ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

ナノテクノロジーとバイオセンサー

2012-03-14 | 報道/ニュース

バイオセンサーとは生体分子を認識するセンサーである。ナノテクノロジーがこの分野でも威力を発揮しそうだ。

以前からプラズモニックス(3/9参照)がバイオセンサーに利用されていたが、最近テキサス大学の研究グループが、たんぱく質の種類、構造、結合状態を高い精度で検出可能なセンサーを開発した。このセンサーは、石英の上に数本の長方形の金を付着させたものである。この人工材料の赤外線反射係数の波長依存性を測定することによって付着したたんぱく質についての知見が得られるという。この方法は物理量の変化から直接タンパク質の種類を検出しようとするもので、現在のところ多数の分子が付着しないと検出出来ない。しかしながら、検出感度がきわめて高く1分子を検出出来る可能性もあるという。

http://www.nature.com/nmat/journal/v6/n4/full/nmat1874.html

コーネル大学の研究グループは、シリコンのフォートニック結晶(11/18,19参照)をバイオセンサーに用いている。石英板上に垂直にシリコンナノワイヤーを周期的に配列し、各ナノワイヤーに単鎖DNAを付着させたものをセンサーとして用いる。DNAに生体分子が付着するとナノワイヤーの質量が変化し、これが振動の共鳴周波数を変える。これによって光の吸収係数の波長依存性が変化する。比較的感度が高いので病気の早期発見に利用出来そうだという。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=23693.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TuLjQUF9oFg.google

電極を酵素でコートし、酵素と生体分子との反応によって生じる電子を検出するバイオセンサーがある。パーデュー大学の研究グループは、電極にカーボンナノチューブとDNAを用いることによって、センサーの性能が上がること見つけた。カーボンナノチューブは水となじみにくいが、DNAを付着させることによって改善されるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=23396.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TsM-iASh9Iw.google


再生可能エネルギーとナノテクノロジー

2012-03-13 | 報道/ニュース

下図はエネルギー資源量を示す。ウランを含む化石燃料については全埋蔵量を、再生可能エネルギーについては年間使用可能量を示す。核エネルギー源については、核燃料サイクル(8/16参照)を考慮していない値であるが、有効な核燃料サイクルが成功するとさらに資源量としては増加することになる。いずれにしても、再生可能エネルギーに比べて化石燃料は、人類の長い将来を考えると乏しい。図に示す太陽光エネルギーは陸地に降下するもののみである。再生エネルギーの有効利用が必要となるが、日本はきわめて遅れをとっている。

                            

再生可能エネルギーの有効利用にナノテクノロジーが貢献出来る可能性が高い。太陽光発電についてはすでに何回か説明した(2/20,21参照)。またエネルギーの貯蔵にもナノテクノロジーが威力を発揮するかもしれない(11/25参照)。

以前、太陽光で水を分解して水素燃料を製造することを述べた(10/18参照)。最近、HyperSolar社が、ナノテクノロジーを基盤として、水と太陽光から水素と天然ガスを生成することを計画している。同社によると2013年には反応装置のプロトタイプを完成する予定であるという。この手法の詳細は未だ把握していないが、廃水を光のエネルギーを利用して電気分解するようである。電気分解によって発生した水素を炭酸ガス反応させ、天然ガス燃料を製造するという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24554.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T16uD_adr24.google


福島原子力発電所事故の教訓が生かされていない

2012-03-12 | 報道/ニュース

福島原子力発電所の事故から1年、内外のメディアに事故に関連するニュースが多い。海外では、ニューヨークタイムスの「福島の事故は避けられたのではなかろうか」、ABCテレビの「日本は原子力規制システムに何ら改善を加えていない」など批判的なものが見られる。これに対して、日本の新聞、テレビ番組から受ける印象は、政治家、原子炉専門家、メディアが、福島原子力発電所事故の教訓を真摯に受け止めていないということである。

