーライトカットグラスなどが散乱し壁には夥しい血飛沫(ちしぶき)のしみが残され、床一面が血の海と化していた。
栗色のミディアムストレートの髪はゆるくウェーブのかかった血のように赤い色の髪に、灰緑色の瞳は闇の中でもギラギラと輝く黄金色の瞳に変わった以外はまさにカザリンそのものの姿になった蟲は満足そうに笑いながらゆっくりとカザリンの研究室から歩み去った。

 いつの間にかデスクに突っ伏して転寝(うたたね)していた喜多條は自分の研究室のドアが開いた音で目を覚ました。
安全上研究所の職員であっても各研究室の入室前には各個人の生体認証によるセキュリティチェックを受けた上でその研究室の責任者の携帯端末に送られる入室許可申請に了承を得なければ無断では入室できないようにプログラムされているはずだが、それもなしにドアが開くのはセキュリティシステムが今は作動していないということだ。そんなことは考えられないし、仮にそうだとしてもこの深夜に研究所に残っている人間は殆ど居ない上に、居たところで喜多條の研究室に用のある者など居るはずはない。
 顔を上げた喜多條の視線が捉えたのは全裸の女性のシルエット。最初は陰になっていてよくわからなかったが、光の当たる場所まで歩み寄ったその女の顔を見て喜多條は心臓が止まるかと思うほど驚いた。
「カザ…牟田博士?…いや、違う…。」
喜多條は混乱した。
(俺はまだ夢を見ているのか?)
喜多條は掌で自らの頬を思い切り叩いてみた。
(夢じゃない!?)
女は妖艶な笑みを湛えて喜多條の目の前まで来ると、カザリンの声色で話し掛けて来た。
「どうしたの?喜多條博士。あなたは私のことが好きなのでしょう?隠したってわかっているのよ。だったら私のお願いを聞いて下さらないかしら。私は子供が欲しいの。あなたと私の子供を作りましょう。…ねえ、いいでしょう?」
「違う!…彼女がそんなことを言うはずはない。…貴様は誰だ?何故彼女とそっくりの姿をしている!」
喜多條はぶるぶると首を振りよろよろと後退(あとずさ)りをしながら震え声で言った。
何が何だか訳がわからないが、万全なはずのセキュリティシステムが完全に沈黙し、惚れた女そっくりの姿をした得体の知れない何物かが自分を誘惑しようとしているということだけは確かだった。
女は薄笑いを浮かべて答えた。
「それは誤りではないが正しくもない。妾はあの雌と同化したのだ。汝がカザリン・牟田博士と呼んでいたあの雌の肉体を喰らい、妾はあの雌と一つに融合した。『彼女そっくり』なのではない。妾は彼女、彼女は妾。妾は『彼女そのもの』なのだ。あの雌は自らの魂を滅し肉体を放棄した。よってこの肉体はもう妾だけのもの。ならば妾と契り、仔を生そうではないか。汝が喉から手が出るほど欲していたあの雌の肉体は今汝の目の前に、手を伸ばせばすぐに届くところにある。妾はこの惑星の雄と交尾して仔を産むためにあの雌と同化したのだ。そうすれば妾の望みも汝の望みも同時に叶えられる。お互いにとって損のない話だとは思わぬか?」
喜多條は改めて目の前の女の裸体をまじまじと見た。
細い首、華奢な肩、綺麗なデコルテの下の二つの丸いふくらみ、くびれた腰、すらりと長い手足。
他人に触れられるのを拒むかのようにぴんと固く張りつめた若い娘の肌とは違い、触れれば掌に吸い付くようなしっとりとして滑らかな肌と熟れた果実のような柔らかい肉感。中味は別物とはいえそれは紛れもなくカザリンの体だと思えた。
白衣に包まれたその体を舐めるように見つめ続け、触れたい、抱きたいと願い続けてきた体だった。
