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グラフェン分子:グラフェンと類似の性質をもつ材料が作成出来る

2012-03-21 | 報道/ニュース

以前に(10/10参照)、グラフェンは禁止帯の幅が0である半導体で、金属と同様に振る舞うと説明した。また、グラフェンナノリボンの端面の構造によって、半導体になったり金属になったりすることも述べた。その時に説明しなかったことを次に述べよう。

 グラフェンの中では電子がこれまで知られていた材料と全く異なった振る舞いをする。下図は、伝導体と価電子帯の中でのエネルギーと運動量との関係を示する。左はこれまで知られている材料の場合である。電子の運動量は、質量と速度の積、エネルギーは質量と速度の2乗の積で、放物線を描く。右はグラフェン中の電子の場合で、普通の材料と全く異なっていることがわかる。右のようなエネルギーと運動量との関係をもつのは光子(9/27,11/18/19)である。光子の運動量は波長に反比例し、またエネルギーは振動数に比例する。したがってエネルギーは運動量に比例し、その比例定数が速度となる。光子は質量を持たない粒子である。グラフェンの中では電子が質量を持たない粒子のように振る舞うことになる。グラフェン中の電子の詳しい性質は、まだ十分明らかにはなっていない。


上のようなグラフェンの性質を反映して、電界のもとでのグラフェン中電子の移動が、他の半導体に比べて著しく速い。このことは、グラフェンがエレクトロニクス素子として有望であることを示すが、グラフェンのエレクトロニクス素子として使いこなすには、まだ20年を要するともいわれている。

スタンフォード大学の研究グループが、グラフェンと全く同様な性質をもつ新しい材料を作り出すのに成功した。それは銅結晶の表面に一酸化炭素分子を並べたものでグラフェン分子と呼ばれている。走査型トンネル顕微鏡(8/26,9/17/10/11参照)を用いるとこのような操作が可能ではあるが、自己アセンブリ(10/24参照)の利用を計画中であるという。一酸化炭素の密度を変えることによって、伝導体にまで電子が存在するようにすることや、価電子帯に正孔を作ることも可能であるという。
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この研究は、グラフェン中の電子挙動の解明や同様の性質をもつ新物質の探索など新しい基礎ならびに応用研究のきっかけになると考えられる。