福島原子力発電所事故の最大の問題点は、燃料のメルトダウンに起因する放射性物質の撒き散らしである。もし燃料が運転時の位置に置かれたまま冷却停止状態が実現したならば、放射性物質の撒き散らしもなく、事故は東京電力の問題で日本政府の問題にならなかったはずである。発電所周辺から多くの人々が避難する必要もなかったであろう。原子炉事故で絶対に避けるべきは、放射性物質の撒き散らしである。護るべきなのは周辺住民であって原子炉ではない。今回の事故で撒き散らされた放射性物質の量は原子炉内に含まれる放射性物質の数%に過ぎない。これがもしその2倍、3倍であったら、その被害はますます深刻なものであったろう。

今回の事故で、もし非常用発電機が水没しなければ燃料のメルトダウンなしに冷却停止状態に持ち込めた可能性が大である。そもそもアメリカで設計された原子力発電方式をそのまま地震国日本に持ち込んだのが今回の事故を誘発した根本的原因であろう。原子炉が制御不能に陥ったとき、まず制御棒を戻して核反応を停止しかつ燃料棒を水冷し続けるという基本的な操作を維持出来ない可能性がある原子炉を、地震国の海岸で運転し続けていたことが問題なのである。

アメリカ、EUでは、福島原子力発電所事故後いち早く原子炉安全対策に関して検討し、膨大なレポートを発表した。いずれも福島と同様な地震・津波が発生する可能性がないとしながら、その他の要因による事故対策を詳細に検討したものである。今回政府が発表した事故発生後の議事内容報告書をアメリカの原子炉安全対策レポートと比較しているテレビ局もあったが、日本では原子炉安全対策に関する政府・有識者による検討は全く行われていない。日本では、原子力安全・保安院が各原子力発電所に緊急安全対策を講じるように命じ、その回答を原子力安全・保安院が検討したものが緊急安全対策としてまかり通っている。両者とも原子炉推進派であるので、その結果は当然既存の原子炉の存続を前提としたものになっている。多くの原子力発電所では、非常用発電機が水没する可能性はあるが、非常用発電車で代行出来るという。メディアも専門家もこれに対してなんら疑問をはさまない。

いつどこで大地震・津波が発生するかわからない地震国日本での原子力発電所安全対策は、欧米のものと本質的に異なるべきである。東京電力は想定外の津波が発生したと言い訳の材料にする。今回の事故を教訓に日本の原子力発電所がとるべき安全対策は、震度ならびに津波の高さの想定値を過大にとり、その上で燃料が運転中の位置に存在したままで冷却停止状態に持ち込めることを最優先にするべきである。そのためには恒常的非常用電源・給水システムを何重にも確保する必要がある。

原子力安全・保安院が行った大飯原子力発電所のストレステストの結果も満足すべきものではない(2/1参照)。その報告によると、全く安全なのは津波の高さが4.65メートル以下の場合であって、それ以上の津波の場合11.4メートル以下では補機冷却水が、11.4メートル以上では全冷却水が止まるという。恒久的非常用電源の必要性を認識しているようではあるが、目下準備中とある。当面は非常用発電車で代行するとあるが、非常時にうまく通用するものであろうか。しかも、4.65メートルと11.4メートルとの間は、緊急安全対策として実施した扉や貫通部のシール施工によって保護されているに過ぎない。11.4メートル以上の津波では、福島原子力発電所の事故と同様の災害を受ける可能性がある。IAEAのお墨付きを得たと報じる日本の新聞もあるが、ニューヨークタイムスによると、IAEAのスポークスマンは「危険性と安全性とを天秤にかけて再稼働するかどうかを決めるのは日本政府である」という(2/1参照)。この言葉は、この原子炉に危険性が潜んでいると明言しているのにほかならない。

メディアは原子力安全・保安院の発する情報に全く疑問をはさまないのは何故だろうか。科学技術に弱いのか(9/3,4参照)または官僚に弱いのか。メディアは専門家とともに大飯原子力発電所を調査し、シール施工がどのようなものかまた非常用発電車がどのように設置されているかを報道すべきである。もう一つ、日本の専門家やメディアに関心が薄くアメリカの専門家やメディアが心配しているのは、地震国日本の原子力発電所の燃料貯蔵プールが建屋の高い階層に設置されていることである。運転停止中の原子炉であっても、地震などによりその冷却が止まると今回の4号炉事故と同様放射性物質が撒き散らされる可能性がある。あるテレビ番組で新潟県知事がこの点を指摘したとき、同席していた専門家もメディアキャスターもその発言を無視してしまった記憶がある。