どうせ今まではいくら憧れてもカザリンが振り向いてくれることはなかったし、彼女の魂が消えた今となってはもう二度と本物の彼女には会えないし、永遠に彼女の心に想いが届くこともないけれど、せめて魂の抜け殻のこの体だけでも得られるならそれでいい。もしもこの女の誘いを拒めば、他の男にカザリンの体を取られてしまうだろう。それだけは何としても許せなかった。
喜多條は今すぐその裸体にむしゃぶりつきたい衝動を辛うじて抑えた。
今はセキュリティシステムがダウンしているがいつ機能を回復するかわからない。
カメラに裸の彼女と一緒に居る画像でも残っていたらあらぬ疑いをかけられるのは目に見えているし、この女が侵入しカザリンを捕食して彼女の体を奪って俺を誘惑したのだなどと言っても誰も信じないだろう。
「わかった。とにかくここに居てはまずい。俺の家に行こう。まずはこれを着ろ。」
喜多條は白衣を脱いで女の肩に羽織らせ、サンダルを脱いで女に履かせた。男としては小柄で痩せた喜多條の服や靴のサイズは女性としては少し背が高いカザリンの体になら大きすぎることはないはずだ。喜多條は通勤用のジャケットと革靴と鞄をロッカーから出して来て自家用車のキーをポケットに入れると左手で女の右の手首を掴んで言った。
「一刻も早く研究所を出なければ!」
喜多條は研究所の職員用駐車場に行き、自分の車の助手席に女を座らせて車を発進させた。
車が橋を渡り左折して側道に入ると喜多條は少しだけ安心した。
「お前、名前はあるのか。」
喜多條が正面を向いたまま女に訊ねた。
「妾には名などない。生まれてすぐに冷凍睡眠カプセルに入れられ、カプセルの中で脳に直接流れ込む教育プログラムを聞かされながら自動操縦の船で宇宙を彷徨ってきた。我が種族と失われし惑星ヴェスパの歴史や次の女王となるために必要な知識を習得し、妾の使命を果たすためにこの惑星に来た。」
女は幼女が自らのことを問われたように真顔で教育プログラムに刷り込まれたままの口上を答えた。
「名前がないと不便だな。…ケイト…カザリンがごく親しい者にだけ呼ばれていた愛称だ。今からお前の名はケイト。それでいいか。」
「ケイト。よかろう。名など単なる個体識別のための符号に過ぎん。汝の好きなように呼ぶがいい。その名を妾のこの惑星での呼称としよう。」
喜多條は張りつめていた緊張が解けたのか急に笑いだした。
「何か可笑(おか)しいか?」
「もう少し女らしい喋り方をした方がいい。彼女に化けて俺に近づいた時のようにな。」
喜多條は真顔で答えた。
女はふっと笑った。
「なるほど。雌らしくないとこの惑星の雄は欲情しないということなのね。あなたの思考や感情は読み取れるから嘘や隠し事をしても無駄だし、回りくどい建前も必要ないわ。口に出さなくてもあなたの本音は筒抜けだと思っておくのね。」
ケイトはカザリンの声と口調でそう言った。
喜多條はあやうく今助手席に座っているのがケイトではなくカザリンなのではないかと錯覚しそうになった。
しかし本物のカザリンなら「雌」だの「雄」だのという単語は選ぶまい。残念ながらこの女・ケイトはやはりカザリンではないのだと今更ながらに思い知らされた。

 喜多條の自宅は街外れにぽつんと一軒だけ建っていて、近隣の家ともかなり離れていた。まるで世間に背を向けた隠れ家のように。
喜多條はケイトを浴室に連れて行き返り血を浴びた体を丁寧に洗ってやった。
きめ細かな肌はぴちぴちと水滴を跳ね返し、入浴後の肌の上を転がるように水滴が流れた。
髪から落ちた雫は肩から胸の谷間を滑り落ちて行った。
「欲しい?」
ケイトが目を細めて喜多條の表情を窺いながら訊いた。
「私が欲しいのでしょう?」
喜多條は言葉が出なかった。どうせ心の中は読まれているから何も言わなくてもケイトにはわかっているはずだ。
ケイトは喜多條の体が既に反応していることもわかっていると言いたげに視線を喜多條の下半身に向けた。
