フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

男性不信 池松江美著

2013年06月13日 08時59分13秒 | 読書・書籍

 池波江美とは、辛酸なめ子さんの本名である。漫画は辛酸なめ子で、小説は本名で書くらしい。
 「男性不信」
は自伝的小説である。この小説を読むと、あの辛酸なめ子さんの独特な世界観はこのように作られていったのだなぁと深く理解できる。
 
 世の中の男は女性を美醜で判断する。可愛い子は得をしブスな子は損をする社会。
 可愛くなかった辛酸なめ子さん(個人的にはそうは思わないが)は子供の頃から傷つけられ、男を憎むようになる。
このように書くとちょっときつくなるが、実はそうでもない。
 
 ちょっと小説の中の文章を引用してみよう。

 男にいやらしい気持ちを抱かせないよう、スキを見せないよう、私は常に細心の注意を払っています。私の心の中のドグマの一部をご紹介しましょう。
一、男と視線を三秒以上合わせないようにする。
一、寝顔はぜったい見せない。電車の中で眠い時は額に手を当てて隠す。
一、男の視線を感じたら、体をポリポリ掻いたり、顔をしかめたり、萎えさせる動作をする。
一、セクハラされる前に、怒涛の下ネタで相手を引かせる。
一、有名人の男に対しては警戒を200%に強める。
  
 なんて変な女なのだろうか。読みながら笑いっぱなしだった。
 そして、この笑いはなんなのかちょっと考えてみた。
 たぶん、男との距離のとり方のドタバタに思わず笑ってしまうのだろう。この微妙な距離感は、彼女が男嫌いであると同時に男好きだからである。だから、くっついたり離れたり絶妙な距離の保ち方をする。そして、男は彼女のような女性を可愛いと思ってしまう。それもある種の計算である。
 もし彼女が男にまったく興味のないレズなら、男はうっとうしいの一言で終わるだろう。

 彼女の表現の天才的なところは、男女間の微妙な性的心理をユーモアをもって描けるところである。もし性的対象とされる女性側の恨みを磨き上げ、男性の喉元にきつける表現なら、ほとんどの男性はそれに震え上がってしまうだろう。
 この小説は、男性社会のいやらしい部分とそれに翻弄される女性の不条理をズバッと突いているのである。
 最近話題になったいくつかの社会的問題は、女性の社会的立場についての問題が多い。例えば、売春、柔道のセクハラ問題、子育てと仕事の両立などである。
 このような女性を抑圧する問題は、なかなか解決しない。社会の構造自体が女性を抑圧するのか、女性の個別的な生物的・身体的特徴が要因となって抑圧的社会を作るのか、その視点の違いで問題の捉え方が変わってくる。
 社会構造は変えられるが、女性の性は変えられない。だから、女性の本質的な部分を抜きに、こうあるべきとの社会構造を考えても無意味だと個人的には考えている。
 これは非常に古くてかつ解決しなければならない新しい問題である。
 
 私も若いころは女性の社会的立場の弱さなんか考えたこともなかった。しかし、最近は多少は理解できるようになった。
 問題の解決には、まずは男女間に違いがあることを認識しなければならない。その性差がどのような問題を引き起こしているのか想像力を働かせることである。
 そもそも問題の認識がなければ、解決はありえない。
 
 女性と男性の性差を意識するためにも、この小説は読む価値のある本である。また、女性心理を深く研究することができる。そして、これが一番だが、腹を抱えて笑うこともできる。

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