ある原子炉専門家が、太陽光発電や風力発電が安定性に欠くことを原子力発電所再稼働が必要である理由に挙げていたのを記憶する。この態度は容認出来ない。不安定な電源に対する対応措置は揚水発電所などほかにもある。どのように措置するかを決めるのは政府の責任だ。原子炉専門家は、科学者・技術者として「万全の安全対策をとったから再稼働しても問題ない」と言われなければいけない。そう言えるようにすることまたは提言することが科学者・技術者の責任である。いわゆる原子力村の専門家たちは、他の発電方法と比較して原子力発電が有利であるとしか言わない。

原子炉専門家に対するもう一つの不満はもんじゅ(9/16,11/22,2/13参照)に関してである。もんじゅはナトリウム冷却型高速増殖炉で、我が国はもんじゅを実証炉としこれが成功すれば何台かのナトリウム冷却型高速増殖炉を建設しようとしている。しかしながら、冷却材ナトリウムが漏えいしたナトリウム冷却型高速増殖炉は水冷不可能である。水とナトリウムが反応して爆発を起こすからである。ナトリウム冷却型高速増殖炉は地震国日本で建設することは許されない。それにも関わらずもんじゅ計画を中止すべきであるという専門家がいない。

政治家、官僚、原子炉専門家は、福島原子力発電所の事故を教訓に、地震国日本では、原子力発電所に特別な配慮が必要であることを認識すべきである。地震が起こらない国への原子炉の輸出は許されよう。日本で再稼働してもよい原子炉は、少なくも海抜30メートル以上の土地に建設された原子炉、または水没の可能性がない場所に非常用発電機・水冷システムが設置された原子炉であろう。もちろん原子炉本体は出来るだけ新しいものでなければならない。このようにすれば周辺住民の理解が得られやすいであろう。

日本の原子炉専門家は、いつまでもアメリカ発の現在型熱中性子原子炉やナトリウム冷却型高速増殖炉にしがみついているべきではなかろう。強い地震にも耐え得る熱中性子型原子炉や高速増殖炉の開発を目指すべきであろう。アメリカでは、計算機上ではあるが新しい型の原子炉SMRやTWRの開発が進められている(2/13参照)。後者は高速増殖炉の役割も果たすもので、Toshibaもこの計画に関与している。


量子ビットとビット(バイナリディジット):量子コンピューターとは

2012-03-10 | 報道/ニュース

現在使われているコンピューターの動作ユニットはビットである。これはbinary digitの略で、1か0の二つの状態をとることが出来ることを意味する。たとえばトランジスタのゲートに電圧を加えドレインとソースとの間に電流が流れる状態を0、ゲートに電圧を加えないでドレインとソースとの間に電流が流れない状態を1とすれば、0、1のいずれの状態にするかを外部から操作出来しかもいずれにあるかを読み取ることが出来る。

数日前に(3/1参照)超伝導を用いた量子ビットが有望であると記した。それ以外にもいろいろな量子ビットが提案されていて、それらの改良版が次々と報告されている。ダイヤモンドも量子ビットとして有望であるという報告がニュースに出ていたが、その内容は余りにも専門的なので、ダイヤモンド量子ビットの原理だけを説明しておこう。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24523.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T1ljEL8ZxLo.google

ダイヤモンド結晶の炭素原子を窒素原子で置き換えたものが量子ビットになる。窒素の周辺には2個の電子が入ることが出来る。2個の電子スピン(9/25参照)の向きが反対である方がエネルギーが低い。電磁波を加えると容易に電子のスピンの向きを揃えることが出来る。第一の電子をA、第二の電子をBとし、スピンの向きを0または1とすると、エネルギーが低い状態ではA電子が1でB電子が0またはA電子0でB電子が1、エネルギーが高い状態ではA、B電子が共に0または1である。このいずれの状態にあるかは蛍光測定により容易に識別出来る。A原子とB原子とを区別するには、窒素原子核のスピンとの相互作用や、すぐ近くに同種の窒素原子を配置して相互作用を利用する方法が考えられている。