「子供を作りましょう?」
ケイトは裸のまま両腕を喜多條の首に巻きつけ胸の谷間に喜多條の顔を押し付けた。
「私とあなたの子供が欲しいの。」
喜多條にはケイトが惑星外生物であることなどもうどうでもよかった。
「ケイト…。」
それはケイトと名付けたこの女を呼んでいるのか、カザリンの愛称を呼んでいるのか喜多條自身にもわからなかった。
「おいで。ベッドルームへ行こう。」
喜多條はケイトの手を引いてベッドへと誘った。
ケイトをベッドに仰臥させて喜多條も全裸になった。
ケイトは妖艶な笑みを湛えて喜多條を見上げて艶めかしい声で囁いた。
「来て。あなたは私が欲しかったのでしょう?私もあなたが欲しいわ。さあ。」
喜多條はわあっと叫んでケイトの上に覆いかぶさった。
柔らかなケイトの唇にかさかさに乾いた自らの唇を押し当てると、ケイトの尖った長い舌が喜多條の舌に絡みついて来た。
2つの丸い膨らみの先端は硬く隆起している。
手を伸ばして下腹部を探るとケイトは大きく開脚して湿潤した粘膜が顕(あらわ)になった。
もう理性は働かない。ただ本能のままにケイトの体を貪(むさぼ)った。
喜多條が果てたあと疲れきってぐうぐう鼾(いびき)をかいて眠ってしまった喜多條の寝顔を見ながら勝ち誇ったような笑顔を浮かべて呟いた。
「妾が孕(はら)んだのが雄の仔ならばこの喜多條という雄も用済み。餌にして喰ろうてしまおう。
その仔が生まれれば我等ヴェスパの民とヒトとの間にこの惑星の新しい種が誕生する。
雄の仔とこの惑星の雌どもとを交尾させてたくさん仔を産ませる。
不用の者は皆我等の餌にすればよい。
仔の遺伝子が皆同一では環境変化や感染症等に見舞われて全滅するやも知れず甚(はなは)だ心許(こころもと)ない。
妾は他の遺伝子を求めて別の雄を探して交尾し、その仔がまた雌と交尾して仔を産み、この惑星に我等の仔たちが根付く。
この惑星の新しき世の母・最初の女王となる妾の使命がもうすぐ果たされるのだ。」

 ケイトの腹が見る見るうちに膨らみすぐに臨月の妊婦の腹ほどの大きさになった。
ケイトはベッドを降りて何かを探すように辺りを見回しながら家の中をうろついていたが、ふとリビングルームの何かに目を留めてニヤリと笑った。
ケイトの視線の先には分厚い本が山積みにされたソファー。本の重みで座面と脚の下の絨緞が凹んでいる。恐らくは簡単には動かせないほどの重量になっているのだろう。
肘掛けのついた側面の下に覗いているソファーの脚の幅はケイトの肩幅よりも少し広いくらい。ケイトはその脚の間から半ばソファーの下に潜り込むように仰臥して両膝を立てた状態で開脚した。両肘を曲げて頭の斜め後方にあるソファーの脚をぐっと握ると少し背を反るようにして思い切りいきんだ。苦痛に顔を歪め、額に脂汗を滲ませながら歯を食いしばり何度かいきむうちケイトの両脚の間から赤黒い丸いものが覗き始めた。
呻(うめ)き声を上げ終にケイトが産み落としたもの。血と粘膜にまみれたそれは長径が30cmほどの楕円形で、表面に張り付いたぬめぬめとした膜がところどころ破れかけていて、毒々しい赤色と紫色の禍々しい斑模様のついた卵。擦り硝子のような半透明の殻の中にぼんやりと映る仔の影は人間の胎児のように体を丸めたままもぞもぞと体を動かしているように見える。
荒い息をしながらケイトは薄く目を開けて自らの胎内から床の絨緞の上に産み落とした卵を見つめ満足気に微笑んでいた。
「宿命(さだめ)の仔よ。母と共に我等の新しき世、新しき故郷を作り上げようぞ。」

(つづく)
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