原子力発電、火力発電、太陽光発電のいずれについても、入力したエネルギーがすべて電気エネルギーに変換されているわけではない。入力したエネルギーの半分以上が熱エネルギーになってそのまま放出される。自動車でも、消費したエネルギーの30%が運動エネルギーに変換されていて、残りは熱エネルギーになっている。熱電効果を用いると、これらのエネルギーを電気エネルギーに変換し有効に利用することが出来る。
熱電効果とは、二つの材料を接触しておき、それらの間に温度差を与えると電圧が発生する現象である。この効果は、ずいぶん古くから知られている。すでに、宇宙では核分裂によっておのずから熱くなるプルトニウムと外界との温度差を利用して発電している。自動車の排気ガスのもつ熱を電気エネルギーに変換する試みもある。
熱電効果にこれまで使われている材料は、2種類の重金属、または化合物半導体のpn接合(10/2参照)である。現在のところ、高い効率(10%程度)の熱電効果が得られる化合物半導体は、重金属化合物のみである。これらはいずれも高価でしかも毒性が強い。ノルウェーの研究グループは、毒性がない安価な材料で高効率の熱電効果を起こす材料を探索している。
高効率の熱電効果を達成するには、二つの材料間の温度差を保つ必要がある。したがって、これらの材料には、電気をよく通すが熱をあまり通さないことが要求される。材料が熱いということは、その材料中の原子が強く振動していることを意味する。熱を通すということは、この振動が材料の熱い部門から冷たい部分に伝わっていくことである。大きな結晶の中ではこの振動が伝わりやすいが、ナノ粒子の集合体を作ると、その境界で振動が伝わりにくい。しかし、電子は境界を容易に超えることが出来るから、ナノ粒子の集合体は電気をよく通し、熱をあまり通すことがない。熱電効果に理想的である。
ノルウェーの研究グループは、液体窒素温度(約-200℃)で化合物半導体をナノサイズ粒子に粉砕した後接着すると、熱をあまり通さなくなることを確かめている。彼らは、このようにして熱エネルギーの約15%を電気エネルギーに変換出来るシステムの作成を目指している。ゼネラルモーターなど自動車メーカーもこの成り行きに興味を持っているとのことである。
熱電効果を起こす系では、電圧を加えると温度差が生じる。うまくいけば、無音の電気冷蔵庫が出現するかもしれない。
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