上の例では、電子数が2であったが電子数をさらに増やすことも可能である。以前少し曖昧な説明をしたが(10/13,11/3,3/1参照)、今回の説明で1量子ビットが相当数のビッドをもつ現在のコンピュータのような働きをすることが理解できよう。


プラズモニックスにはいろいろな使い道が:フィルター、太陽光発電、センサー、癌治療など

2012-03-09 | 報道/ニュース

たくさんの電子が集団的に変位すると、残された正の電荷に引き戻される。これによって生じる振動が、プラズマ振動である(11/17,12/21参照)。材料の中でプラズマ振動が生じると振動の起こる場所が移動する。移動するプラズマ振動をプラズモンと呼ぶ。プラズマ振動には固有の振動数がある。その振動数と同じ振動数の光が材料に当たると、共鳴が起こって光のエネルギーがプラズモンのエネルギーに変化する。ナノ粒子のプラズモンの固有振動数はその大きさや形に依存する。

ナノ粒子を周期的に規則正しく配置した系は、その幾何学的配置に応じて光に対して特有な性質をもつ(11/18,12/11参照)。このような系を用いて光を制御する技術をフォートニックスという。金属ナノ粒子を規則正しく配置した系は、ナノ粒子のプラズマ振動固有周波数の光に対して特有な性質を持ち、プラズモンを制御出来る。この技術をプラズモニックスという(11/18参照)。以前に金ナノ粒子によるプラズモニックスを説明した(11/19参照)。

金属ナノ粒子を規則正しく配置した系は、特定の波長の光と共鳴して強く吸収するため、フィルターとして利用出来る。また吸収係数が大きいためプラズモンのもつエネルギーを有効に使うことによって太陽光発電の効率を上げるのに役立つ。また、幾何学的配置に敏感であるため、センサー(生体内センサーを含む)にも利用出来る。

フランス、シンガポールの合同研究グループは、図のような奇妙な形をした金ナノ粒子があらゆる方向から入って来た赤外線を効率良く吸収する。吸収したエネルギーを熱に変え癌細胞を焼き殺すことが出来るという。赤外線は体内を透過するので、その実用化が期待出来る。

                                      
http://www.nanowerk.com/news/newsid=23808.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TvKx_Eai2-Q.google


圧縮天然ガス輸送にもナノテクノロジーが

2012-03-08 | 報道/ニュース

アメリカの3M社とChesapeake Energy Corporation社が協力して、新しい圧縮天然ガス(CNG)用タンクの設計、製造、販売に着手すると発表した。新しいタンクの製造によってCNGの輸送コストの削減を目指している。
http://cleanenergynews.blogspot.com/2012/03/natural-gas-and-nanotechnology-how-3m.html

3M社は、ナノ粒子で強化した複合材料によってすでに業績を上げている(日本では住友スリーエム)。CNGタンクに、その技術を応用することによって10-20%軽く、かつ10-20%貯蔵容量の大きいタンクを、低価格で生産することを目指している。現在使用されているタンクより安全性ならびに耐久性が高くなるだろうという。

ナノ粒子による材料の強化についてはすでに説明した(9/23参照)。貯蔵量の増大についても説明したが(9/22,10/20,21,31,3/2参照)。ナノ粒子を含む複合材料の研究は近年ますます増加の傾向にある。2004年には10編程度であったのが、2008年には120編、2009年には140編を数える。改善される性質も、電気的ならびに熱的性質、センサーの特性改良、エネルギーならびにガス貯蔵、自己修復能力、電磁波遮へい特性、リサイクル性にわたる。


ナノ接着剤

2012-03-07 | 報道/ニュース

カリフォルニア大学の研究グループは、厚さ数ナノメートルの接着剤で、2種類の材料を強く接着出来ることを明らかにした。接着性がきわめて強く、半導体を接着した場合、引き剥がそうとすると半導体が先に壊れるという。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24475.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T1V5X0xrHl0.google


接着剤に用いられた材料は、ポリジメチルシロクサン(PDMS)である。この材料はシリーパティーやシリコーングリースの主要材料である。他の材料と良く接着することは以前から知られていた。研究グループは、厚さ数ナノメートルのPDMSに特殊な酸素処理を施すことによって、他の材料との接着性が生じることを見つけた。

このナノ接着剤の特徴は、広い範囲の材料に適用出来ること、接着剤の量が少なく材料の表面構造に大きな影響を与えないこと、接着剤をプリントすることにより局部的な接着が可能であること、接着操作が単純で広い応用範囲を持つことであるという。ただし平坦な材料しか接着されない。シリコンチップを積み重ねる3次元エレクトロニクス(12/14参照)において、シリコンチップ・支持台間の接着への利用が考えられている。このほか、タイルへの接着など日常生活にも使用可能であるという。


ナノテクノロジー関連企業の国際的な動き

2012-03-06 | 報道/ニュース

昨日のNonowerkニュースに掲載されていたナノテクノロジー関連企業の国際的な動きを紹介しよう。

東京エレクトロンがスイスのOerlikonグループの太陽光発電部門Oerlikon Solarを買収するよう計画が進行中であるという。Oerlikon Solarは、薄膜シリコン太陽光発電モジュール(1/4参照)の大量生産ラインを所有している。従業員675人、世界中8カ所で活動している。同グループは、この売却によってさらに新しい分野での進展を目指している。一方、東京エレクトロンは半導体製造装置の世界的なサプライヤーである。太陽光発電ビジネスを取り入れることによって、環境問題にも配慮した新しい発展を期待しているという。

リン酸鉄リチウム電池を開発し製造しているアメリカのA123 Systems社と中国最大の自動車製造会社SAICは、両者の協力関係を強化すると発表した。リン酸鉄リチウム電池は、陰極にリン酸鉄リチウムを用いるリチウムイオン電池(11/1,25参照)である。A123 Systems社は、リチウムイオン電池の開発ならびに製造に携わって来た著名な会社である。リン酸鉄リチウム電池Nanophosphate®は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発されたもので、同社が独占販売権を持つ製品である。高い蓄電能力と高いエネルギー密度を誇る製品である。SAICとの提携により、ATBS(先端的車両用バッテリーシステム)というジョイントベンチャー企業を立ち上げている。ATBSはすでにSAIC社の車両用バッテリを提供しているが、今回の提携強化により、中国の新エネルギーイニシアティブ計画に呼応した多目的蓄電池の開発を目指しているという。

IBMはバッテリー500プロジェクトを立ち上げた。リチウムエアー電池を用いて、1回の充電で500マイル(800キロメートル)走れる蓄電池の開発を目指している。。リチウムエアー電池とはリチウムイオン電池の1種で、陽極でリチウムを酸化させ陰極で還元させる。各国の自動車会社は、この成果を注視していることであろう。


ナノコーティングによる建築物のセルフクリーニング(自浄作用)

2012-03-03 | 報道/ニュース

以前に(12/17)、ナノコーティングによるセルフクリーニング繊維について説明した。セルフクリーニングには2手法が開発されている。はす(ロータス)効果、もう一つは酸化チタンの光触媒作用である。セルフクリーニングが建築物にも適用されようとしている。両者とも水がしばしば流れるところでなければ用をなさない。表面にごみが溜まってしまうとコーティングで施したナノ粒子が作用しなくなるからである。酸化チタンについては、抗菌作用も期待出来るが、光と水が必要である。また、毒性の恐れもある。

ヨーロッパにはPICADAプロジェクトがあって、ビルディング外壁を酸化チタン含有コーティング剤で塗装することを試みている。すでにミラノのビルディングの壁7000平方メートルを塗装し、周辺の酸化窒素量が60%減少したと報告している。また酸化チタンナノ粒子は壁材料と結合し、もはやナノ粒子ではなく従って毒性がないと報告している。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24381.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T0bx3qRf3BM.google

日本のTOTO社は、HydroceraとHydrotectの2製品を発売している。前者は酸化チタンを後者はロータス効果を用いるので、前者はトイレなど陶器類に後者は建築材料に使用されている。酸化チタンは自然界の存在する安全な材料であるとしている。

このほかにも、セルフクリーニングに関する研究が報告されている。蝶々の羽はその表面に空気中の窒素や酸素の分子を捕えるため、水が付着しない。このことにヒントを得て、スウェーデン、アメリカ、韓国の共同研究チームは、シリコンの表面に孔、突起、溝、盛り上がりなどを造ることによって、水が付着し難くなることを見つけた*1。同時に、この表面は光を良く吸収するという。また、ドイツの研究チームはガラスにその主成分である酸化シリコンなどのナノ粒子を付着させることによって、セルフクリーニングが可能になることを明らかにした*2。ナノ粒子は小さいためガラスの光の透過性に影響を与えない。

*1http://www.nanowerk.com/news/newsid=23461.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TssB_0s_RL8.google
*2http://www.nanowerk.com/news/newsid=23652.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.Tt7UYo1EZqU.google


金属・有機構造体(MOF):水素燃料タンクから炭酸ガス捕獲まで

2012-03-02 | 報道/ニュース

金属・有機構造体(MOF)とは、多孔性の結晶性材料で、有機物材料が主要構造体をなし、金属原子が随所に結合したものと考えればよい。その一例を下に示す。孔の体積が全体の体積の90%を占めるものまである。表面積が大きいことが特徴で、しかも有機材料や金属の種々の組み合わせが可能である。そのため、その応用範囲が広い。クリーンエネルギー分野では、燃料ガスの貯蔵、さらに炭酸ガスの捕獲に利用されようとしている。そのほか、浸透膜、触媒、医療用イメージングなどへの応用が考えられている。

以前述べた燃料電池(10/16,17参照)用水素やメタン燃料の貯蔵法として有力視されている。また、火力発電所などで放出された炭酸ガスを吸収するのに用いられようとしている。炭酸ガスを20%以上取り除くことが出来るMOFも開発されているようだ。捕獲した炭酸ガスの量が化学工業用に消費するには多すぎるので、地下に埋没することなどが考えられている。

捕獲効率の高いMOFを探る理論的研究(アメリカローレンスバークレイ国立研究所)や高効率のMOFの試作(ノースウェスタン大学)などのニュースが報じられている。
                                


量子コンピューターに見通しが

2012-03-01 | 報道/ニュース

現在開催されているアメリカの物理学会講演会で、IBMの研究者は量子コンピューター研究の近況について講演し、かなり実現に近づいていると報告するようだ。

現在使用されているコンピューターの情報処理の基本ユニットはビットで、一つのビットとの数値が0であるか1であるか、あるいはonであるかoffであるかを決める。量子コンピューターでは、基本ユニットが量子ビット(qubit,11/3参照)である。量子力学では粒子の間に絡み合いがある。0または1の2状態を取り得る2個の粒子からなる量子ビットでは、00,01,10,11の4状態が識別出来る。各量子ビッドが、粒子が0の状態をとるかまたは1の状態をとるかを同時に決めることになる。粒子の数を増やすことも出来る。計算スピードが格段に増加することが理解できよう。

すでにいろいろな超伝導量子とが提案されているが、動作誤差が問題である。IBMの研究によると、超伝導体を用いた量子ビットがかなり高い精度で動作するようである。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24411.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T01-Hk_bHZc.google

2月17日付のニューヨークタイムス紙にも量子コンピューターの記事が掲載されていた。Scott Andersonという量子コンピューターが専門のMIT教授の記事であるが、量子コンピューター計画が進行すると、その計算速度は計り知れないほど大きくなるそうだ。その発展は十分期待出来るが、実現までに何年かかるか予想出来ないという。現在使われているコンピューターの青写真が作られたのは1830年代であるが、その当時コンピューターの実現まで予想出来なかったのと同様の状況であるともいう。

この記事には興味ある指摘がなされている。ナノテクノロジーに関する問題など、材料の物理や化学には量子力学(8/19,24,27参照)が使われている。もちろん現在のコンピューターで計算が可能であるが、その精度が限定されている。量子ビットは量子状態をそのまま使うのであるから、この分野での格段の進歩が予想される。量子ビットの概念を用いると量子力学が教えやすくなったともいう。